グンマー2100~群像の精器(マギウス)

奈楼小雪

第160話 混乱の世界へ


 ――2100年6月10日10時00分 ホワイトハウス地下
 米国大統領、トマース・エジソンの元には世界からの情報が送られて来ている。 最も多いのが、中東における情勢である。
 中東全域において電子機器が全て停止、市民生活に影響を与えている。 至る所での放火、暴動、政府へのデモ運動。 中東に配備された米軍空軍基地へは何者かの攻撃が行われている。
 『情勢はどうなっている』 「各基地周囲を正体不明の敵に囲まれ続け砲撃を受けています」 『支援の方は?』  「現在、第七艦隊及び本国から航空部隊を向かわせ航空支援を行っていますが」 『が、どうかしたのか?』 「弾薬、燃料の補給に戻る必要があり、支援基地が多数ありまして不十分です」
 米国空軍基地は中東の多数に展開している。 第七艦隊と本土から出撃する航空部隊では圧倒的に数が足りないのだ。
 『ロシアに大漢民国の動きは?』 「彼らは北海道から日本海に現れたアレで動けません」
 映し出されたのは巨大な装甲式飛行船。 船には【ヴァージン・オブ・アテナ】と描かれグンマー校の校章が描かれている。
 「長さにして500m、横100mの巨大な艦ですね」
 そして、別な映像に変わり巨大な100m程の砲門が展開され佐渡島へ向けられ放たれる。 佐渡島から巨大な閃光と爆炎が覆われ船からは飛行装置を付けた少年少女達がカタパルトから射出される。
 『グンマー校による佐渡島攻略か……』 「ロシア、大漢民国、高麗国、何れも非常呼集を開始しました」 『まぁ、あれだけの物を見せらればそうなるな』
 大統領は両手を合わせながら呟く。
 異様な機体に巨大な破壊力を持った砲塔。 先の姉妹機である【デウス・ウクス・マキーネ号】も単独で長期の航行が可能。 10年前のグンマー独立時にロシアも大漢民国も高麗国も反対をした。
 10年前の米国と戦った後は、第二次日本海海戦、第二次黄海海戦をグンマー校は両国と戦い勝利している。 大漢民国に至っては、朱音副首席により多数の艦船を失い日本海においては海禁政策を取っている程だ。  それが、日本海に現れたというのは彼らにとっては恐怖しか無い訳である。
 『で、NEO中禅寺湖はグンマーに協力を依頼したのか?』  「イイエ、してないそうです」 『なるほど、確かに【米軍の開放作戦の支援】という発表で世界を欺いたな』
 NEO中禅寺湖は現在、新潟方面の奪還を行う為に部隊を展開している。 それに合わせて、グンマー校は【ヴァージン・オブ・アテナ】を展開。 本州にいるビースト達を引きよせ始めているのだ。 グンマー校の正式発表では【米軍の開放作戦を支援】と言っている。
 あたかも、米軍とグンマー校の共同作戦の様である。 が、全く関係無いのである。
 とばっちりを喰らったのは米国である。 各国からジャンジャカと問い合わせが続いている。 【我が国は一切の関係は無く、グンマー校の独立した行動である】 と言っているが、各国はそんな事を信用はしていない。
 ロシアも大漢民国も国内に民族問題を孕んでいる。 それは、ビーストという共通の敵を得たとしても変わりは無かった。 彼らからしてみれば、米国とグンマーが何らかの策謀を企んでいると思わざるを得ないのだ。
 『今回はグンマーに感謝しないとな』 「ええ、ロシア、大漢民国が余計な事をしないお陰で我々の工作が上手くいっています」 『早めに中東の安定を願っているよ』
 そんな彼らの願いとは裏腹に中東では別な問題が発生を始める。
 ■  ■  ■

 オマーンにアラブ首長国連邦、クェート。
 「あれは何だ?」 「飛行機か?」
 人々は空の片方を見ながら声を上げる。 彼らは先日からの停電に続き治安の悪化にホトホト疲れている市民である。 黒い影はそんな彼らの頭上にやってくると大きく展開し一匹ずつ彼らの下へ降りて行く。
 「な、なんだイナゴか……」 「い、イタ!こいつ噛みついたぞ!」 「野菜が喰われる!こいつらビーストだ!」
 人々は逃げ始め家の中に入って行く。 彼らが逃げた後には多数のイナゴ達が大地に降り始める。 イナゴ達は周りの物を食べ始める。
 ほとんどがビースト化したイナゴであるが中に一匹だけ石でできた置物が存在する。 それは、周りのビースト達に指示を出すと何処かに消えて行く。
 リーダーの指示のままに彼らは辺り一帯を喰いつくし交尾し数を増やしていく。
 「痛いよママ―」 「助けてくれ―」 「うぁあああ」
 そんな叫びが辺り一面を覆って行く。 人々は持っている銃でイナゴを撃つが全くのダメージを与えられない。 ギチギチっとイヤな音を立てながら人々を襲い続ける。
 石でできたイナゴは中東の上空を飛んで行き、地中海も超える。 そして、巨大な装甲飛行船の中に入って行く。
 「お、帰って来たの?お疲れさん」
 少年はイナゴを手に取る。 手に取った瞬間にイナゴはボロボロと形が崩れ塵と変わる。
 「フム、中東はビーストに襲われ酷い事に成ってる様だ」
 どうやらイナゴから記録を読み取った様だ。
 「さて、凛書記に作戦の成功を伝えて我々、中東部あらぶの予算を貰わないと」
 そう呟きながらスマホを手に取る。
 のちに、【アラブの蝗害えんがい】が始まるのであった。

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