シリ婚~俺の彼女はラブドール!?

上等兵

16話 「顔中レロレロ」


 「――痛ってえ!」
 「大我さん大丈夫ですか? これで少しは楽になるといいんですけど」
 
 俺はパラソルの下で繭さんに男二人に殴られた箇所を手当てしてもらっている。
 
 顔の痛みが酷く、繭さんは座っている俺の正面で膝立ちをして患部に冷やしたタオルを当てて冷やしてくれている。
 
 俺の視線は胡蝶より少し大きい繭さんの胸に集中する。繭さんはそれに気付かずに一生懸命タオルで冷やしてくれる。
 
 因みに繭さんは水着から服に着替えている。というのも繭さんはお漏らしをしてしまったのだ。
 
 繭さんがお漏らしをしたということは今はノーパンか!? いや濡れたのは水着だから履いてるか。
 
 そんなバカなことを考えている間に俺の手当ては終わった。
 
 「もうすぐ黒田さんが氷を買って来てくれるんでもう少し楽になると思います」
 「繭さんありがとうございます、はぁーそれにしてもあいつら容赦なく殴って来やがって!」
 
 あのむかつく二人組を思い出して腹が立った。
 
 「大我さん」 
 
 繭さんはそっと俺に顔を近づけて見つめてくる。
 
 「……大我さん私あのときの二人も怖かったですけど、大我さんも怖かったです」
 
 繭さんは更に真剣な表情をして言う。
 
 「あのときの大我さんの私を見る目がまるで感情のない人形のように見えました……私大我さんにあんな目をしてほしくないです」
 
 まさか俺がそんな風になってたなんて思わなかった。
 
 気がつけば繭さんと俺の顔はキスしそうな距離だった。その事に繭さんは気付いてあわてて俺の隣に座った。
 
 「……大我さん、私達は友達です、だからあんな風に私達を見ないでください」
 「……繭さん、約束します」
 
 二人で静かに海を眺める。
 
 「そ、そういえば大我さんとても強かったですね、私びっくりしました!」
 「そ、そうですか? 照れるな」
 
 繭さんに誉められた!
 
 こんな風に誉められたことがなかったので嬉しくて調子に乗って言った。
 
 「繭さんいつでも頼ってください! 俺が全力で繭さんを守りますから!」
 「えっ……」
 
 繭さんが驚きの表情で俺を見る。その瞬間時間が止まったかのように感じた。
 
 コテっ。
 
 何かが俺の肩に当たった。見てみると隣に座っていた胡蝶が俺の肩に倒れていた。
 
 「……あっ! あの私おトイレに行ってきます!」
 
 繭さんはそう言うと顔を隠しながら去って行った。
 
 ヤバイヤバイ……あれじゃあ俺が繭さんに告白してるみたいじゃねえか。
 
 突然すごい力で顎を握られる。
 
 冷や汗を流し横目でみると胡蝶がものすごい力の籠った目で俺を睨みつけて顎を握っていた。
 
 怖いよ! ちょー痛えよ!  
 
 「……貴様、何であの女に告白した?」
 
 胡蝶の声は低い、これは相当怒っている。
 
 あれは繭さんに『告白したようにみえる』んじゃなくて『告白した』ことになるのか?
 
 「うぅ、う!」
 「なんだ、はっきり答えろ!」
 
 俺はこのままだと喋れないので離してもらうようにジェスチャーする。
 
 「離してやったぞ……言い訳を聞こうか大我」
 「あれは勘違いなんだ! 俺は繭さんに告白したわけじゃない!」
 「じゃあ守るってなんだよ! お前があの女を守らなくても良いだろ!?」
 「胡蝶お前冷たい女だな……黒田さんから聞いたぞ、繭さんはお前を抱き締めて守ろうとしたらしいな」
 「なっ!?」
 
 俺の反撃の言葉に胡蝶は怯んだ。俺はここまでだと思い胡蝶を諭す。
 
 「胡蝶、お前を勘違いさせて不安にさせたのは謝る、けど信じてくれ俺はお前が好きなんだ」
 「……」
 
 胡蝶は無言で俺を見つめる、すると突然俺を押し倒した。
 
 「大我ぁ……大我ぁ! うわああぁん!」
 
 胡蝶は俺の胸で泣きはじめた。
 
 「……ごめん」
 
 胡蝶の背中をさすり謝る。
 
 俺は何をしてんだ、胡蝶を傷つけてしまうなんて。
 
 「大我、すまねえな……私が言い過ぎた、確かに繭は私を守ってくれた」
 「……そうか」
 「だから後で礼を言っといてくれ」
 「分かったちゃんと伝えるよ」
 
 胡蝶は本当に素直だ、わがままだが自分が悪いと分かったら素直に謝る、本当にいい奴だ。
 
 「それと繭にあれは告白じゃねえことを伝えろよ」
 「……分かった」
 
 そうだったあ! 繭さんの誤解を解かなきゃ!
 
 胡蝶が落ち着いたのを確認して俺は起き上がろうとするが胡蝶は俺の手を掴み阻止する。それどころか俺の腹に股がってきた。
 
 「……なんの真似だ?」
 「……さぁな」

 しばらくお互いに無言で見つ合う。
 
 「おい、降りろよ」
 「やだ」
 
 胡蝶は真顔で拒否する。
 
 「胡蝶、降りろって! 人が見てるだろ!」
 「構わねえよ、それより甘えさせろよ」
 「ええええ! 甘えるってお前何すんだよ!」
 「こうするんだよ……ん、レロ」
 「うをっ!」
 
 胡蝶は顔を近づけて俺の顔面を舐めてきた。
 
 「ん、レロレロ……大我、私が舐めて傷を癒してやるよ、ん? しょっぺえな」
 「お前変態か! あんっ……バイ菌が入るからやめろよ! ……ひんっ」
 「あぁ!? 私が汚いってか!」
 「イエ、ソンナコトアリマセン、ドウゾツヅケテクダサイ」
 
 胡蝶の凄みに耐えきれず俺は素直に従うことにする。
 
 「ふふふ、素直なのはいいことだ大我……レロレロ」
 
 胡蝶に舐められることに最初は抵抗していたが、だんだん気持ちよくなって俺は流れに身を任せた。
 
 「大我ぁ、レロ、ピチャッ……お前強かったんだな……チュッ、さすが私の男だ」
 「あぁ……」
 「ん、レロ……繭はああ言ってたがあのときのお前の目付きは最高だったぞ、レロレロピチャッ!」
 「ああ……ああっ!」
 
 俺は未知の感覚に呻くことしかできなかった。
 
 「何やってるんですか大我氏」
 
 俺と胡蝶は突然の声に固まる。
 
 「くっ黒田さん!? いやそのこれは……」
 「ん? もしかして大我氏……」
 
 うわぁ! 変なところ見られたあ! この場から逃げてぇ!
 
 「大我氏もワタクシのように人形を使って遊ぶんですねえ! いやぁ大我氏はそういうのやらないと思ってましたよ、何も恥ずかしがることは有りませんよ、けどエロすぎますぞ!」
 「くっ、黒田さん……そう、そうなんですよ! あはは胡蝶がちょっと怖がってて慰めてたんですよ、ええ……確かにちょっとエロすぎましたね、あはは……」
 
 何とか黒田さんを誤魔化した。
 
 そういえば繭さん遅いな――。
 
 「――はぁ、はぁ」
 
 私はおもわず大我さんから逃げ出した。人気のない所まで走って来てそこで休む。
 
 「ああ! 私のバカ! 本当はおトイレなんか行きたくないのにあんな大声で大我さんに報告するなんて!」
 
 大我さんにはしたない子だと思われたかな?
 
 落ち着くために深呼吸する。
 
 「大我さん、私を全力で守るって……」
 
 大我さんは始めに会ったときは怖かったけど今は抵抗なく普通に話ができる。
 
 「大我さん、あれは告白なの?」
 
 大我さんは私を気遣ってくれる優しい人だけど少しエッチだ。
 
 気付いてないと思ってるかもしれないけど手当てしている間大我さんは私の胸ばかり見ていた。
 
 「そういえばあのとき……」
 
 昨日の夜、大我さん酔っぱらった勢いでは私を押し倒した。けれどあのとき私は目を瞑って祈るだけだった。
 
 何でもっと抵抗しなかったんだろう、もしあのときそのままでいたら……私は大我さんに抱かれていたかもしれないのに。
 
 その事を考えると不思議とそんなに抵抗感が無いことに私は気付いた。
 
 「私はなんてエッチなことを考えてるの!? ……けど大我さんになら……ってダメよまだ会って全然時間が経ってないのに」
 
 ……もっと自分を持たないと。
 
 「私って流され易い軽い女の子なのかな?」
 
 私は大我さんのところにそろそろ戻ることにした。
 
 大我さんに『守る』って言われて嬉しかったな――。

 ――帰る準備を終わらせて胡蝶を背中に背負っていると繭さんが帰ってきた。
 
 「繭さんもう夕方だから帰ろうか」
 「……そう、ですね」
 
 繭さんは俺から目を反らした。
 
 やっぱり告白したと思われてるのか!?

 背中に圧力を感じる。今猛烈に背中の胡蝶を見たくない。
 
 「おや? 大我氏と繭氏何かありました?」
 「いえ! 何でもないです黒田さん!」
 
 繭さんが手をブンブン振りながら否定する。
 
 繭さんそんなに俺のことが嫌いなのか? ……まぁ思い当たる伏しはあるが。
 
 「ふむ、そうですか、それより最期の締めに記念写真を撮りませんか?」
 「黒田さん! それいいですね撮りましょう」
 
 俺は賛成した、旅の思い出は多いほうがいい。繭さんも賛成して俺達は近くの人に写真を撮ってくれるように頼んだ。
 
 繭さんを真ん中に右に胡蝶を背負った俺、左に梨々香ちゃんを持った黒田さんが立ってそれぞれポーズを決める。
 
 写真を撮るときに俺達三人で決めた言葉を言う。
 
 「「「今日友達になった記念に!」」」
 
 こうして写真に三人と二体の人形(一体は人形かどうか怪しい)が写った――。
 
 ――旅館まではまた歩いて帰る。朝と同じで繭さんは黒田さんと話しながら歩いている。
 
 「くくく、良かったな大我、この雰囲気だと繭はお前の告白を断るぞ」
 「……そうだな胡蝶」
 「なに落ち込んでるんだ? 手間が省けて良かっただろ?」
 「……あぁ」
 
 胡蝶の言う通りだ、あの後繭さんは一度も俺と顔を合わせず話もしなかった。
 
 俺は前を歩く黒田さんと繭さんを眺める。
 
 繭さんと黒田さん楽しそうだな、きっと二人はこの旅行が終わっても交流を続けていづれは……付き合って俺のことを忘れるんだろうな。
 
 俺は何故かそんな気がした。俺だけ置いてかれて過去の人になると思うと悲しくなった。
 
 あぁ畜生、何で俺はネガティブな想像をするんだよ。
 
 夏の夕暮れの雰囲気に当てられたのかもしれない。
 
 「大我、大丈夫だ……お前には私がいるだろ?」
 
 胡蝶の言葉にハッとする。
 
 「お前が私を捨てない限りずっと私が側にいてやる……いや、絶対捨てるな死ぬまで私を可愛いがれ」
 
 胡蝶の言葉に俺は元気が出てきた。
 
 「そういやお前始めて会ったときも可愛がれとか言ってたな、どんだけ自分に自信があるんだよ」
 「私は高貴で美しいんだ、当然の要求だろ? で、返事はどうした大我」
 
 俺は迷うことなく胡蝶に言ってやる。
 
 「死ぬまで可愛がるよ、胡蝶!」
 
 ――その後、旅館の部屋の前まできた。
 
 俺はくたくたに疲れた。やはり胡蝶を背負って歩くのはしんどい。
 
 この旅行も今日で終わりだ。明日にはみんなそれぞれの場所に帰ってしまう。
 
 結局繭さんとは帰り道で話せなかった。恐らく今夜部屋で話せないだろう。
 
 「きゃあああ!」
 
 突然繭さんの悲鳴が部屋の中から聞こえた。
 
 「繭さんどうしました!?」
 
 急いで部屋に入る。部屋の中は繭さんの荷物や服が散乱していた。
 
 まさか泥棒?
 
 黒田さんと繭さんは茫然としている。俺は周囲を伺いながら部屋の奥まで胡蝶を背負いながら進む。
 
 「ん? なに?」
 
 奥には人形の夢見鳥ちゃんがいて自分で動き喋っていた。そして今さっき眠りから覚めたのだろうか起きて眠たそうに手で目をこすっている。しかしその際、夢見鳥ちゃんの手に何か白い布のような物が握られている事に俺は気がついた。
 
 「夢見鳥! あなたの仕業ね!」
 
 繭さんが忙しいで部屋の奥まで来た。
 
 「あ、……まゆー! まゆー!」
 
 夢見鳥ちゃんは嬉しそうに繭さんの名前を呼ぶと思いっきり繭さんに飛びついた。
 
 「きゃああああ! ぐえっ!」
 
 繭さんは夢見鳥ちゃんを支えきれずに思いっきり床に倒れてしまった。
 
 俺は咄嗟の出来事に反応かできなかった、そもそも反応できても胡蝶を背負っているので無理だっただろう。
 
 ごめん繭さん、守れなかったよ。
 
 「繭、まゆー! 夢見鳥寂しかったよぉ! 何で置いてったのー!」
 
 夢見鳥ちゃんはそう言いながら倒れた繭さんの上になり繭さんと頬を擦り合わせていた。

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