女神に毒殺されたら異世界でショタ魔法使いでした

奈楼小雪

第九話 王宮へ

 




 美形の女性達が、儀礼用の甲冑を着込み並んでいる。 彼女達は、皇帝直属の親衛隊の一つ、乙女部隊ワルキューレ。 全員が未婚、厳しい訓練と試験を超えた者が入れる部隊。 貴賎の区別は無く、貧しい農村の娘や公爵の令嬢が入隊している。 帝国内の女性陣にとっては憧れの職業。
 「うぁー綺麗」 「スゴーイ」
 ヤマト国の少女達も口々に彼女達に賛辞の言葉を述べている。 やがて、少女達は大型の魔導車に乗り始めた。 そして、私の前に人一倍、金髪碧眼の美しい女性が金色の甲冑を着て現れた。
 「ビアンカ・ミュラー乙女部隊ワルキューレ隊長です。チェイス・レッドアイ殿ですね」 「麗しき、乙女部隊ワルキューレ隊長おのビアンカ殿に歓迎していただけるとは、このチェイス感激で御座います」 「それでは、チェイス殿、此方の魔導車にどうぞ」
 私は、彼女に促され屋根が無い、魔導車に乗り込むが、周りの風景はシュールである。 乙女部隊ワルキューレと言えば、馬に乗り、駆け回っているのが、人間界のイメージ。 だが、魔族のイメージだと二輪魔導車に乗り、走っている。 その姿は、私が北斗拳ほくとこぶし星で見た、荒廃した大地を肩パットを付け走るモヒカン男たちと何処か似ている。 彼等は、ヒャッハーと言いながら、バイクを駆け回し、強面で有ったが、給水・配膳といった慈善活動をしていた。
 バタンと魔導車の扉が締まり、私の横にビアンカ氏が座ると車が動き出す。 彼女、ビアンカ氏は、地方の貧しい粉引き屋の魔族と人族のハーフ娘。 そんなある日、彼女は地方を巡回している魔法師判別試験団の試験を受け、魔法使いの高い適正を見出された。 やがて、彼女は帝都郊外の魔法学校に特待生として入学、頭角を現し、卒業後は乙女部隊ワルキューレ部隊に配属された。 その後は、東部未開拓地域からの魔獣の氾濫等、様々な戦いに参加。類まれなリーダーシップで、貴族出身の女子達からも【お姉さま・妹】と慕われる。 ある日、東部未開拓地域に来た、皇帝のひ孫が一目惚れされ、プロポーズされる。だが、【意志薄弱で、ナヨナヨした男は嫌いだ】と断る。 つい最近、魔族歴で三年ぶりに、皇帝のひ孫が東部未開拓地域から帰還、【意志堅固で、ムキムキマッチョの男】で戻り、再びプロポーズした。
 彼女は、【私は二十歳で引退します。それと同時に、結婚しよう】と皇帝のひ孫に、返答をした。 ひ孫は【三年後までに、東部未開拓地域を豊かな大地にする。そして、一緒に住もう】と彼女に約束をし、再び東部未開拓地域へ戻っていった。
 帝都では、この二人のやり取りが【モヤシ男は乙女に恋をしムキムキに成る】【乙女部隊ワルキューレ恋物語ラブストーリ】などと多数の書籍で売り出されている。 オープンカーから見える町並みの看板には、マッチョ半裸の笑顔男の横に、金色の甲冑を着て座っている美しい女性が、描かれている。
 「あれが、今、話題の【乙女部隊ワルキューレ恋物語ラブストーリ】の看板ですか?もしかして、お二人でお撮りに成られたのですか?」 「あの看板ですか?あの方が、東部開拓未開拓地域に持っていく私の写真を欲しいと言って……私は仕方無く……其れが、新聞に流れて」
 彼女は、頬を赤らめ看板から目を逸らす。彼女は、私の居た世界では、ツンデレという部類の少女の様だ。 町並みを見ると、魔族歴築百年の古い石組みの建物から最新の高層建築まで、綺麗に区画された土地内に建物が、並んでいる。 新旧の建築物が合わさっている中で、一際巨大な建物が現れた。 左右対称、赤い瓦屋根、中央の青い塔に立つ金色の乙女部隊ワルキューレの像が特徴的な、リーツェンブルク王宮である。
 メフィスト帝国の頭脳で有り、最高権力者の住んでいる建物は、昼夜問わず明かりがついている為に、不夜城とも呼ばれている。 皇帝は正直行ってメチャ忙しい。昼は人族・他魔族との謁見や会議。 夜は、幽霊ゴースト族等の夜行性ナイト魔族との謁見や会議。 夢の中でも、夢魔サキュパス族や悪夢ナイトメア族との謁見や会議。 寝ても覚めても、謁見と会議ばかりで休む暇が無いのが、この帝国の皇帝。その為、王子達も嫌がって皇家から独立して行った。 一時は、皇帝自身が皇帝制度を辞め、共和制にし、国民の中から選んで貰う民主主義制度にしようとした。 だが、多くの国民や権力者達は、自分に仕事が来るのを皆嫌がり、皇帝制度の存続を懇願し、皇帝制度が残っている。
 そう思っている間に、王宮正門が開き、衛兵達が敬礼をする。 人族から爬虫類の様に瞳が縦に割れたドラゴン族など、多数の種族が警備の任に当たっている。 やがて、オープンカーと大型の魔導車は赤い絨毯が引かれた、正面玄関で止まった。 彼女に、ドアを開けられ絨毯に降りると向こう側でも、少女達が魔導車から降り始めていた。 周りの風景を、興味深そうに、見ている少女達を見て、私は彼女にある提案をしてみた。
 「折角だから、集合写真撮っちゃだめですかね?僕の転写魔法が有れば取れますけど?」 「そうですね……まだ、謁見の時間にも余裕が有ります。いいでしょう、やりましょう!」
 彼女は少女達の方へ歩いて行き、同僚と少女達と話し始めた。 暫くして、少女達は移動を始め、正面玄関の前に三列に並んだ。  私は、少女達の近くに行き、両手の親指と人差し指で四角い枠を作り、少女達に声を掛けた。
 「皆さん、写真を撮りますよー、合図は一たすイチはニーで撮りますー良いですかー」 「「「「分かりましたー」」」」 「それでは、撮りますねー、イチたすイチはー」 「「「「ニー」」」」 「はい、もう一回、撮りますよー」 「撮りますねー、イチたすイチはー」 「「「「ニー」」」」
 パシッと取ると、事前に用意して貰った紙に転写し、次いでに硬化ラミネートと汚れ防止の機能を付与して、少女達に配った。 写真を貰った、少女達は皆嬉しそうな顔をしている。
 やがて、扉が開き私は、王宮の内部へ歩を進めた。

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