グンマー2100~群像の精器(マギウス)

奈楼小雪

第145話 ホワイトハウスにて


 ――2100年5月20日 9時30分 ホワイトハウス
 トーマス・エジソン大統領は朝から多忙である。 先日のテロの始末に、議会や軍部との打ち合わせ。
 で、今は極東情勢について報告を受けている。
 『この報告書は本当かい?一晩で10万の兵士が消えるなんて?』 「ハイ、閣下。報告書の通りです」
 エジソン大統領は信じられない報告書を眺める。 それは先日の事、突如として日光要塞が炎上。 周囲に展開していた日光安全保障局N・S・Aとタワミ日本社の隊員が燃えた。 数にして10万人もの展開していた兵員と物資が吹き飛んだ。
 『マギウス波からのデータではグンマー校の赤城朱音あかぎあかねか』 「はい、彼女のデータは最も取れているので確実かと』 『っというかこんな事をして、焚きつけるのは朱音ぐらいしか居ない』 「情報部も同じような結論に達しています」
 米国、イヤ世界で最も有名なグンマー校の人間は赤城朱音あかぎあかねである。 趣味は自分に憎悪や憎しみ怒りの炎を向けさせる事。 使っているSNSやブログは常に炎上させるように挑発的な文言を並べている。
 最近では【NEO沖縄の海兵隊は日本人女性をレイプする為に派遣されている】の発言。 また、【米国はユダカスに操られている】【人を燃やすな?貴様らも豚の生姜焼きを喰うでは無いか?】っと言いたい放題の事を行っている。 メディアでも取り上げられ国際社会では問題に成っているのだ。 そういった人々の怒りや憎しみの感情は連日の日本大使館前でデモとなって表れている。
 が、日本政府としてみればグンマー校と日本政府は一つの国であり二重主権なのである。 一番近い形としては、オーストリア=ハンガリー二重帝国だろう。 天皇という国民統合の象徴を戴き一つの国としているのだ。 ただし違うのは、日本政府が同じ日本として迎え入れたく無いという点にあるのだ。
 理由としては憲法と県法で分けている点にある。 2100年の日本では平和憲法である九条は改定されている。 が、グンマー校は2015年以前の憲法を踏襲しており憲法9条を維持している。
 戦争を放棄します、戦力を持ちません、国の交戦権を否定します。 これら3つの事を含めた物を憲法9条という。 これについては記者から質問がタビタビされている。
 1.栃木及び南関東連合との戦争をしてるのでは? 2.戦力を持っていない割にはメンタルギア等の武器を持っているのでは? 3.国の交戦権を否定するという事については?
 これに対する凛書記の回答というと。
 1.あれは戦争で無く、国内の内紛であり相撲でいう可愛がりである。 2.精神の器であるメンタルギアを武器というならば人間は全員武装集団である。  また、それ以外の物は我々にとって装飾品アクセサリーである。  これは第二次世界大戦時にガダルカナルを奪還後の米軍が日本人を分析した書物にヒントが有る。  【日本兵の正体(DEBUNKING THE JAP SOLDIER】にも書かれている通り装飾品アクセサリーである。  よって、我々の使っているのは、装飾品アクセサリーであり武器で無い。  150年前の著書であるが米国は責任ある対応が求められる。
 3.我がグンマーは県であり国で無い。  よって県は独自に自衛権を持っている。  勿論、他国に侵略する気も無いし侵略するに魅力的な国家など今の時代存在していない。
 これを受けて世界中から米国に質問が飛んだ。 【日本兵の正体(DEBUNKING THE JAP SOLDIER】で装飾品アクセサリーとしているのか?】 確かに、言葉尻を捉えればYESだろう。 著書の中では精神を日本は重んじており武器を装飾品アクセサリーに過ぎないと書かれている。
  ここで大きな論争を生む。 グンマー校の使う外装武器ペルソナは精神エネルギーが元である。 150年前の著書では武器を装飾品アクセサリーに過ぎないと書かれている。 当時の米軍エリートでも精神論が技術として追いつくとは思わなかっただろう。 核より安全に100万単位で人を殺す精神の器たるメンタルギアの出現。
 普通ならメンタルギア規制をするが自由主義国家では【精神の自由】が保障されている。 精神の器を規制する事は、共産主義や社会主義国家と対して変わらない。 しかも、グンマー校には武器輸出三原則があり共産圏の国には武器を売っていない。 米国企業だけがグンマー校から高度外装武器ハイペルソナのライセンス契約を受けている。
 その為に米国は規制をする事は出来ない。 有る意味ではグンマー校の文化的勝利というべき展開である。 勿論、米国も外装武器ペルソナにおいて他国との技術的・外交・軍事的優位を得ている。
 その為に、他国から色々とチャチャが入り抗議活動となっているのだ。
 『あの娘は炎上させる事で自分の力を増やすのが目的だ』 「グンマー校からは、ホットコーヒーをアイスコーヒーと思う精神が必要と言われています」 『あれだな、心頭滅却すれば火もまた涼しという奴だな』 「その通りです閣下、良くご存じで」 『10年も人外魔境アウトオブヒューマンと付き合えば分かるさ』
 米国企業というのはジェネラル・エジソンG・E社の事である。 このG・E社のみが高度外装武器ハイペルソナのライセンス契約を受けているのだ。 5年前の事件以前は多数の米国企業が受けていたがそれ以後はG・E社のみになっている。 理由は簡単、それ以外の企業と当時の大統領が首席の暗殺を測ったからである。
 現在はG・E社のみが全てのライセンスを持っているのだ。 高度外装武器ハイペルソナを違法に生産する者は最強の弁護士集団が賠償請求する。 今までに数百の裁判に打ち勝ち10兆円近くの利益を得ている。
 そのG・E社の株式は彼が委託している財団が保持している。 現在の総資産は某窓達会社ウィンドズ系の会長を軽く抜き全米一位の20兆円である。 独占禁止とかと言われているが、別に独占している訳では無いだ。 高額な使用料を払えば使えるが費用対高価が合わない為に生産する企業が少ないのだ。   国民的には、G・E社が雇用を増やしてくれれば問題が無く反発が起きていない。
 『さて、ロシアと大漢民国だがてっきり爆撃機でも日本列島を巡回させるのかと思ったよ』 「いつもならそうでしょうが、今回は国内がそれ何処ろでは無い様です」 『まさか、ATMから現金が溢れるだけでこんな騒ぎになるとはな』
 投影される映像は大漢民国やロシア国内の市内を走り周る完全武装の兵士達。 彼らが集めているのは、地面に転がっている大量の紙幣。
 『どっかの書記がやらかしたのだろうな』 「ええ、先ほどスターリンを名乗る者からこの様なメールが送られて来ました」
 そう言いながら部下はデータを見せる。 【全ての権利を労働者ソヴィエトへ】と書かれている。 思わずトーマス大統領はフフフっと笑う。
 『まずはカネを市民にキャッシュバックという事か』 「その結果が無政府主義化アナキズムとは笑えない結果ですが」 『我が国は何か問題は有るか?』 「ロシア、大漢民国の官僚達が持つ秘密口座資金が戦死者基金として閣下の口座に振り込まれました」 『な、なんだと!幾らなのか?』 「額にして、50兆円規模です」
 50兆……目が飛び出る様な金額である。 が、二国には星の数程に無数の賄賂や収賄で利益を得ている者達がいる。 多くは軍や産業界との繋がりを持っている官僚である。 彼らの秘密口座から資金を不思議な力ハッキングで移動させたのだ。
 送った先は、世界の二国と対等に戦える国の大統領の口座である。 誰も文句は言えない……何故なら違法な手段で得た資金であるからだ。  返せと言われて、返す様な出来た人間は大統領になれないのだ。
 思わず大統領は持っていたペンを落とす。 (拒否権を行使した結果が是とは流石だ、凛書記) 平静を装いながら、再びペンを取る。
 『そうだな!国民に公表し戦傷者基金として運用しよう』 「すでに準備をしておりまして閣下の署名を戴ければ完了します」
 電子書類では無い紙の書類を見せる。 米国の公文書は不思議な力ハッキングで改竄されない様に紙である。
 『早いな!』 「担当のジェバンが300分で作製しました」 『持つべきは優秀な部下だな』
 そう言いながら内容を確認するとサインを完了した。 戦争で重要なのは、如何に相手に拳を振り上げさせないかである。 やっかいな二カ国が関与する事は無くなった。
 グンマーの戦いはまだまだ続くのだ。

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