グンマー2100~群像の精器(マギウス)

奈楼小雪

第149話 必須元院長と凛書記


 ――2100年5月22日 21時30分 房総半島某所
 夜の街並みが人々の生活の営みを照らす。 バチッと音を立てて高台の街灯が消え、少女が姿を見せる。
 「流石、日本で最も過労死が多い街。こんなに輝いている」
 眼下に広がるのは眠らない街々の工業団地群。 少女が見ている間に、一台の黒塗りの車が止まり一人の老人が降りて来た。 夜なのにサングラスを掛け、黒い帽子と外套を着ている。
 『お久しぶりですね、相変わらずお美しいですね凛書記』
 パチッと街灯の光が灯され金髪に金色の瞳の少女が姿が露わになる。 少女の名前はグンマー校書記の妙義凛みりょうぎりんである。
 「で、余計な世辞は良いわ。全て順調なのに呼びつけるなんて」 『ええ、実に順調なのは良いのですが一度に減らしすぎです』 「やったのは、朱音ちゃんよ?私の責任ではないわ」 『ですが、世界規模では大騒ぎです』
 一晩で10万人の人間が焼ける。  このニュースが世界を駆け回った時の世界のショックは大きかった。 誰もが10年前の150万人が犠牲になった京都大火を想像した。 これにより、グンマー校と南関東校の争いに国連が介入するべきという意見が出たのだ。
 常任理事会でも掛けられたが米国が拒否を行使した為に議題が上がる事は無い。
 「分かっているわ世界中から介入を受け無い様にしろという事ね」 『その通りです、派手にやると世界中から注目されます』 「ええ、安心して!米国、ロシア、大漢民国は既に被害を受けているわ」 『テロにATMの暴走……まさか貴方が』 「さぁね?世界は広いわ彼らを恨んでいる組織など星の数ほどあるわ」
 両手を広げ肩を竦めながら言う。 嘘である……全てはこの女が仕組んだ事である。 米国におけるテロリスト達と中東の本家テロリストの繋ぎ。 ロシアと大漢民国におけるATMを逆転させたのも彼女がハッカーの繋ぎをした。 世間一般にいう何でも屋コンサルタントいう感じである。
 決して、凛書記は世界を不安定に陥れようとしている訳では無い。 ちゃんと需要に応じて供給するという極めて資本主義経済活動を行っているのだ。 ちなみに実行した者達は全員が天国の門を叩いている為、証言も無く証拠も無い。 っという訳で彼女の無罪なのだ。
 「さらに、英国とフランスさんも大問題が発生しました」
 スマホから映像が展開される。 テレビの報道番組だろうかアナウンサーがトンネルの入り口で泡を飛ばし叫んでいる。
 『ま、まさか!』 「中東アラブのテロリストがまた欧州史に一枚を飾りましたね」
 別な映像になりドーバー海峡上で海の上から煙が上がっている。
 ……そう、英仏海峡トンネルが何者かによって破壊されたのだ。 貨物シャトル列車に乗っていたトラック数台が爆発。 同時にシャトルが脱線、大量に積まれていた軍事物資に引火。 後はあっと言う間にトンネルが中折れ海水が浸入したのだ。
 「これで世界は中東に目が向く。やったね中東アラブちゃん!明日から友達が増えるよ!」 『な、なんという事だ!』 「っという訳であと40万人の殲滅は行うよ」 『貴様は!貴様は悪魔か!?』 「イヤ、天使よ?これは聖書に書かれているわ」
 天使と悪魔、どちらが多く人間を殺したと聞かれたら天使なのだ。 天使は通算で200万人、悪魔は10人しか殺していないのだ。 10年前に凛書記は非公式で月面基地と宇宙ステーション、経済的自殺者を含めると1000万人近くを殺している。
 まさに、雷の天使イカヅチエルと呼ぶに相応しいだろう。
 「っという訳で必須元院長さん?続けるわよ!貴方の情報も頂戴!」
 言うのが早いかあっと言う間に老人の前に立つと男の胸に腕を差し込む。 ビリっと音がし老人はカクンっと動かなくなる。
 「なんだ相変わらず、自律型スタンドアローンだったの」
 蹴飛ばすと老人の首が金属音を立ててガードレールに当たりバラバラに壊れる。 車から別な姿の装年のスーツ姿の男が現れる。
 『イヤ、イヤこの間も君に調べられた結果が私の拠点の一つが破壊されたよ』
 「そうね、石工職人ドワーフには世界中に支部があるものね」
 『我々、フリーメイソンを石工職人ドワーフというのは貴方方くらいですよ』
 「イヤネ、墓石でも掘っていれば良いと思うんですよ」
 クワっと男の瞳が開く。 自分が長を勤める組織を馬鹿にされたら流石に怒ったのだ。 男の名前は必須勝弥ひっすかつやといい、整形外科元院長。 フリーメイソンのグランドマスターである。
 「でも、脳みそだけに為った貴方には関係無い話かな?」
 『ど、どこでそれを!』
 「我々、GPUも世界中に友がいるのですよ」
 そしてこの男は現在は脳みそだけで何処かで浮いているのだ。 自分の躰に整形を重ねた男は遂に2020年に原点回帰に達したのだ。
 つまり【脳で有る事が究極の美】であると……。  が、自分の躰としての影響が大きい事を考慮し分身体クローンを造ったのだ。
 「知らないとでも思った?知っていて貴方の依頼を受けたのだから」
 『なるほど、情報的においても対等という訳ですね』
 「その通り!で、どうして40万人のNEETを殺す必要があるのかな?」
 『それは、仕事をしない者達を処分する為だ!』
 冷徹に機械じみた声で男は言う。  それを聞いた凛書記はフンと馬鹿にした様な声を出す。
 「てっきり、実験の失敗作の処分をさせる気かと思ったのにね」
 『なんの事だか分からないが?』
 「ビーストと人間を合わせるフィラデルフィア計画を知らないとでも?」
 グッと思わず男は言葉に詰まる。 続けて凛は声を上げる。
 「ビーストと女性を掛け合わせるに飽き足らず男達にビースト因子を植え付けた」
 『知られてしまったら仕方が無いな』
 彼らが行っている人とビーストを掛け合わせる非人道的な実験は必須元院長が携わっている。 人の一部とビーストの一部を合わせるには高度な整形外科の知識と技術が必要なのだ。 彼らの目的は、後天的に適合者フィッタ―を造りだしたのは選ばれた人類を造る事。
 異種と合わせる事が可能なのは女性や少女であった。 が彼らフリーメーソンは男達の男の為の組織である。 男も適合者フィッタ―に成る為にビーストの因子を入れた実験を始めた。
 「でも、実験は失敗。300人の因子を持った危険な人間が40万の中に潜んでいるのかしら?」 
 『流石だね、その通りだよ。名目はNEETの処分だが我々の真意はそこにある』
 両手を上げて降参というポーズを取る。
 「でも、私からしてみればどうでも良いんだけどね?」
 『君達は戦争より平和を望んでいるのでは?この状況は』
 「非常に有難いですね、人間相手に実践演習が出来るのですから」
 凛は笑顔を見せる。 この女が言っている事は本当である。
 グンマー校の戦っている相手はビーストが主である。 ビーストは半知性体である為に基本的に獣が少しだけ知性を持っている。 分かり易くいえば、5歳児の頭脳を持った脳筋の大人にナイフを持たせて歩かせる様な物。 基本は、お腹が空けば食料を集め、生殖本能が出たら交尾する生物である。
 そんな彼らの相手をグンマー校の生徒はしている。 だが、一部の生徒はビーストだけでは満足していない。  もっと【知的で考える生き物にんげん】と戦いたいと思っている。
 「戦いを仕掛けるのは簡単、だけど大義名分が無い」
 大義名分が無い戦争は侵略戦争と一緒っと凛は言う。 第一次世界大戦、第二次世界大戦、朝鮮戦争、ベトナム戦争。 アフガン戦争、テロとの戦い、イラク戦争、いずれも人は大義名分を創った。
 「だから、親衛隊を能登半島に移動させ大々的に宣伝をした」
 これを日光安全保障局N・S・Aや南関東連合の経済人や政府は好機と読んだ。 各県境に張り付けていた親衛隊を引っこ抜いて西側に転進したからだ。 そこで、【足尾要塞を奪還する】という名目で宣戦布告をした。
 「だからこそ、貴方達は足尾要塞の奪還を謀った!だけど私達、GPUを忘れていた」
 グンマー校の親衛隊は多くの生徒達から入隊希望者が多い。 外部へも顔を見せているのは多くが親衛隊である。 適合者《フィッタ―》や一般人の中でも人格成績とも優れた者が所属している。
 そんな彼らと対を成すのが群馬警備グンマー・ポリス統合部・ユニオン、通称GPUゲーペーウー。 成績は良いが人格的に難ありと判断された者達が所属している。 そんな彼らが共通して持っている感情が【人への憎しみ】である。 グンマー校の大半の子供たちが孤児という事から分かる様に、親に捨てられている。
 普通の子供以外にも適合者フィッタ―で有ってもそういう憎しみの感情はある。 そんな彼らが唯一師と仰いでいるのがグンマー校の賢治首席である。 今まで、売ったG型トラック顧客数は1万飛んで50人。
 彼の姿形すらみせず、納品する様は彼らの憧れである。 ちなみに納品された購入者は全員が黄泉路へ旅立っている。
 「戦争はまだまだ、続きます」
 『良いだろう!ならば、我ら南関東連合経済界の総力を持って潰すのみだ』
 「出来ますかね」
 凛の笑顔が吊りあがる。 ヒュルヒュルっと音がし黒い塊が降ってくる。  それは途中でバラケ、明かりが付いている工業地域上空が照明弾で照らされる。
 世界が昼間の様に、照らされ工場群の姿があらわになる。 サイレンが鳴り始め人々が騒ぎ出す。
 『き、きさま!』
 「敵の生産設備を叩く事は戦略の基本です。そして行うのが私!」
 バチバチっと音を立てて自分の身長より大きいハンマーを展開させる。 右手で持ち上空に向けて突き立てる。
 「では、ごきげんよう。そしてさようなら!雷神の一撃トールハンマー!」
 バリっと音と共に上空から巨大な蒼い稲妻が落ちてくる。 その稲妻は男と大地を焦がしながら周囲の工業団地の電気系統を破壊し尽くす。
 この日、南関東連合における工業地域が大規模な停電が発生した。 これにより工業団地は大損害を被り南関東連合は軍事的行動が停滞する事になる。

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