最恐魔王の手さぐり建国ライフ!!〜政治に農業、時々戦争!?〜

ノベルバユーザー219564

第16話 激戦

 旅を続けていると時折、角の生えた獣に出くわすことがあった。
 舞衣さんに聞くところによるとあれは『魔獣』と呼ばれているらしい。

 聞くところによると魔獣とは動物が濃い魔力を受け変身を遂げた生き物らしく、角の有無や体の大きさの違いはあれど、外見は俺の知ってる動物と大きな違いは無かった。

 ほとんどの魔獣はこちらを警戒し襲ってこなかったが、時折気性の荒い魔獣が襲ってくることもあった。

「うおぉ!あぶねえ!!」

 今この時も5mはあろう熊に似た魔獣に襲われていた。
 紙一重で俺の体の横を通り過ぎて行った熊の腕は、頑強な岩をまるでバターの様に切り裂いていた。

「この熊魔獣くままじゅう目が真っ赤に充血しているわ、魔力を濃く吸いすぎて暴走しているみたいね。こうなってしまうと元には戻らないわ、倒しなさい。」
「え!? 俺がですか!?」

 当然よ。とばかりに舞衣さんは俺に頷く。
 無茶ぶりだ。あんな化け物に勝てるわけないだろ!

「落ち着きなさい。もう魔法使いにとって基礎的な事は教えたわ、冷静に対処すれば大丈夫」

 俺の目を見て真面目なトーンで諭す舞衣さん。
 俺のどこにそんな信頼する要素があるのかは分からないが、ここまで言われたら引き下がれないか。

「本当に危なかったら、すぐに助けるわ。胸を借りるつもりで行きなさい」

 確かに舞衣さんの胸は意外と頼りがいのある大きさ……いや、これは関係ないか。
 
 俺もいつまでも守って貰うわけにもいかないのだからやってみるか。

「覚悟は決まったぜ……来いよ! 熊野郎!」
「ゴギャアアアッッ!!!」

 俺の挑発に興奮したのか熊が突進してくる、こええ!!

「こうなりゃヤケクソだ!! 魔法防壁《マジック・ウォール》!!」

 ズゴォン!!

 俺の目の前に魔力で出来た壁が現れ熊の体当たりを受け止める。
 しかし、

 ミシミシミシ!!

 俺の魔法防壁《マジック・ウォール》は一発でひび割れてしまう。
 それもしょうがない。
 魔法《マジック》○○といった名前の魔法は基礎魔法で習得は容易だが、その全てが最初級か初級まほうであり効果は高くない。

「こんなんで完全に防げるとは思ってねーよ!」

 俺は足裏より魔力を噴出、一気に熊の頭上へと飛び上がる!
 狙うは頭。ここを揺らせば例え魔獣でも堪えるだろ?

「魔力槌砲《マジックハンマー》!!」
 
 魔力の塊を飛ばしてぶつける魔法で、俺の使える魔法の中でも威力の高い魔法だ。
 奴の剛毛では斬撃の類は効果が薄いとみての判断だ。

ゴキン!!

 魔力槌砲《マジックハンマー》が見事命中し、鈍い音が響く。
 しかし、


「ゴギャアアアッッ!!!」
「嘘だろ!?」

 少しひるんだだけであまり効いて無いみたいだ。
 やはり俺はこの程度の男だったか……

「何ぼけっとしてんの!!」
「!?」

「あんたの持ち味を活かしなさい! 真正面から戦うだけが戦いではないわ!!」

 俺の持ち味? そんなものあるだろうか。
 ここ数日だって走ってばっかだし、褒められたのも魔力の練り方ぐらいだ。

 ……いや、いけるかもいれない。
 俺の頼りない長所も組み合わせれば何とかなるかもしれない。

「いくぜ!!魔力歩行《マジック・ムーブ》!!」

 俺は果敢に熊に突っ込んだ。
 そして手からはよく練りこんだ魔力で出来た糸『魔練糸《まれんし》』をコッソリ出す。

「ゴギャアアアッッ!!!」
「うおおおおおっっ!!!」

 熊が振り回す腕をかいくぐり俺はこいつの周りをぐるぐる回る。
 熊は俺の華麗なる魔力歩行《マジック・ムーブ》を捉えきれず体力を消耗いているみたいだ。

「ここ!」

 俺は好機とみて魔練糸《まれんし》を手繰り寄せる!
 熊の体中に巻き付いた糸は体を縛り上げる。

「ググルゥ……!!」

 何重にも巻かれた魔練糸《まれんし》は熊の剛力をもってしても切れないらしく悔しそうな声を漏らす。
 悪いな、俺も必死なんだ。

 俺はその隙にすぐさま魔力を練りこみ熊の眼前に躍り出る!!
 今度こそ決める!!

「くらえ!! 雪崩槌砲《アヴァランチ・ハンマー》!!」

ズガガガガガガガガガガッッ!!!!

 押し寄せる雪崩の如く大量に打ち込まれた魔力槌砲《マジックハンマー》は、熊の頭部を激しく揺らし続ける!!

「うおおおおおおぉぉっっっ!!!!」

 俺の魔法にしばらくは耐え続けていた熊だったが、俺の魔力が尽きる寸前で、ようやく力尽きたように頭《こうべ》をたれ、気絶した。

「へへっ……」

 俺が息も絶え絶えの状態で舞衣さんにVサインをすると、彼女も笑顔で返してくれるのだった。

 ちなみにその晩のご飯は熊鍋だった。
 旨かった。 









 そんなこんなで移動を始めてから4日経った今日。
 俺たちは目的の場所に迫りつつあった。

 どうやら群馬県内らしいがどこもかしこも荒れ果てて詳しい地名はわからない。
 だけど、舞衣さんとその仲間は魔道具によりお互いの位置が分かるみたいだ。

「そろそろ着くわ、心配しなくても皆いい人だから安心して」

 そう語る舞衣さんが一番ソワソワしている。
 仲間に合えるのが嬉しいんだろう。
 俺もつられて嬉しくなっちゃうぜ。

「魔道具が示す座標はこの辺のはずなんだけど……?」

 そう言って止まったのは開けた草原だ。
 どこかに隠れているのか?

「礼堂院舞衣よ!いるなら出てきて!!」
「よーやく来たか」

 舞衣さんの呼びかけに答えて木の陰から一人の男が姿を現す。
 痩身で糸目の何やら油断ならなさそうな人物だ。

「舞衣さん、この人は……!?」

 紹介してもらおうと彼女の方を向くと、そこには今まで見たこと無い程怒りに満ちた表情で構える舞衣さんがいた。

「貴様!!なぜ貴様がここにいる!!他の皆はどうした!!」
「久しぶりの再会だというのにつれないねー。同じ陰陽師の仲間じゃーないか」

「舞衣さん!どういうことですか!?」
「取り乱して済まない……だけどここから先は一切気を抜くな、分かったな」

 凄い剣幕に押され、俺はコクコクと頷いた。

「あいつは天上院元彌もとや。仲間を裏切り、謹慎処分を受けているはずの元同僚《おんみょうじ》だよ」

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