シリ婚~俺の彼女はラブドール!?

上等兵

14話 「海と人形の気持ち」


 「――暑っつ!」
 
 暑さを感じ目を覚ます。時計を見ると早朝五時いつも起きる時間だ。
  
 横を見ると胡蝶はまだ寝ている。相変わらず寝相が悪いので浴衣が少しはだけている。
 
 こいつずっと抱きついて来るから暑くて眠れないな……そういや人形だけど体温がある。
 
 少し疑問に思ったがすぐにどうでもよくなった。隣を見ると黒田さんは布団を散らかして梨々香ちゃんに抱きつき幸せそうに寝ている。
 
 ……繭さんは?
 
 繭さんも以外と寝相が悪く運がよければちょっとエッチな姿が見れるかもしれないと期待感を持ち顔を向けると以外な光景が見えた。
 
 繭さんは普通に布団で寝ているが、なんと繭さんの上に大の字で夢見鳥ちゃんが覆い被さりこちらをじっと見ていた。
 
 ――繭さん、いつの間に人形を移動させたんだろう……なにもそんなふうにして一緒に寝なくてもいいのに。
 
 繭さんは少し苦しそうな顔をしながら寝ている。
 
 深夜の酒がまだ残っているようで身体がだるい。そこで、さっぱりする為に風呂に入りに行く事にした――。
 
 
 ――湯船に浸かりながら胡蝶のことを思い出す。
 
 ここで胡蝶に始めてキスをされた、あのときの胡蝶はどこか焦って必死なように感じた。
 
 「はぁ、あのとき俺が逃げなかったらなぁ」
 
 お湯に潜ってブクブクと息を吐く。
 
 初めての事で緊張して死にそうだったな……けど何故か乗り気になれなかったんだよな。 
 
 胡蝶と風呂にいた時の光景が思い浮かぶ。
 
 なんであのとき俺は胡蝶の気持ちに答えてやれなかったんだだ? 急に胡蝶が近くの存在になったからか? 俺の気持ちが態度に出たからだろうか? だからあのとき胡蝶は寂しそうにしたのか?
 
 様々な疑問が思い浮かぶ。そのうち息が苦しくなって湯から上がる。
 
 「ぷはっ……はぁ、はぁ、俺は胡蝶のどこが好きなんだろう?」
 
 ――風呂場をする後にして部屋に戻ると朝食が準備されていた。
 
 「おはようございます大我氏、朝からスッキリしてきましたか?」
 「あの……おはようございます大我さん……昨日は気にしてませんから」
 「おや? 何かお二人ありました?」
 
 繭さんの言葉に反応した黒田さんがニヤニヤと笑いながら茶化す。
 
 「いやいや! 何でもありませよ、それより朝食を食べてすぐに海に行きましょう!」
 
 俺は黒田さんを誤魔化しながら忙いで朝食を食べた。
 
 繭さん軽率すぎだよ……。
  
 ――朝食を食べ終わると海に行く準備をした。
 
 黒田さんは短パンにアニメの梨々香ちゃんがプリントされたティーシャツを来ている。そして胸に梨々香ちゃんを抱いている。
 
 相変わらずこの人はぶれないな。
 
 繭さんはリゾート風のワンピースにハットを被っている。少し照れた表情をしていて可愛い。そして俺はミリタリーショップで買った濃い緑色のカーゴパンツに適当な白いティーシャツ。
 
 はっきり言おう、俺と黒田さんはダサい! 
 
 ――繭さんごめん、俺はこんな服しか持ってないんだ。
 
 繭さんはお洒落な格好なのに男二人はこんなダサい格好で申し訳ないと思った。
 
 「あれ? 大我さん胡蝶ちゃんをつれていくんですか?」
 「はい、でも海にはいれませんけど」
 
 繭さんに胡蝶をいつもの白いワンピースに着替えさせてもらい背中に背負うと繭さんは驚いたように言う。
 
 「やっぱり連れていったらまずいですか?」
 「いえ……ただこの部屋に夢見鳥一人だけになるから寂しくなると思って……」
 
 繭さんが俺のように夢見鳥ちゃんを背負って連れて行くのは大変だろう。
 
 「寂しいかも知れないけど良い子にお留守番しててね夢見鳥」
 
 繭さんはそういって夢見鳥ちゃんの頭を撫でる。俺達は夢見鳥ちゃんを置いて部屋を出た――。
 
 ――旅館から海水浴場までは歩いて行ける距離だった。
 
 黒田さんは繭さんと話している、時折黒田さんの話に繭さんは笑ったり恥ずかしがったりといろいろな表情を見せる。
 
 繭さんが楽しそうで良かった。
 
 俺は後ろで二人の光景を眺めながら付いて歩く。
 
 「おい大我……なんで朝いなかったんだ?」
 
 胡蝶が小声で俺の耳元で囁く。耳がくすぐったい。
 
 「あぁ、ちょっと身体がだるかったからさっぱりしようと思って風呂に行ってた」
 「……ふーん、そうか私を避けようとしてたんじゃねえんだな?」
 「………あぁ」

 しばらく沈黙が続いた。
 
 「……あーん、んっ」

 胡蝶は突然俺の耳を甘噛みする。
 
 「うわおっ!?」
 
 俺の驚きの声を出すと黒田さんと繭さんが同時に振り返って見てきた。
 
 「ちょっ、どうされました大我氏、急に変な声を出されるので驚きましたぞ!」
 「いやぁ何でもないですよ黒田さん、気にしないでください……あはは」
 
 二人は不思議そうにしながらまた前を向いて歩き出す。
 
 「おい胡蝶いきなり何すんだよ!」
 「……うるせー、なんかやりたくなったんだよ」
 
 俺が小声で問い詰めると胡蝶は淡々と答える。
 
 胡蝶のやつ俺に甘えたいのか? それにしても甘噛みなんてなんか犬みたいだな。
 
 そんな犬みたいな胡蝶が可愛いと思った――。
 
 「――わぁ、海だ!」
 
 繭さんが感激する。それもその筈。目の前に広くて白い砂浜とキラキラと光る海があるからだ。
  
 「さて、準備して泳ぎますか、行きますぞー梨々香たん!」
 
 黒田さんと繭さんは海に駆け出し足を浸けてはしゃいでいた。
 
 繭さんと黒田さんを横目に俺は旅館から借りてきたパラソルを指し、シートを敷いて荷物と胡蝶をおろした。
 
 「さーて、水着を持ってきてないからどうしようか」
 「なんだ大我、水着を持ってきてないのか? じゃあ何で来たんだよお前」
 「何でって……繭さんと約束したからだよ」
 「チッ、また繭かよ! あんな女に気を遣うことはねえよ」
 「そんなこと言うなよ、だいたい胡蝶を着替えさせてくれたのは繭さんだぞ、感謝しろよ」
 
 ここ最近で分かったが胡蝶はとても嫉妬しやすいみたいだ。
 
 「じゃあ……次から大我が私を着替えさせろよ」
 
 胡蝶はボソボソと言い体育座りをして顔を隠した。
 
 恥ずかしいなら言うなよ! でもその提案は魅力的だな。
 
 次から胡蝶の着替えの手伝いをしようと決意した。後で胡蝶が恥ずかしがってもやめない。
 
 「大我氏ー! 何やってんですかー! 早く着替えて泳ぎましょう!」
 
 黒田さんが服を脱ぎ散らかして水着に着替えて梨々香ちゃんを振りながら俺を呼ぶ。
 
 「黒田さーん! 服が流されちゃいますよー!」
  
 繭さんは俺と黒田さんのやり取りをじっと見ていたかと思うと突然ワンピースの裾をまくり上げて脱ぎ始めた。
 
 「うわ! 繭さんそんな大胆な! うわぁ……うへへ」
 
 繭さんを見ないように両手で顔を隠すが、結局欲望に負けて指の間からしっかりと繭さんを見た。
 
 繭さんは途中で服が引っ掛かり上までさらけ出した状態で手こずっている。繭さんの水着は水色でフリルが着いた可愛らしいものだった。
 
 「うほおおぉ! 繭氏ナイスポーズ、すぐに写真に納めますのでそのままでいてください!」
 「えっ! 黒田さん!? って、きゃあー! 私なんて大胆なことを!」
 
 黒田さんは颯爽と俺の方にきて自分の鞄からカメラを取り出すと身動きが取れない繭さんを何枚も写真に納める。
 
 「いやぁー! 黒田さん恥ずかしいからやめてくださーい!」
 
 繭さんは恥ずかしがって身体をくねらせる、それがちょとエッチだった。黒田さんは写真を撮ってる間梨々香ちゃんを離さなかった。
 
 「黒田さん、さすがです……さて俺もスマホで撮るか」
 
 鞄からスマホを取り出すとガシッとその手を捕まれた。
 
 「……おい、貴様」
 
 胡蝶が体育座りのまま俺を黙って睨み付けてくる。
 
 「ハイ、スミマセンボクハ胡蝶ヒトスジデス」
 
 直ぐに胡蝶に謝った。もはや決まり文句だ、こう言わないと胡蝶は機嫌を悪くする。
 
 畜生……折角のシャッターチャンスなのに。
 
 仕方ないのでいじける胡蝶をスマホに撮った。
 
 「大我行ってこいよ」
 
 スマホで写真を撮り終わると胡蝶がそう言った。
 
 「えっ、けど胡蝶一人になるけど良いのか」
 「私は見とくだけで良い、それにちょっと気に食わねえが大我に友達が増えて欲しい」
 「胡蝶……ありがとう、じゃあ行ってくる!」
 
 胡蝶が俺を気遣ってくれてるのが嬉しかった。
 
 そうだ、胡蝶は普段は傲慢で乱暴だが本当は素直でときにはこうして俺を気遣ってくれる……俺は胡蝶のこういうところが好きなんだ。
 
 今日一日黒田さんと繭さんといっぱい楽しもうと思った。
 
 「おーい! 黒田さーん! 繭さーん!」
 
 俺は叫びながら走って二人の元へ向かう。
 
 黒田さんは写真を撮り終わり繭さんは無事に服が脱げたみたいだ。
 
 「おっ! 大我氏ー! 待ちましたぞー! …………えっ?」
 
 黒田さんは大事なカメラを砂浜にポトリと落としたが梨々香ちゃんは落とさなかった。
 
 「あっ! 大我さーん! ……きゃあああ! 大我さんだめですー! 捕まっちゃいますよ!」
 
 繭さんは両手で顔を隠す。
 
 「あれ? どうしたんですか?」
 
 皆唖然としてどうしたんだろう? まぁ確かに水着がないから代わりに下着のボクサーパンツ一枚だけど皆下着で泳いでいるようなもんだろ?
 
 俺達以外に海水浴に来ていた周りの人達がざわざわと騒ぎ始めた。
 
 ……はぁ、実のところちょっとどころかかなり無理があるのはわかってたよ――。
 
 
 ――私はあのバカを見送る。大我は下着一枚で走っていった。
 
 全く大我のやろう、私の気も知らないで。
 
 私は人形だ。だから海で泳げない。

 あのバカ捕まるぞ。
 
 もし大我が捕まっていなくなったらどうしよう、私はそのとき……。
 
 あまりの恐ろしい想像に私は震えた。
 
 「あのねぇ君ここは公共の場所なの! 君がよくても回りが不愉快な思いをするんだよ! 全くいい年してそんなこともわからないの?」
 「全くもってそのとおりですごめんなさい」
 
 大我は正座をしてここの海水浴場の監視員に怒られていた。黒田と繭はそんな大我を茫然と見ている。
 
 「はぁ……何であんなやつを好きになったんだよ私は」
 
 私は今まであったことを振り返る。
 
 大我は変態で嫌なやつだ……だけど私の言うことを文句は言いながらも一生懸命叶えてくれる。
 
 この旅行に来る途中の駅や電車で私という存在は余りに浮きすぎることが分かった。そのせいで大我が嫌な思いをすることも。
 
 ここに来たとき自己紹介で大我が私を紹介するときがあった。その時大我は言った。
 
 『……こっちが俺の彼女の……胡蝶です』
 
 ――私はこのとき大我に否定されたくなかった。だから無理矢理圧力をかけて大我に言わせた。
 
 我ながら最低な女だな……けど、大我に彼女と言われて……。
 
 「あのときは嬉しかったな」
 
 大我の彼女と言ってもらって存在が認めてられた気がした。だから嬉しかった。
 
 私を存在を許してくれて、なおかつ人間のように接してくれる大我を失いたくなかった、だからあの後展望台で私が彼女になることで大我の心に釘をさした……けど後悔する。
 
 大我と町へ出掛けたとき町中の美術品で変にみられた。それなのにあのバカは……大我は私に赤い蝶の髪飾りをプレゼントしてくれた。
 
 私はこの一瞬で大我に惚れた。こいつと一緒に居たいと思った。
 
 その日帰りのバスを待っていたとき私といると大我が嫌な思いをすることを思い出した。
 
 私は最低だ、大我は人間で私は人形だぞ……なのに私はこいつの彼女と言って大我を私に縛りつけている、大我はこれから先これで幸せになれるのか? 
 
 だから大我に尋ねた。私が本当にお前の彼女で良いのかと。だけど大我はそれでもいいと言った。
 
 あのときのことを思い出すと未だに嬉しくて泣きそうになる。
 
 大我はしばらくして監視員の説教から解放された。
 
 「いやぁー胡蝶、監視員に怒られて泣きそうになったよ、だから慰めてくれよ」
 
 大我は、そう言って笑いながら私の元へ来る。
 
 「ふん、自業自得だ変態」
 
 私はいつものようにバカにしたように言う。
 
 「ったく、胡蝶は優しくねえな」
 
 大我は冗談っぽく私の言葉に答える。大我とこうしてやり取りするのは好きだ。
 
 「大我氏大丈夫ですか? 水着なかったんですね」
 
 黒田がやって来た。
 
 「大我さん水着がないのに私のわがままに付き合ってくれたんですね……ごめんなさい」
 
 チッ、この女気に食わねえな私の大我をたぶらかしやがって!
 
 私は繭が嫌いだ。私とは正反対の性格で気が合わない。そして何より大我がこいつを気にかけているのがもっと気にくわない。
 
 「いえいえ繭さん気にしないでください、俺の自業自得ですから、あはは」
 「あの……今日はもう海で泳ぐのやめます」
 「何言ってるんですか繭さん! 今きたばかりじゃないですか! いいから泳ぎましょう、さぁ行きましょう!」
 
 大我は繭を元気付けて今度はズボンをはいて海に飛び込む。
 
 大我はバカだがこうやって人を気遣うところが好きだ。ただし繭じゃなくて私を気遣えよ。
 
 「やれやれ繭氏、大我氏もああ言ってますし泳いで楽しみましょう、私も大我氏……それに繭氏とももっと楽しみたいですからね」
 「黒田さん……はいっ!」
 
 そう言って黒田と繭は大我を追いかけて行った。
 
 黒田はあれほど大事にしていた梨々香とか言う風船を私の側に置いて行った。
 
 「あーあ風船梨々香、お前の彼氏あの繭に取られたぞ……おい、なんか言えよ」
 
 私はそう呼び掛けるが風船は反応しない、当然だこいつは生きていない。
 
 「はぁ、私が只の人形でも大我は私をを好きになってくれんのかな?」
 
 私は風船を膝枕して楽しそうにはしゃぐ三人を眺めた。
 

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