最恐魔王の手さぐり建国ライフ!!〜政治に農業、時々戦争!?〜

ノベルバユーザー219564

第11話 目覚めの日

…………んん、ふああ。

 あーあ、よく寝た。
 最近は仕事に追われてたせいでロクに寝れて無かったからな。

 あれ? ところで俺はどこで寝てたんだっけか? 辺りが真っ暗で何も見えないじゃないか。
 
 そしてよく寝た気がするのに何故だかモヤモヤした気持ちだ。
 
 この気持ちは……悲しみ?

 なんでこんなに悲しいんだ? 全く思い出せない。
 とにかく悔しくて空《むな》しくて切ない気持ちで心が満たされている……。
  
 この気持ちの正体も気になるが、いったい俺に何が起きたのだろうか。
 確認したいが辺りを見渡しても何も見えないからなあ。 


 えーと、確か俺は通勤途中だったはずだ……。 

 転んで頭でも打って死んでしまったのだろうか?それともここは夢の世界か? 

 いつまでも悩んでても仕方がない、夢か確かめるためにここはひとつ頬でも殴ってみるか。 

  

 オラァ!! 
 
 びしっ!!


 いてえ!!普通にいてえ!! 
 どうやら夢では無いみたいだな。真っ暗なところにいるだけか。 

 ペタペタ  

 ん?頭を触ったら何か布のような物が巻き付いてるじゃないか! 

 これが目が見えない原因か…………よし、引っぺがしてやる!! 

「うおぉぉぉ……」 

 駄目だ。ビクともしない。 

 手触りは柔らかいのに鋼のごとく動かねえ。いったい何でできてるんだ。 

 しかたない、目が見えない状態で動き回るのは危険だし、状況の整理でもするか。 


 俺の年は21で名前は……あれ、なんだっけか?名前を思い出そうとしてもそこだけポッカリ穴が開いてるみたいに思い出せないぞ? 

 まさか記憶喪失!? 嘘だろ!? 

 ん? でも両親の名前は覚えてるぞ? 
 3年前に死別した親の名前は覚えてるのに自分の名前を忘れるなんてことあるか? 

 だけどご丁寧に両親の苗字まで思い出せない。これで手掛かりはゼロだ。 


 しょうがないから辺りの状況を確認しよう。切り替えは早いほうなんだ俺は。 

 俺の体は頭に布が巻き付いているくらいで、他は特に変わりはないな。 
 あえて言うなら所々が擦り切れてるくらか。 

 床は硬い。ざらざらしてるしコンクリートかな? 

 そろそろ目隠しして動くのも慣れてきたし、本格的に歩いてみるか。  

 よっと。 

 おお意外と普通に歩けるもんだ。 
 いっぽにほさーんぽたのしーなーってうおお!! 


 ズガン! 


 いてえ!さっきよりいてえ!!
 そりゃ目隠ししながら歩いたら躓くよな!!

 もう嫌だ!なんで俺がこんな思いをしなくてはいけないんだ! 

「誰か助けてくれええええぇ!!!!」  

「うるさいわよ」 
「うおぉっ!」  

 びっくりした!誰もいないのかと思ったらいたのかよ! 

 しかも若い女性の声だ。もしかしてこの人にさらわれたのか!? 
 しかし残念だったな、俺には身代金を払ってくれる親も友達もおらんぞ!! 

「そんなに怯えなくてもいいわ。あんたをどうこうする気はないわ」  
「そ、そうなのか」 

 ビビってないというのに失礼なやつだ。 
  
「なあ、そんなことよりこの巻かれてる布を外してくれないか?」 
「別にいいけど……ゆっくり外しなさいよ?」 

 指を鳴らすような音がすると、布がゆるむ。いったいどういう仕組みなのだろうか?  

「ありがとう。ようやく目が見えるよ……」  

 俺は意気揚々と布を手に取りするすると外していく。 

「おお。光がみえ……っががあああぁ!?」 


 激痛。 

 突如頭を襲った激痛は俺の視界を白く染めあげる。
 まるで脳に何かを無理やり詰め込められるような痛みだ。 
 感情の波が押し寄せ、思考機能は停止し、頭がパンクし破裂するかに思えたが、その寸前で痛みが収まる。 

 どうやら布を巻き直してくれたようだ。
  
「ぜえ……ぜえ……」 
「大丈夫?ごめんなさい。実際に体験してもらうのが一番だと思ったの」  

「一体何が……」 
「それは私にもわからない。私が君を発見した時、すでに君は気を失い泡を吹いていた」 

 少し思い出してきたぞ…… 
 確かあの時も歩いていたら急に今と同じ痛みに襲われて、意識を失ったんだ。  

「それじゃああんたは俺の恩人ってわけだ。ありがとう、助かったよ」

 俺はペコリと頭を下げる。 

 さて、どうしたもんかな。 
 そういえば痛みに襲われてる時何かイメージが見えたな、あれは確か……。

「なあ、あんたサングラスみたいな物を持ってないか?」 
「? あるけど何に使うの?」 

 彼女は疑問に思いながらも俺の手にサングラスを握らしてくれる。優しい人みたいだ。 

「俺もよくわからないけど、これがあれば治る気がするんだ」 
  
  何の根拠もない勘だ。
  だけど不思議な確信があった。

 俺は布を取り外すと同時にサングラスをかける。 

「うっ……」 

 再び襲い来る頭痛を我慢し、サングラスを持つ手に力を入れる。
 すると何かがカチリとはまる感覚と共に頭痛が消え去り、視界が回復する。 

「ほら成功した」 

 俺は目の前の彼女にピースサインする。 

 回復した視界で俺はようやく彼女の姿を目で捉える。 
 彼女は俺と同じ日本人みたいで短い黒髪がボーイッシュなイメージを与える、クール系の美人なお姉さんだった。 

 年は俺と同じかそれより少し上くらいだろうか? 
 デキる女って感じで頼りがいがありそうな人だ。 

 そんな彼女が俺に拳を向け、臨戦態勢をとっていた。 

「え?」 
「貴様、何者だ」 

「いや、何者と言われても俺自身名前を思い出せないんですよ!」 
「とぼけるな!今目の前でサングラスに魔法をかけたではないか!」 

 魔法?この人はなにを言ってるんだ? 
 頭がヤバい人なのだろうか、美人なのに残念だ。
 それはそれでタイプだけど。

「魔法なんてあるわけないでしょう?冷静になってくださいよ」 
「シラをきるつもり?これを見ても言えるかしら?」 

 「火行・焔珠《ほむらだま》!!」

 彼女はそう叫ぶと手のひらから拳大ほどの火球を生み出し、あろうことか俺に向かって投げてきやがった! 

「ぎゃああぁぁぁ!!」  

 熱波を肌で感じる! 

 やばいやばいやばいやばい。いったいどうすれば! 

 すると、さっきと同じようにイメージが頭に流れ込んでくる。
 今はこれしか頼れるものはない! 

 流れ込んでくるイメージのまま、俺は手を突き出し力を込める!! 

「いけええ!!」 

 体の中心から指先に力が流れる感覚。 

 今までやったことのない行為のはずなのに、体が覚えている。 

 ドオオオォォン!! 

 指先から外に飛び出た力は壁の形になり、俺を火球から守ってくれた。 
  

「これはいったい……」 
「それが魔法よ。その様子だと本当に知らなかったみたいね」 

「あんたはいったい何者なんだ……!」 

 彼女は髪をかき上げると俺の目をまっすぐ見据え、自己紹介する。 

  

  

「私は礼堂院舞衣。日本政府所属の国家陰陽師よ」 

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