99回告白したけどダメでした

Joker0808

89話




 翌朝の事だった。
 いつものように誠実が教室に向かうと、おかしい点がいくつかあった。
 一つは女子から度々聞かれる質問にあった。

「三人の中で誰が受けなの??」

 こんな事を度々女子から聞かれ、誠実は「受け?」と質問の意味がわからずに聞き返す事を続けていた。
 そう言うと、女子は決まって勝手に一人で盛り上がり、誠実の話を最後まで聞かずにどこかに行ってしまっていた。

「なん何だ……」

 意味不明の質問が終わり、誠実が教室に向かうと、教室内でも普段と違う、おかしい出来事が起こっていた。
 
「た、武司が……勉強してる?!」

 いつもなら、誠実よりも遅く来ることが多い上に、早くに登校してきて勉強するなんてことが今までの武司は無かった。
 受験の時でさえ、武司がそこまで勉強していたようには見えなかった。

「お、おい……武司ってもしかして……本気で?」

「あぁ……そうらしい、さっき話かけたら、勉強に集中したいから話かけないでくれと言われた」

 先に来ていた健に話を聞き、誠実は驚きながら武司の姿を見ていた。
 クラスメイトも武司のそんな光景に驚いていた。
 テスト前と言うこともあり、授業は自主学習が主体になる誠実達の学校、しかしちゃんと勉強する生徒は少なく、大抵の生徒はスマホを弄ったりしていたりするのだが、授業中も武司は勉強を続けていた。
 わからないところを先生に聞き、ずっと勉強を続けていた。

「なぁ……どう思う?」

「どうって、何がだ?」

「武司の事だよ、あいつ全教科80点以上取るとか言ってたけど……大丈夫か?」

「正直無理だと思う、あいつはお世辞にも勉強が出来るタイプじゃない、それに期間が短すぎる」

「だよな、無理しなきゃ良いんだが……」

「そんな事より、今日も勉強会するのか?」

「ん? そのつもりだけど……なんでだ?」

 何かに怯えるように、武司は無表情のまま肩を振るわせ誠実に尋ねる。
 誠実は何かあったのだろうかと不思議に思いながら、健に聞き返した。

「いや……島崎も来るのなら……今日は遠慮……」

「私がどうかした?」

「あ、島崎」

「誠実、後は任せた!」

 廊下で話をしていた誠実と健の元に、鈴が笑顔で近寄ってきた。
 健は鈴を見ると目にも止まらぬ早さでその場から立ち去って行った。

「あ! 待ってよ古沢君!」

 逃げる健を追いかけて、鈴もその場から走り去る。
 一人残された誠実は、状況がよくわからず、その場でポカンと立ち尽くす。

「なんなんだ……」

 なんだか友人二人の様子がおかしいと思いながら、誠実は教室に戻って行こうとする。

「誠実く~ん」

「ん? 何だ美沙か……」

「何だとはなんだよぉ~」

 教室に戻ろうとしていたところを美沙に声を掛けられる誠実。
 相変わらず距離の近い奴だと思いながら、誠実は美沙を見る。

「んで、なんかようか?」

「用があるのはそっちなんじゃない?」

「は? 俺がお前に用事なんて……」

 何もない、そう言おうとした誠実だったが、よくよく考えて見ると誠実は美沙に告白されていた。
 しかも答えは未だに保留にしており、用時がないわけではない。
 しかし、いろいろあってそんな事を考えている暇も無かった上に、明後日にはテストもある。

「すまんが、返事ならもう少し待ってくれないか……」

「あぁ…そっちもだけど、綺凜の事は気にならない?」

「え……あぁ……まぁ……」

 正直言うと、今は綺凜の話を誠実は聞きたく無かった。
 誰にどんな事を言われても、誠実の中では綺凜を守れなかった自分が許せなかったからだ。
「昨日ね、綺凜のお見舞いに行ってきたの。綺凜、色々言ってたよ……もちろん誠実君の事も……」

「やっぱり……知ってるのか……」

 誠実は綺凜には笑っていて欲しかった。
 自分を好きでなくても、ただ綺凜が笑っていてくれるだけで誠実は良かった。
 なのに、誠実がした事が原因で、綺凜を不幸にしてしまった。
 それが誠実はショックだった。

「誠実君はさ、これから綺凜とどうなりたいの?」

「え……どうって、俺は振られてるんだし……」

「じゃなくて、友達とかになる気は無いの?」

「え……それは……」

 考えた事も無かった。
 誠実は告白して振られた後は、綺凜とは何もなく、ただ廊下ですれ違ったら挨拶する程度の関係で終わりだと思っていた。

「無理だと思ってた?」

「そりゃあそうだ……気まずいだろ……」

「逆にこうは考えられない? それだけ告白したんだから、もう他人には戻れないって」

「は? どういう意味だよ」

 美沙は誠実に笑顔で話しを続ける。
 
「だってだよ、そんな何回も告白して、急に音沙汰が無くなるのも変じゃない?」

「ん……まぁ、確かに不自然だな……」

「でしょ? だったら、私を彼女にして綺凜と友達になれば、すべて上手くいくのよ! わぉ、私頭良い!」

「ちょっと待て、一つ完全にいらない項目があったよな!?」

 本気で言っているのか、それともおふざけなのか、誠実は不思議に思いながら、美沙を
見る。

「でも、そういう手もあるってこと! 綺凜の事……まだ好きでしょ?」

「………もうあきらめたよ」

 美沙の顔から笑顔が消えた。
 きっとこの質問は、美沙の中では複雑な質問なのだろう。
 だから、先ほどまでのふざけたような態度ではなく、真剣な雰囲気で誠実に問う。
 誠実はそんな美沙に、好きか嫌いかとは答えず、ただあきらめたとだけ言う。

「そっか! じゃあ、そのうち私に良いお知らせが来るのかな? じゃあ、午後の授業あるから!」

 美沙はそう言って自分のクラスに戻って行った。
 綺凜の事も確かに気になっていた。
 しかし、誠実は綺凜と顔を合わせるのが、正直嫌だった。
 また悲しませてしまうのではないかと思うと怖かった。

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