99回告白したけどダメでした

Joker0808

115話




「ただいま~」

「あら、お帰り」

 家に帰宅した誠実は、改めて財布の中身を確認し絶望する。
 まさか本当にたこ焼きを奢らせられるなんて思ってもおらず、誠実の財布はすっかり軽くなってしまった。
 このままではやばと感じた誠実は、母に小遣いの交渉を試みる。

「お母様」

「なによ、気持ち悪い」

「ちょっとお願いが……」

「ダメ」

「まだ何も言ってねーよ!!」

 内容も聞かないうちに断られてしまい、納得のいかない誠実。
 母はキッチンで晩ご飯の支度をしながら、誠実に言う。

「どうせ小遣いでしょ? うちにそんな余裕は無いの」

「頼むよ! 次からはバイトしてなんとかするからさ~」

「じゃあ、そのバイト先を決めたら渡す事にするわ、それまでは我慢なさい」

 母に断られ、誠実は肩を落として部屋に戻っていく。
 これは早いところバイトを探さなければ、夏休みに遊びに行けなくなってしまう。
 そう考えた誠実は、朝の美奈穂の話しを思い出し、詳しい話しを聞く為に美奈穂の部屋に向かった。

「美奈穂? 居るか?」

 二回ノックした後に声を掛ける誠実。
 なにやら物音がした後に、美奈穂は部屋から顔を出した。

「ど、どうしたの?」

「いや、今日の朝のバイトの話しを……ってかお前何してたんだ?」

「な、何もしてないわよ!」

「いや、でもなんか息が荒いような……」

「気のせいよ! 後でそっちの部屋にいくから、ちょっと待ってて!」

 そう言って美奈穂は部屋のドアを閉めた。
 誠実は美奈穂に言われた通り、部屋に戻って待っている事にし、自分の部屋に戻って行った。
 数分して、誠実の部屋をノックし美奈穂が入って来た。
 ラフな部屋着姿で、どうやら風呂に入った後らしく、ボディーソープの良い香りがした。

「お、やっと来たか」

「何? バイトするの?」

 椅子に座りながら、誠実は美奈穂の方を見て話し、美奈穂はベッドに座って話しを始めた。
「まぁ、金が無いしな……先立つ物が無いと、遊びにもいけないし」

「万年金欠だもんね、おにぃ」

「ほっとけ!」

 美奈穂は中学生だが、モデル仕事をしている為、誠実よりも金を持っている。
 その大半は服や化粧品に使ったりしているが、一部は家に入れている。

「で、今朝話したバイトの話しだけど……」

「お、おう……」

「期間は来週の水曜から金曜までの三日間、それで日給が15000円よ」

「おぉ! それはなんとも高額なバイトだな! で、どんな内容なんだ?」

 金額を聞いただけで誠実は興奮した。
 こんなに割の良いバイトはないかもしれないと、早くもこのバイトをする気満々だった。

「内容は……主に雑務ね…」

「雑用係か……まぁ、技術とか要らなさそうだし良いな! で、どこでやるんだ?」

「海よ」

「そうか! 海か! ……ん? 海?」

 場所を聞いた誠実は不思議そうに、美奈穂に尋ねる。

「そ、海。後山かな?」

「え? どういうこと??」

 誠実はどこかの会社の雑務のバイトだと思っていたが、どうやら違うらしい。
 不安になり美奈穂に尋ねてみると、美奈穂は悪戯っぽく笑いながら言う。

「私の撮影の雑用係よ、2泊3日で撮影だからそのときに一緒について来て、雑用してもらう仕事」

「はぁぁ?!」

 まさか美奈穂の仕事の雑用係だとは思わなかった誠実。
 しかも泊まりと言うことで、バイト代が高額な事を理解した。

「それはちょっとパスだな、妹と同じ仕事場って言うのはちょっと……それにそんな仕事、募集すれば直ぐに埋まるんじゃ……」

「こういう仕事は、外部から募集すると熱狂的なファンとかが来て、モデルさんの私物を盗んだりするから、極力身内で探すのよ」

「あぁ、なるほど……なら他を当たってくれ」

「良いの? お金ないんでしょ?」

「うっ……」

 痛いところを突いてくる美奈穂に、誠実は何も言い返せない。
 ここでこんなに美味しいバイトを逃しても良いのだろうか? 今からバイトを探しても、短期のバイトの空きなんてあるだろうか?
 そんな事を考え出してしまい、悩む誠実。

「中村さんも居るし、私も一緒なんだからそこまで心配要らないわよ」

「う~ん、しかしなぁ……」

 悩む誠実に美奈穂は最後の切り札を使う。

「今なら、プラス5000円って言ってたわよ」

「よし、やろう」

 こうして誠実のバイト先が決まった。
 誠実の決定に、美奈穂かニヤリと口元を歪める。





 テストの返却も無事に完了し、誠実達は無事に夏休みを過ごせる事が決定した。
 そして終業式の日。
 朝から誠実達生徒は体育館に集まり、全校集会の真っ最中だった。
 いつも通りの校長の長話を聞き、夏休みの過ごし方などの話しを聞いていた。

「あ~あっち……」

 誠実はワイシャツの胸元をパタパタしながら、一人でそんな事をつぶやく。
 体育館には冷房設備なんて物は無いので、熱中症になるんじゃないかと言うくらいに熱が籠もっていた。

「早く終われば良いのにね」

「だよなぁ~」

 隣に座る沙耶香が誠実に笑顔でそう言う。
 並びが主席番号の為、武司と健とは離れてしまった誠実だったが、沙耶香とは隣になり、話し相手がいて良かったとつくづく思っていた。

「そういえば、誠実君はテストどうだったの?」

「おかげさまで赤点は回避したよ、でも前より成績は下がったけど……」

「そっか……武田君は? 全教科80点以上を目指してたはずじゃ……」

「あぁ、それなら初日で終わったよ、でもあいつにしては奇跡的なほどに良い点数だったよ。本人も満足してた」

「それなら、まぁ良いのかな?」

 校長の話を聞かずに、誠実と沙耶香は話しに夢中だった。

「あ、あのさ……この前言ったデートの話しなんだけど……」

「お、おう……」

 テストが終わった日の放課後、沙耶香は誠実にデートをしないかと話していた。
 普段は先ほどのような感じで気さくに話す二人だが、こういう話しになるとどこか気まずくなり、もじもじし始める。

「ら、来週の土曜日なんて明いてるかな? え、映画とか行きたいんだけど……」

 沙耶香に言われ、来週の予定を思い出す誠実。

 (水曜から金曜はバイトだが、土曜日は何もないな……)

 誠実は何も予定がないことを確認し、沙耶香に返事をする。

「土曜日なら大丈夫だぜ、何を見たいんだ?」

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