グンマー2100~群像の精器(マギウス)

奈楼小雪

第161話 人道それは便利な方便

  ――2100年6月17日09時00分 ホワイトハウス地下
 トーマス・エジソン大統領は憔悴しきっている。
 『中東の情勢は回復しないのか?』
 「ハイ、インド洋から出撃させている機体で空爆はしていますが効果は薄いです」
 『基地に残されていた兵士や民間人は?』
 「何とか半数を回収は出来ましたが……死傷者多数です」
 米軍統合参謀本部議長の答えに大統領は頭を抱える。 中東中で電気製品が使えなくなってから早1週間。
 電気が普通になったと同時に中東の各地の米軍基地は襲撃を受けた。 最初の内は奇襲によって防戦一方で各基地施設が占領され始めた。 が、さすが米軍だけあって逆に攻勢を掛ける事に成功、奪われた施設を奪還した。
 すぐさま、地中海と太平洋に展開中の新第六艦隊と第七艦隊が展開。 攻撃を受けている基地へ支援攻撃を実施。 オスプレイを使用し、味方を回収と増援を派遣。
 これが一週間という短期期間で出来たのは流石随一の軍事大国だけある。
 『で、中東全域の安定化にはどの位掛かるのだ?』
 「五年、イヤ十年です。食料事情が悪化し、暴動も起きています」
 『ビースト化したイナゴによる害か……』
 「ハイ、食料という食料を喰いつくしました」
 中東全域で発生したビースト化したイナゴの大量発生。 食糧庫に保存されていた小麦や商店の食料さえも食べられた。 それに伴い食糧難が発生し中東全域で内戦が発生したのだ。
 内戦は反米一色で纏まっていた武装組織が互いに食料確保に乗り出した結果である。 しかし、これにより中東に展開していた米軍は束の間の安寧を得たのだ。
 悩んでいる大統領の元へ一本の知らせが入る。
 「閣下!テレビを付けて下さい!」
 『どうしたのかい?』
 慌てて入って来た男を窘めながら大統領は手元のボタンを押しテレビを付ける。 映っていたのは、黒髪に黒い瞳の少年である。
 「我々グンマー校は、中東の食料危機に対して大規模な食糧援助を行いたいと思います。  ただし、これは日本国が滞納中の国連分担金の現物での納入となります。  なお、納入金額は一トンあたり1万円です。  予定としましては、一億トンで金額にして一兆円規模となっています。
  中東は食糧難が収まり、日本は国連分担金の滞納は無くなります。  極めて人道的●●●な案件でありながら両地域にとって利益になります。
  すでに、中東の主要国からも快諾をいただいており今日から支援に向かいます」
 『なんだと!グンマーが食料援助だと!』
 「閣下不味いです……見て下さい」
 横に居た秘書が大統領にパソコンを見せる。 そこには、穀物の先物取引のデータが表示されている。 ナイアガラの滝というべきか穀物相場が値下がりを始めたのだ。
 中東の食糧難を抑える為には国連の緊急食糧援助が必要になる。 そうなれば、大量の穀物が必要になり穀物相場が値上がりする。 っというのが投資家達の思惑であったが……吹き飛んだ。
 現在、一トン当たり6万円と高騰がグンマー校によりトン当たり1万に決まったのだ。
 『やつらの目的は穀物市場への干渉か!』
 「5年連続で豊作ですから余りあるのでしょうね。あと、非難は出来ませね」
 『確かに、人道を盾に取られたら我々は非難を出来ません』
 グンマー校の食料自給率は200%を超えておりダブついている。 現在は多くを倉庫に保管し需要と供給のコントロールを行っている。 5年間連続で豊作になった為に倉庫はパンパン。
 出荷しても出荷しても在庫がだぶついてしまう。 そこで、中東の食糧難に乗じて在庫を吐こうというのだ。
 各国の穀物メジャーからは反対や妨害が入る事も予想して人道を全面に押し出したのだ。
 『これで、我が国が反対や妨害したらまた中東が爆発するか?』
 「ですが、これで中東の内戦が終結したら我が国に矛先が向きます」
 どっちに転んでも米国にとってはマイナスにしか成らない。 反対したら、人権国家こと米国の看板が失われる。 静観し、食料が行きわたったら矛先が自国の領土と主権へ向かう。
 それを狙って、ロシアに大漢民国、各国が策謀を巡らすだろう。 人間の欲というのは、際限が無いのだ。 経済人である彼にはイヤという程分かっていた。
 『これを仕掛けたのはやはり、あの女か?』
 「ハイ、閣下間違えなく凛書記です」
 チッと大統領は舌を打つ。 この様な深い粘着質な嫌がらせをするのは彼の知っている限りでは凛書記しか居ないのだ。
 『フム、今の所は静観するが暫くしたら介入を行う。作戦を考えとく様に国防省に伝えろ』
 「ハイ、閣下」
 米軍統合参謀本部議長は部屋から出て行ていくのを見送ると大統領は目を閉じる。
 (凛の目的は中東の不安定化……だが、奴の狙いはそれだけ無い何があるんだ)
 不安を頭に残しながら、大統領は少しばかりの休息を取る事にした。

「グンマー2100~群像の精器(マギウス)」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「SF」の人気作品

コメント

コメントを書く