99回告白したけどダメでした

Joker0808

79話




「守らないと言ったら?」

 誠実は駿のその言葉に、一つため息を吐き呆れた表情で応える。

「それなら、こうして……こうする」

「お、おい! 何着せてんだ! やめろ! 俺にそんなものを着せるな!」

 誠実は自分が来ていたはっぴを脱ぎ、駿に着せてパンツ一丁にさせる。
 駿は体を動かす力が残っておらず、抵抗が出来ない。
 誠実は、そんな駿の姿をスマホで撮影し、駿を見てニヤリと笑う。

「この画像をネットにアップする」

「お前も十分クズじゃねーか」

 誠実は写真を撮り終えると、表情を変え真剣な様子で駿に話す。

「嫌ならあの人を幸せにしろ、絶対に泣かせるな」

 誠実の言葉に、駿はため息を吐きながら応える。

「なぁ、そこまで好きなら、本当の事を話して綺凛の好感度上げて、お前が幸せにしろよ。なんで俺に頼む?」 

 誠実は笑いながら、駿に言う。

「ここでそんな事したら、俺の利用され損だろ? 俺はあの人に利用されるなら、本望だね」

 誠実の返答に、駿は深いため息を吐く。
 そして誠実は最後に、悲し気な笑顔でこう言った。

「……俺じゃダメなんだよ………」

 自分はいくらやっても綺凛を振り向かせられなかったこと。
 誠実は、自分では綺凛を笑顔に出来ないとわかっていた。
 誠実は、駿にそう言い残すと健と武司の元にゆっくり歩いて行った。

「よぉ、お前らボロボロだな」

「その言葉…そっくりお前に投げ返すよ。で、もう終わったのか?」

「あぁ……多分もう大丈夫だ」

「なら帰ろう、俺は疲れた」

 誠実達はフラフラになりながら、工場を後にしようと、出口に向かう。
 そこで誠実は振り返り、駿に向かって大声をあげる。

「約束、忘れんなよ!」

 言われた駿は、倒れたままで何の反応もしない。
 しかし、駿の頭の中では誠実に言われた言葉が突き刺さっていた。

「……幸せに……か」

 駿はそうつぶやくと、そのまま目を閉じ考え始めた。
 これからどうするべきか、何をするべきかを……。





 工場を後にした誠実達の少し後で、綺凛は一人帰りの道をとぼとぼ歩いていた。
 綺凛の頭の中は混乱していた。
 工場内で聞いた話が信じられず、どうしたら良いか分からなかった。
 
「……私、最低…」

 自分に好意を向けてくれていた相手を利用し、更には疑った。
 信じていた人は、今までの事がすべて嘘だと話していた。
 もう何が何だか分からなくなっていた。
 綺凛は頭を抱えながら、家へと帰る。





「あ! おい! それは俺の肉だ!!」

「いや、俺のだね! てか食いすぎなんだよ誠実!」

「全く、バイキングなんだから、取ってくれば良いだろう」

 工場での激しい戦闘を終えた誠実達は、打ち上げを兼ねてバイキングレストランに来ていた。
 時間も丁度晩飯時で皆お腹が減っていた事もあり、誠実達は夢中で料理にかぶりついていた。

「これで、なんの心配も無くなった……これで俺はスッパリ諦められる」

「誠実はバカだな~、あいつの悪事全部を山瀬さんに言えば、お前の好感度が急上昇だったかもしれねーのに」

「良いんだよ! それに……もう諦めるって決めたんだ」

 寂しそうな笑顔で、誠実は向かいの席に座る健と武司に言う。

「本当にお前はお人好しだな、あまり優しすぎるのもどうかと思うぞ?」

「そうか? 俺は好きな奴には優しいんだけだよ。嫌いな奴は嫌いだ!」

「……その嫌いな奴を好きになるから、お前はお人好しなんだよ……」

 健は呆れた感じでそうつぶやいたが、顔は笑っていた。

 席に戻り、健は気になっている事を誠実に尋ねる。

「で、結局お前はこれから誰と付き合うんだ?」

「ふへ? 誰って?」

「現状は前橋と笹原のどちらかだが、どうせ今後も増える」

 沙耶香と美沙の名前が出て来たところで、誠実はすっかり忘れていた事を思い出した。
 それは現状告白を保留にしている沙耶香の件と、告白の返事をまだしていない美沙の件だ。

「そ、そう言えば……そうだな……」

「スッパリ諦めたなら、あいつらの事を考えてやるべきだ」

「ふぁふぃかにふぁ! ふぉれふぁふぃふぇふぇる!」

「武司、飲み込んでからにしろ」

 健に言われ、誠実はその通りだと思った。
 同じ恋をしていたから誠実には分かる。
 告白した瞬間のドキドキ、返事を聞いた時の絶望。
 そして、告白するのにどれだけの勇気がいるかを……。

「そうだな……とりあえず、美奈穂に相談してみるよ。女子の気持ちは、同じ女子が良くわかるだろ?」

「あぁ…誠実……それはやめとけ」

「ん? なんでだよ?」

「お前の明日の為だ……」

「はぁ?」

 武司の言葉の意味が分からず、誠実は首を傾げる。

「それより、あと何十分だ?」

「大丈夫だ40分ある、肉取って来ようぜ!」

「野菜も食べなさい」

「健……お前はおかんか、良いだろ? 疲れちまって、肉が食いたいんだよ!」

「おい誠実! 特上カルビが追加されたぞ!」

「おぉ! よし取って来よう!!」

 そう言って誠実武司は席を立ち、肉のコーナーに一目散に向かって行った。
 そんな二人を見ながら、健は笑みをこぼして昔を思い出す。

「……助けてもらった……か」

 ぽつりとそうつぶやくと、健は席を立ち誠実と武司の元に向かい、肉を取るのを手伝い始める。

「カルビは俺の好物だ、もっと盛れ」

「おいバカ! 盛りすぎだ! こんなに食えねーよ!」

「武司ならいけるよな?」

「なんで俺?!」

 工場での激闘が嘘のように、誠実達は笑い合っていた。


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