グンマー2100~群像の精器(マギウス)

奈楼小雪

第147話 妹の野望


 ――2100年5月21日 22時30分 明智平要塞
 明智平要塞とタワミのNEET部隊の戦いは小康状態を維持している。 それもそのはず、指揮を取っていた秋山部長代理は死亡している。 照貴琉男できるお課長代理も重傷で日光要塞に送られた為に指揮系統が混乱しているのだ。
 『退屈アンニュイだね、瑠奈ルナちゃん』 「そうだね、太陽サンくん」
 双子の兄妹である武尊太陽ぶそんさん武尊瑠奈ぶそんるなは夜風に当たりながら会話をしている。 弾にスナイパーが撃つ音が聞こえるが要塞内の陣地にいる限りは安心である。
 『それにしても今日の委員会の決定見た?』 「ウン、見たよ」 『サッカー部がスイスに高地トレーニングで遠征だって』 「あそこは山岳地域だし運動するにはもってこいだね」
 現在のスイスはビーストとグンマー校・聖騎士団の激戦地である。 グンマー校は経済学部にオカルト部、天文学部の100名を送っている。 少年少女達の混成部隊であるが、見た目麗しい少女達に惹かれたイタリア男達も付いて来た。 少女だけに任せて置けぬと教皇に直訴し、許可されたのだ。
 グンマー校も無碍に出来ず、浪漫部が試作した高度外装武器ハイペルソナの甲冑を供与した。 中世の騎士が着る様な甲冑を着てスイスの山を駆け回る彼らは聖騎士と言われている。 米軍の5個師団5万を全滅させたビーストに対等に戦えている点は脅威である。
 『サッカー部50名に建築部30名、鉄道部20名、浪漫・山岳・登山部で100名』 「ちょうど300名とは中隊規模だね」 『そうだね、これが丁度良い数だもんね』
 グンマー校が300名に拘るには意味が有る。 300名と武器や弾薬に食料をグンマー校の機体のAn-225、ムリーヤに載せると丁度良いのだ。 決して、テルモピュライの戦いという300人の全裸オッサンが戦う映画を元に決めた訳では無い。 っという事になっているが少しは影響を受けている。
 『僕もスイスに行きたかったなー』 「サン君それ本当?」 『冗談だよ!だってさ、こんな機会じゃないと人を殺せる機会が無いじゃない』
 ケラケラっと太陽サン少年は笑いながら言う。 群馬警備グンマー・ポリス統合部・ユニオン、通称GPUゲーペーウーに配属されている適合者《フィッタ―》はこんな感じである。 強い力を持ちながら色々と人間性に問題がある人物達が集う所。 その筆頭が朱音副首席と凛書記であり、管理をしているのは賢治首席である。
 一応は社会的なルールを守る事を旨としている。 人を無暗に殺さない、一般生徒として人間として振る舞う。 これが、賢治首席の指示である。
 「また、そんな事をいうと賢治首席から制裁を喰らうわよ」 『あの人は素晴らしいよ!退屈アンニュイさせてくれないよ!』  「ハイハイ、分かりますよ」
 イケメン顔でうっとりとさせながら空を見る兄を窘める様に言う。
 賢治首席が色々と問題がある彼らを統括出来るにはそう言った理由が有るのだ。 ある者は彼の様に首席に憧れ。 ある者は何時か首席を越えると誓う。
 「男同士で好きなんて気持ち悪い、首席が好きなのは私よ!」 『その根拠は?』 「この間の演習の時に怪我した私にハンカチくれたの!」
 そう言いながらポケットから黒地に金色の刺繍が入ったハンカチを見せる。 K・Sの頭文字と 五芒星ペンタクルが入っている。 嬉しそうにハンカチで頬を擦る。
 『ああ、確か限界を超えて傷ついた時に渡したやつか』 「そうよ!始めて上と下が分かれたけどお陰でこんなに良い物貰えたの」 『でも、良く生きていたね。首席の方が……』 「不思議なのよね、私の月の裏側ムーン・リバーシブルのカウンターを喰らっても平然としていたわ」
 っと首席に淡い恋の様な物を抱いている者もいる。 適合者フィッタ―の第一世代はその感情を抱いてはいない。
 『でも、瑠奈ちゃん。首席は第一世代だよ、恋という物は無いよ』 「サン君はこの頃話題になっている恋愛アプリって知っている?」 『ああ、アレね!第一世代様に恋愛という感情を創りだすアプリだっけ?』 「そうだよ!賢治首席と凛書記製なのよ!2人も最後に実証実験して認可された物よ!」
 第一世代が恋愛感情を持たないのは、ある意味で使い捨てを目的に造られた為とか。 大人が管理出来ない様な状況で男女が結ばれ、子供ができるのを防ぐためとか。 ビーストとの戦いでは恋愛という感情は無駄と省かれたとか。 と言われているがグンマーを担って行くのは第一世代である事は間違え無い。
 その為、賢治首席と凛書記は恋愛アプリを創ったのだ。 勿論、適合者フィッタ―にとってアプリとは食事と同じくらい重要な物。 下手にウィルス等が入っていたら大問題である。 その為、厳重なテストが行われている。
 最終的には生徒会及び300人委員会が許可したアプリが出されている。 許可されたアプリは少なくとも全国の適合者フィッタ―に供与される。 創ったアプリが良いと【神アプリ】として製作者は名誉を得る。 現在ランキングで【恋アプリ】は4位に入っている。 1位は【味覚アプリver300(近日手打ち蕎麦を更新予定)】。 2位は【便利アプリver300(日常マナーから軍事まで)】。 3位は【睡眠アプリver300(ナポレオン型やマサイ族型に対応)】。
 何れも脳業デカルチャー部の前橋宇佐美まえばしうさみが創った物である。 味覚を感じず眠らない適合者フィッタ―の第一世代からは【神】と認定されている。
 『だからと言ってね、瑠奈ちゃん君は中学生!首席は高校生なんだよ』 「男の人は若い子の方が良いって雑誌に書いてあったわ」 『イヤね、賢治首席の周りには言っちゃ悪いが魅力的な花々があるじゃないか』 「……」
 思わず瑠奈は空に上がっている月を仰ぎ見る。 兄に言われなくても瑠奈は分かっている。
 賢治首席の周りには凛書記、朱音副首席、彩華庶務、宇佐美などの容姿端麗な先輩達がいる。 彼女を月下美人としたら自分はスッポンである事くらい分かっている。
 「分かっているわ」 『分かっているなら、諦めた方が……』
 ボスっと音がしサン少年の腹に右腕が喰い込む。 完全に油断していた一撃に思わず吹き飛び塹壕内を転がる。
 「お兄ちゃんの様に、誰だって油断は有るわ」 『あの方々に其れが通じるとでも』
 よろよろと立ち上がりながら言う。
 「別にあの方々に勝とうとは思わないわ」 『ま、まさかお兄ちゃんはそんなの認めないぞ』 「ふふ、既成事実を創ってしまえば良いのですお兄様」 『やはり、お主も何処か可笑しい』
 中学校に入学したての少女がこの様に言う。 本当に可笑しい事である。
 「私は首席様に地獄中から拾って貰った、だからこそお返ししたい」 『そうだね、僕達を浮浪児から救ってくれた人だもんね』
 2人は関西地方で小学生時代は親に捨てられ孤児して過ごしていたのだ。 高レベルで無い適合者フィッタ―は、余り必要とされないのだ。 グンマー校はそういった彼らを集め教育し育てている。
 『僕達を此処まで強くしてくれた首席は偉大だ』 「多くの人が首席を尊敬し敬っている。ライバルの恋敵は300人」 『親衛隊と僕達GPUの共同組織の【首席近衛】の人数だね』
 首席近衛というのは、首席ファンクラブの別名。 5年前の首席暗殺事件以後に設立された表では存在しない部活。 米国でいうとCIAとNSA、DIAを合わせた組織。 両組織に所属し、首席を愛している人間が所属する。 凛書記、朱音副首席、彩華庶務、宇佐美等の名だたる少女が入会している。
 現在、首席を暗殺未遂を謀った米国と【(恋路を邪魔する)テロとの戦い】を名目に戦争をしている。っという様に首席の安全と守る為には大国にも水面下で喧嘩を売っている。 首席はこの部活については知らない。
 「そうよ、彼女達に勝たなければ私の望む未来は無いわ」 『頑張ってね』 「頑張る!」
 そう言い合う彼らの図上では彼らを応援するように星々が輝く。 恋も戦争……首席はどうやら300人程の美少女達に狙われている様だ。
 暗殺者や国家に狙われるよりもこっちの方が恐ろしいのだ。

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