99回告白したけどダメでした

Joker0808

18話




 翌朝、誠実は昨日とは違った意味で、学校に行きたくなかった。
 昨日の沙耶香との事があり、正直どんな顔で朝話しかければ良いか、分からないからだ。
 洗面所で顔を洗い、どうしたものかと悩む誠実。

「まいったなぁ……」

「何がよ?」

 顔をタオルで拭いていると、美奈穂が制服姿で誠実に尋ねてくる。
 昨日、二人で食事に行った帰り辺りから、会話が増えたこの兄妹。
 しかし、誠実の方はまだ、そんないつもとは違う日常に、慣れることが出来ないでいた。

「み、美奈穂か……お、おはよ……」

「何よ、ハトが豆鉄砲食らったみたいな顔をして……終わったんなら洗面所貸してくれる?」

「お、おぉ……悪い」

 誠実はそう言って、美奈穂に洗面所を開け渡す。
 嫌われているものだと思っていた誠実だったが、昨日の食事で、それが勘違いだと言うことに気が付き、安心したものの、なんだか普通に会話しているのが不思議に思えてしまう。

「まぁ、仲が悪いよりましか……」

 誠実はそのまま食事をしようとリビングに向かう。

「おはよ」

「あぁ、誠実おはよう、昨日はすまなかったな、おかげで父さんは……二日酔いだよ……」

「飲みすぎだっての、今日も仕事なんだろ?」

 リビングに行くと、誠実の父親が顔を真っ青にしながら新聞を読んでいた。
 誠実は椅子に座り、準備してある朝ごはんを食べ始める。

「母さんは大丈夫なのか?」

「大丈夫よ、全く、お父さんは、だらしないんだから」

 誠実の母はいたっていつも通りで、家事をこなしている。

「母さん、父さんの二倍近く飲んでたはずなんだが……」

「マジかよ……」

 父の言葉に、誠実は驚きながら答える。
 半分の量を飲んだ父が二日酔いなのにも関わらず、その倍を飲んだ母がここまでピンピンしている姿に、誠実は驚きを隠せなかった。

「母さんって、前世は蟒蛇(うわばみ)なんじゃ……」

「何か言った?」

「「言ってません!!」」

 母に聞こえていたらしく、怒りの視線を向けて言って来る母に、誠実と父は声をそろえて言う。

「まったく……早く食べないと、二人とも遅刻するわよ」

 フンっと鼻を鳴らしながら、母も食卓に着き、朝ごはんを食べ始める。
 ちょうどその時、身支度を済ませた美奈穂もリビングにやって来た。

「おはよう」

「あら、美奈穂おはよう。どうしたの? 今日はいつもより身支度に気合入れて…」

「そ、そうでもないよ……お母さん気のせいだよ」

 不思議そうに美奈穂に尋ねる母。
 誠実も気になり、横の美奈穂を見るが、いつもと変わりないような気がしていた。

「なるほどぉ~、さては彼氏でもできたなぁ~、父さんも母さんと知り合ったのは、中学生の時だった……なぁ、母さん!」

「そうでしたっけ? あ、誠実、お醤油取って」

「ん、はいよ」

「……母さん、最近冷たすぎやしないかい……」

 なんてことを言いながら、さらに顔を青くする背実の父親。
 うちの家計は代々女性が強いのかな? なんてことを考えながら、誠実は食事を進める。

「別に彼氏なんて居ないよ……ただ……ちょっと……」

(なんか横からチラッと視線を感じたような……)

 そんな事を思いながらも、誠実は勘違いであろうと思い、あまり気にしてはいなかった。

「じゃあ、好きな人でもできたのね……まぁ、美奈穂ももう15歳だし、当然ね」

「ち、違うわよ! 好きとか……そういうのじゃ……」

 顔を赤く染めながら、母の言葉を否定する美奈穂。
 そんな美奈穂から、今度は誠実の方に話の矛先が向けられる。

「誠実の方はどうなの? まぁ、まだ入学して三カ月だし、お父さんの子だから、期待してないけど」

「実の息子に対して失礼だろ! 半分は母さんの血も流れてんだよ!!」

「父さんの血がすべてを台無しにするのよ」

「やめて! 父さんを害虫みたいに言わないで!!」

 涙目で訴えかける誠実の父。
 実の子供と旦那になんて言い草なんだと、誠実は思いながら話をスルーする。
 しかし、そこで美奈穂が口を開き……。

「あぁ、おにぃなら昨日振られたらしいよ」

「み、美奈穂! なんでこのタイミング言うんだよ! しかも親に!」

「別に言うなって言われてないし……」

(こいつ~、本当に俺の事嫌いじゃないんだよな? こんなのただの嫌がらせだぞ!!)

 美奈穂の言葉に、誠実の母は頭を片手で押さえながら、誠実に言葉をかける。

「はぁ~、やっぱり父さんの子ね……」

「なんだよそれ! どういう意味だ!」

「そうだ! 父さん何も悪くないもん!」

「お父さん、もんとか言わないで……マジで気持ち悪い……」

「美奈穂までそんな冷たい視線を!!」

 この朝食で誠実は、我が家の男性陣は、女性陣に勝てないんだと知った。
 色々あったが、朝食も済み、誠実はそろそろ学校に行こうと、鞄を持って玄関に向かった。

「遅いわよ」

「え、なんでお前居るの?」

 玄関にはすでに、身支度を終えた美奈穂が鞄を持って待っていた。
 今までこんなことは一度もなく、誠実は不思議で仕方なかった。

「早くしてよ、遅れるでしょ」

「え、一緒に行くの? なんで?」

「たまに良いでしょ、それにお願いがあんの」

「お願い?」

「行きながら話すから、早く来てよ」

「お、おう」

 誠実は言われて、急いで靴を履き、学校に向かう準備をする。

「「行ってきまーす」」

 二人でこうやって登校するのは、小学生以来だろうか、などと考えながら、誠実は美奈穂の横を歩く。
 美奈穂と誠実の学校は同じ地域にあり、場所もそこまで離れていない、しかも途中までは同じ道のため、一緒に登校しようとすれば出来なくもない。

「んで、話ってなんだよ? 俺の方が学校近いんだから、短めで頼む」

「別にそこまで込み入ったことじゃないわよ、ただ今週の土曜に一緒に買い物に行ってほしいの」

「そんなん友達と行けばいいだろ? 俺だって色々忙しいんだよ」

 朝の事をまだ根に持っている誠実は、美奈穂の頼みを断った。
 正直、誠実の土曜の予定は真っ白だ、ゲームでもして一日家に居るつもりでいた。

「どうせ一日家でゲームしてるつもりでしょ? なら付き合ってよ」

「なんでわかるし!」

 いつもなら、買い物なんてものに、誠実を美奈穂が誘う事なんてなかった。
 いくら昨日の件で少し距離が縮まったとは言え、なぜこのタイミングで買い物に誘ったのか、誠実は不思議だった。

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