白と華と魔王と神と
2つの命
~20〇〇年 12/27~
大丈夫なのだろうか?
無事に産まれるのだろうか?
心配だ...
私、朱槻 政玄は妻の仁美が私たちの子供の出産をするのを待っている。
最初は出産に立ち会っていたのだ。
だが情けないことに昔から血が苦手な私は臭いや音などにやられ気分を悪くしてしまい退室。
今はもう、ただ暗い廊下に置いてあるこのベンチで祈り、待つことしか出来ない。
あぁ、大丈夫だろうか...
血さえ苦手でなければ今も妻の手を握って応援できていたと言うのに...
「オギャァァァァア!」
朝早くから出勤、1日働き少し残業して帰ったところで妻が陣痛を訴え病院へ直行。
言い訳がしたい訳ではないがやはり、疲れていたのだろう。
祈るうちに少し眠ってしまっていたのを産声によって叩き起こされる。
思わず飛び起きベンチから立ち上がる。
すぐに看護師さんが出てきて
「無事、生まれましたよ!!」
と、そう言いながら私を分娩室へと招き入れてくれた。
室内はまだかなりの血の臭いが残っていたが音がない分、楽だ。
「あぁ、仁海、お疲れ様。産んでくれてありがどっ...う...」
妻に労いの言葉をかけようと、妻の顔と新たに生まれた私たちの子供を目にした途端に涙が溢れてきた。
「ふふっ、おいおい、泣きすぎだ。ほら見ろ。元気な元気な男の子だ。」
「あぁ、どうしようね、涙が止まらないよ...本当にありがとう。」
「この子の名前は決めてきたんだろう?」
それはもちろん言われた通り決めてきたのだが...
本当に僕だけの意見で決めていいのかを確認する。
「あぁ、私には昔からネーミングセンスが無くてな...何も浮かばんのだから仕方がない。たとえどんな名前であろうとも私は私の子を愛せるのだからそれでいい。」
それに返答するように彼女が発したのは改めて私は素晴らしい女性を妻に出来たのだと実感する言葉であった。
ならば、と決めてきた名前を口にしようとしたその時、ふと窓の外が目に入った。
妻の出産の間に雪が降り出していたようで地面には既に白い絨毯が敷かれ始めていた。
それらは月の光を浴びて白く、キラキラと輝いていた。
そんなことはないとは分かっていてもまるで世界が我が子の誕生日を祝福してくれているのだと、そう思った。
そして、私の頭の中にこれまで考えてきた中で1番素晴らしいと思える名前がふと、閃いたのだ。
だからこそ、私は咄嗟に口にしようとした名前をそれに変えたのだ。
「白夜、お前は、私たちの息子は朱槻 白夜だ!」
「白夜、いい名前じゃないか。それにしても君が選びそうにない名前じゃないか?これまたどうして?」
確かに、普段の私なら絶対に思いつかないだろう名前だ。
「外を見てごらん?理由はすぐわかるさ。」
だからこそ、妻にはこの気持ちを共有しておきたくて外を見るように促す。
「あぁ、なるほど。なんとなくわかった気がするよ。」
そうして2人見つめ合い笑った。
私の今までの人生でたくさんあった幸せの何よりも幸せを感じた時間だった。
この時より時を遡ること約半年...
ここで物語のもう1人の主役が誕生した。
~20〇〇年 8/10~
「オギャァア!オギャァァァァア!」
聞こえてきた産声に思わずベンチより飛び起きた。
この産婦人科の病院では特殊な講習を受けていないと出産への立ち合いができなかった。
なので私、朱星 清志郎は泣く泣く外の廊下で待っていたのである。
正直な話、緊張と不安でいっぱいで気が滅入りそうだった。
頑張ってくれていた妻、夏海には悪いが早く終わってくれとさえ思ってしまったほどだった。
昔から緊張などはしない方であったためにこんなに緊張したのも初めてだ。
緊張というのはこんなにも苦しいことだとは思っていなかったのだ。
安心したからか眠くなってきたな...
「......ださい!起きてください!お子さん生まれましたよ!」
「ん!?あ、あぁ、すまない。産声を聞いて安心したのか寝てしまったんだ。」
私ともあろう者が無事に生まれてくれた事に安心し、緊張の糸が切れたせいか看護師の方が呼びに来るまでの少しの間で眠ってしまっていた。
「いえ、お疲れ様です。さぁ、こちらへ」
ありがとうと礼を言い看護師の方の後を付いて分娩室へ入る。
扉をくぐりベッドに目をやればそこには可愛らしい私たちの子供とそれを抱く愛する妻。
「あぁ、その子が、その子が...」
思わず口を突いて出たその言葉に妻はえぇ、と頷き、女の子よ、と性別を教えてくれた。
「あぁ、よく産んでくれた。ありがとう!そばに居てやれなくてすまなかったな...」
「いいのよ、清志郎さん。その顔を見ればわかるわ。外でずっと待っていたのでしょう?それも寝ずに。」
「それはそうだが...君の頑張りや痛みと比べれば何ともない事だろう?」
「もう、頑固なんだから。でもこの場合は違うのかしらねぇ?まぁ、そんなことよりもこの子名前を付けてあげましょう?」
「あの名前でいいのかい?」
妻はえぇ、と頷き名付けをするように私に促す。
「わかった。愛しい我が娘。君の名前は...華音。朱星 華音。いい名前だろう?」
我が子を抱き上げて名付ける。
「いい、名前ですね」
助産師さんがそう言ってくれた。
ありがとう、と答えそっと妻へ華音を返す。
私はこの世で1番の宝をこうして手に入れたのだ。
こんな幸福に恵まれるとは思ってもみなかった。
そして、また感極まって泣いてしまったのだった。
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今回から外伝、過去編となります!
と言っても今回はこの話以外に華音ちゃん出しませんけど...
白夜にフォーカスを当ててお話を進めていきます!
外伝、その2みたいなので華音ちゃんと2人の話をしていきたいと思ってるのでそこまでお待ちくださいね!
ちなみに4話で終わって本編入るので安心してください!笑
それではまた次回!
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