シリ婚~俺の彼女はラブドール!?

上等兵

21話 「幸せな家族」

 
 「おーい胡蝶帰るぞ、さあ繭さんも帰りましょう」
 「ちょ、ちょっと待ちたまえ久我君! まだ話しは終わってないよ!」
 
 俺が帰ろうとすると古家さんは慌てて引き留めた。しかし俺はお構いなしに立ち上がり古家さんに疑いのまなざしを向けた。
 
 ――何が三十歳まで童貞だと魔法が使えるだ、バカバカしい。
 
 引き続き、古家さんは両手を床につき必死で俺を引き留めようと訴える。
 
 「久我君、君が疑うのも分かる、しかし事実なんだ……」
 「……はぁ」
 
 俺は、古家さんの言っていることがどうしても信じられなかった。
 
 「なぁ大我、私は親父がこの場でふざけたことを言うとは思えないんだ、だからもう少し話し聞いていかないか?」
 
 胡蝶が俺の元へやって来て手を握り上目遣いをする。
 
 「うっ、分かったよ胡蝶……古家さん信じますから続きを話してくれますか?」
 
 ――胡蝶の頼みだと仕方ないな。
 
 「……ッ」
 「どうしたの繭、怖い顔しちゃダメだよ?」
 「ゆ、夢見鳥、私は怖い顔なんてしてないよ!」
 
 繭さんは夢見鳥ちゃんと何か話している。
 
 「久我君信じてくれてありがとう、さっきから言うようだが、童貞のまま何十年も過ごすと魔法が使えるんだ」
 
 古家さんは姿勢を元に戻して俺に言う。童貞が魔法を使えるなど聞けば聞くほどバカらしくなってくるが胡蝶と約束した以上最後まで話しを聞こうと思った。
 
 「古家さん、何で童貞だと魔法が使えるようになるんですか? それにその証拠はどこにあるんですか?」
 「久我君、証拠なら君の目の前にいる娘達がそうだよ、本来なら彼女達は命のない人形だ、しかし不思議なことに今は動いて生きている、これじゃダメかね?」
 
 古家さんは笑って言う。
 
 そんなものなのか?
 
 俺は胡蝶を観察してみる。
 
 「おい大我、なにじろじろ見てんだよ」
 
 確かに、胡蝶は人形なのに動いてしかも喋る。これは不思議なことだ。そしてその不思議な人形を造ったのは古家さんだ。
 
 「……はぁ」
 
 思わず溜め息をつき天を向き考える。
 
 ――これはもう、そういうものなんだ、実際に起きてる現象だし俺が何を言ってもしょうがないことなんだ。
 
 考えがまとまり、視線を古家さんに戻す。
 
 「疑ってすみません、俺は心の底から古家さんを信じます」
 「……ありがとう久我君」
 
 俺が信じたことに古家さんはほっとしたようだ。
 
 「そうだ久我君、僕が魔法を使えるようになった訳を考えてみたが強いていうなれば長い間童貞だったことぐらいしか思い浮かばない」
 「……はい」
 「これは僕の仮説なんだけどね僕はもしかして長い間貯まっていた精力が何らかの形で魔力、というか何か不思議な力に変わったんじゃないかと思うんだよ……ははは! 本当に世の中不思議なことがあるねえ」
 
 笑っている古家さんを見て細かいことなどどうでもよくなった。
 
 古家さんのお陰で胡蝶とともに暮らすことができるそれでいいじゃないか。
 
 「胡蝶これからもよろしくな」
 「どうした大我、急にまじめになりやがって」
 「ふふ、さあな」
 
 胡蝶は不思議そうに俺を見た。
 
 「あれ? そういえば古家さんが童貞だとしたら娘の心春さんはいったい?」
 「あぁ心春は僕の会社で造った『超本物シリーズのラブドール』だよ」
 
 古家さんは何でもないかのように答える。
 
 「ええっ! 心春さんはどこからどう見ても人形には見えないですけど」
 「ふふふ、心春は我が社の技術の粋を結集したものだからね」
 
 古家さんは自慢気にドヤ顔をする。そして俺が驚くのを見た心春さんがニヤニヤしながら側へやってくる。
 
 「わたくしこうみえて本当に人形なんですよぉ、なんなら大我様試しにわたくしを調べて見ますかぁ?」
 「えーと、調べるってどうやるんですか?」
 「うふふ、こうするんですよぉ……えい!」
 
 心春さんは俺の手を掴むと自分の胸にもってきて押し当てる
 
 ムニョン。
 
 そう擬音が聞こえて来そうな程の弾力と柔らかさが手に伝わってくる。俺は初めての感触に戸惑い口をパクパクさせることしかできなかった。
 
 「どうですか大我様ぁ? わたくしの心臓の鼓動を感じませんでしょう?」
 「……」
 
 無言でコクコクと頷く。
 
 心春さんの心臓の鼓動は感じれなくても俺の心臓の鼓動は感じる。今にも破裂しそうな勢いだ。
 
 ふと、隣から嫌な圧力を感じる。
 
 見てみると、やはりというか、胡蝶がそんな光景を無視するわけもなく怒って声を上げようとしていた。
 
 「おい大――」
 「――大我さん!」

 胡蝶の声を押しのけて繭さんが声を上げた。
 
 部屋が静かになった。
 
 俺はびっくりしたが手はまだ心春さんの胸だ。
 
 みんなが繭さんに注目した。繭さんはいつも以上に顔が真っ赤になった。
 
 「ああああの、その……大我さんのエッチ! 女性の胸を触るのはいけませーん!」
 
 繭さんは立ち上がりそう叫ぶ。
 
 「あらあら、わたくしとしたことが悪ふざけが過ぎました、ごめんなさい」
 
 心春さんは俺の手を胸から離した。
 
 ――あぁ、もうちょっとさわりたかったなぁ……ってダメだダメだ! 俺は変態じゃねえんだ。
 
 そうは思ってもやはり心春さんの胸は名残惜しかった。
 
 一旦部屋の雰囲気を変えようと思い古家さんに質問をする。
 
 「古家さんは何で心春さんも動けるようにしたんですか?」
 「ん? そうだねえ……あ! そういえばあのとき何故かいけると思って試しに会社の製品に念じてみたら上手くいったんだよ、あははは!」
 
 あまりの古家さんの適当な理由に俺と繭さんは呆気にとられた。
 
 「心春で成功したから胡蝶と夢見鳥を造ろうと思ったんだ、僕はずっと自分の娘が欲しくてねえ」
 「……そんなぁ、わたくしは実験で作ったんですかぁ? それじゃあ社長はわたくしをあまり必要としてないんですかぁ? 娘だと思ってないんですかぁ!?」
 「そんなことないよ、心春も大切な僕の娘だ社長なんて呼ばずに心春も僕のことを父と呼んでもいいんだよ」
 「うわーん、お父様ぁ!」
 
 心春さんは古家さんに抱きつくと他の人形達も「お父さん」と言って古家さんを囲む。
 
 胡蝶と夢見鳥ちゃんもその光景を見て我慢できないのか古家さんのもとへ向かう。
 
 「あはは僕はこんなに沢山の娘に囲まれるなんて幸せだなぁ」
 
 一般の人がみたら人形に囲まれてる古家さんは異様に見えるかもしれない。だけど俺には古家さんは幸せな大家族の父親のように見えた。
 
 「大我さん……」
 「なんですか繭さん?」
 「とても幸せな光景で私夢見鳥が羨ましくなっちゃいました」
 「そうですね、俺も胡蝶が羨ましいです」
 
 胡蝶は幸せそう他の人形に混じって笑っていた。
 
 笑顔の胡蝶はとても可愛かった。

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