グンマー2100~群像の精器(マギウス)

奈楼小雪

第155話 中東部の活躍 前篇

  ――2100年5月25日13時00分 中東部アラブ地上部隊本部
 『ここが基地なのね』
 「ハイ、ここが我々の地上拠点になっています」
 姿を元に戻した言葉ことのはと少女は言い合う。
 周りには多数のディスプレイが掛けられており各国のニュースが報道さている。 また、別な所では装甲車等へ外装武器ペルソナが付けられている。
 「ちょうど、今の時間は我々の顧客が仕事をする時間ですね」
 映し出されたのは、上空のからの映像。 映像は何処かの市街の映像だが、多数の砲撃による土煙が市街に撒き散らしている。 砲撃の主は米軍の戦車部隊であり、市街へ容赦無い無慈悲な攻撃を行っている。
 土煙の中から突如として、装甲車が姿を見せる。 その装甲車は戦車の方へ一気に進み、攻撃を受けるが戦車に衝突し大爆発を起こす。 米軍の戦車数台はひっくり返り兵士達が火達磨になりながら転がり出てくる。
 『確か、前に話題になっていた……』
 「水素装甲車ですわ、私の能力を外装武器ペルソナ化した物です」
 『ああ、貴女の能力は【水素自動車ハイドロカ―】のでしたもんね』
 「ええ、使い勝手の悪い能力ですが戦場向きの能力です」
 そう言いながら、少女は指をパチンと鳴らす。 現れたのは、ラテン語で先駆けるプリウスという名称に似ている車である。 ただ違うのは、全てが水素で出来ているという点である。
 水素で動く車では無く、水素で出来ている車で水素自動車ハイドロカ―である。 勿論、乗る事は可能だが一番の凄い点は……。
 『最初は手の平から始まり、実物大へ、そして水素が有る所なら車と共に飛ばす事が出来た』
 「ええ、脳業デカルチャー部の能力開発のお陰です」
 そう、水素を通じて任意の地点に移動が可能になるのだ。
 『でも、毎回爆発するのは何とかして欲しいですね』
 「水素は不安定なのよ!どちらで爆発させるかまで調整出来るまでになった事を褒めて欲しいわ」
 パチンと指を鳴らすと先ほどまであった車が姿を消す。 先ほどまでの映像の中では米軍の兵士達が仲間を起こしながら味方の所へ移動している。 そんな兵士達の前に突如として車が現れた。
 そして彼らは閃光と爆音と共に砂漠に肉片として散らばる。
 『ウェーあいかわらず酷いね』
 「貴女の言質コミットメントに比べたらまだ可愛いわよ」
 『まぁ、そうですね。私の言質コミットメントもやっかいですからね』
 テーブルの上に天秤を置きながら言う。 言葉ことのは言質コミットメントっというのは相手の罪に介入する力。 世の中の人間に罪を犯した事が無い人間は居ない。 その人間が罪を犯したと認識した時、天秤は動き出し自らの罪を軽くする事を強要するのだ。
 『まぁ、世の中には自分のやった事を罪と思わない人間もいるけどね』
 「まぁ、怖い!一体誰の事かしら?」
 『そうだねー、羽仁冴子はにごこちゃんは人を殺して悪いと思った事が有る?』
 片手を肩に置きながら聞くが天秤は動かない。 どうやら、羽仁冴子はにごこという少女は人を殺す事を悪いと思っていないらしい。
 「別に?生んだ子供を捨てる親を含む人間という種族は滅ぼしても構わないわ」
 『流石、両親に捨てられて貧困の中で生きていた人は違うわね?我々も一応は人間だよ?』
 「ええ、人間にも適合者フィッターに悪い奴はいますからね。選別はしないと」
 『では、今、中東にいる米軍は?彼らは正義の為に来ていますけど?』
 「中世時代に中東に米軍はいなかったのです。殲滅する事は当然です」
 中東部アラブの正式名称は中世・近代古今東西研究部。 彼らの最終目標は、中東を中世時代に戻す事に有る。 その理論からしてみれば、中世において米軍は存在していない そして、中世にはイスラエル等の国家群も存在していない。 っという訳で彼らはそういった国々の存在も認めていないのだ。
 『これから、米軍は本気になって介入する予定ですけど大丈夫ですか?』
 「我々も潮時位は分かっています。暫くは裏で活躍する事にします」
 『裏で活躍とは?』
 「これを見て下さい」
 別な映像に変わり砂漠の中に煉瓦で造られた土色の建物が並び立っている。 建物の間は道路になっていたが突如として爆発、道路が吹き飛び水道管が姿を見せる。 別な映像では変電所の様な所が映ったと思いきやそこも爆発する。
 「各地域の電気水道等のインフラ設備を破壊します。中世には無かった物です」
 『そんな事をしたらこの地域で生きている人達は……』
 「中世にそんな物は無くても人は生きられました。だから必要無いのです」
 『原理主義者より性質が悪いですね』
 「彼らは古き良き時代の中東を目指しているのです。ですから、我々も中世に戻します」
 なんという暴論、欧米が入っていない中世時代の中東は確かにまだ栄えていた。 その時代は電気や水道等の近代的なインフラは存在していなかった。 それでも人々は大きな戦争で家々を失ったり難民になったりする事はあまり無かった。
 それが変わったのは、砂漠で油田で見つかった事に始める。 流動性が高く、火気を付けると燃え上がるという面倒な黒い液体が価値を持ったのだ。 同時に欧州・列強では石炭から石油へ需要が増え始めた。
 これにより、中東は欧州の介入を受け各部族、宗教ごとに対立が激化の一途を辿る。 2000年代は中東は毎日の自爆テロの脅威を受けていた。 その後は、油田を廻って泥沼の戦争を行っている 欧州や有志連合の橋頭保となっているのは中東の嫌われ者、荼毘手の星イスラエル
 彼らは元から優秀であるが、二度の大戦後は己を被害者特権で国際的に優位な地位に立っている。 そんな彼らはパレスチナ自治区という国内問題を掲げている。 10年前のグンマー校が群馬開放後の東京都への編入問題では積極的に編入賛成と国連で意見していた。 更に、日本政府へ秘密裏に戦費等の資金援助を行っていた。
 それは凛書記を通じて朱音副首席も知っており【ユダカス】と言われる事になる。 4年前には突如として【ソロモンの盾】が崩壊し第六次中東戦争が勃発する。
 「我々の中東での荼毘手の星イスラエル相手の戦いは終了」
 『はやり、アレはイタリアを開放の為の陽動で凛書記の陰謀だったのですね』
 「我々の目的と凛書記の目的は一致したです。だから、協力したのです」
 『普段は纏まらないアラブ各国が団結したのは……』
 「ええ我々がお膳立てしたからですよ!でも、それは終わり」
 突如として扉が開かれ少年が入って来た。
 「副部長!各部隊から緊急連絡です」
 「符号は?」
 「世界に冠たる我らが群馬です、世界に冠たる我らが群馬です」
 『一体何があったのです?』
 「中東各部族の長達の暗殺に成功しました」
 ディスプレイに映るは髭を生やした男達。 何れもイスラム連合や欧州側と手を結んでいる影響力の有る人物達である。
 「これより、永続的な武踏エンドレスワルツが発動を許可します」
 「分かりました!」
 敬礼をすると少年は出て行った。
 『恐怖と畏怖作戦は聞いていましたが次は聞いて無かったです』
 「秘密作戦だからね!報告はしていなかったね見た方が早いわ」
 別な映像に変わり、それぞれ違う油田らしき物が見える。 突如として黒い何かが通り過ぎると同時に爆炎が周りを呑みこむ。
 「各国の油田を破壊、中東に利権を持つ欧州石油企業は介入をせざるを得なくなる」
 『憎しみに怒りの連鎖、まさに永続的な武踏エンドレスワルツ
 「その通りです。後は神に祈り戦争が終わるのを待つのみ」
 『なるほど、宗教《ジ―サス》部が介入すると』
 「ええ、そうです。我々の仕事も今日で終わりです」
 そう言っていると周りの少年少女達が備品を片付け始めている。 彼らが表だって活躍する事は無くなり撤収準備を始めたのだ。
 同時に新たな勢力がここ中東で激突する事になる。

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