グンマー2100~群像の精器(マギウス)

奈楼小雪

第143話 群馬300ズ 中編


 ――2100年5月19日 10時30分 茶臼山上空
 「やったか!」
 爆炎とを見て艦長は思わず声を上げたが、中から白い手が姿を見せる。  その手はそのまま外装武器ペルソナシールドを突き破り全通甲板に刺さる。 衝撃で艦が傾き艦長は身体を壁に打ちつける。 窓ガラスから見えるは、某三分で帰って行く正義の味方宜しく目を光らせた白衣観音像。
 「くそったれ!」
 そう言っている間にも観音像の刺さった手は甲板を一文字に切り裂く。 艦のあらゆる所から爆炎と煙が上がり高度が下がって行く。
 「こちら機関部!重力制御が低下しています!」 「何とかならんか!」 「だめです!重力制御装置が停止しました!」
 ゴゴゴっと音を立てて艦が重力に魂を引かれる様に降下していく。 もはやこれまでかっと全員が思ったとき艦長が声を上げる。
 「艦首の錨は生きているか?」 「ハイ、生きております」 「敵観音像に投錨するのだ!流石の、お釈迦様でも気が付かねえだろ」
 二ヤリと艦長は笑いながら部下に言う。 もはや艦が大地に墜ちて行くのは止められない。 だが……最後の意地で敵ごと引きずり降ろしてやろうというのだ。

 「了解しました!」
 部下も艦長の言葉を理解し凛とした顔で答える。 操作をすると艦首から錨が放たれ、観音像の手に巻きつく。 思わず観音像は躓く様に前のめりになる。
 「貴様も一緒に墜ちるが良い」
 艦長は傾く壁を背中にしながら観音像を睨む。 (このまま、墜落すれば観音を操縦している適合者《フィッタ―》もタダでは済まないだろう) そう思っていると突如として艦が上に動いた。
 「一体何が!?」
 思わず声を上げるとそこには切り落とした腕を持つ観音がいた。 生やした腕で切り落とした腕を持ちあげていたのだ。 切り落とした腕をそのまま横にいた艦の機関部に刺す。 腕は雲散霧消うんさんむしょうしたが錨は残っている。
 「くそったれ!同士撃ちをさせる気か!」
 全ては釈迦の手の平の上。 微笑む観音は踵を返しその艦にチョップをする。 艦橋部が大きくベコリと凹むと今度こそ艦長の乗った艦は高度を下げ始める。
 「覚えてやがれ!!!」
 艦長の絶叫と共に重量物と化した艦は高速で落下し大地に花を咲かせる。
 『3機撃墜完了!後は』
 加奈子が振り返ると他の艦も同じように撃墜され始めている。 彼女の傍に先ほど1艦を葬り去った仲間がやって来た。
 「残りは3艦程です隊長」 『あら、アッという間に墜ちてしまったわね』 「まぁ、ビーストに比べたら弱いですからね」 『確かに油断大敵よ』 「わかっています」
 そう言いながら敬礼をすると再び大空へ飛んでいく。 30分後、茶臼山上空に存在していた10艦の航空艦隊は全機が轟沈した。 帰還する艦が無くなったF-2のパイロット達は大洗方面に離脱。
 後に茶臼山空戦と言われる戦いが終わった。

 ■  ■  ■

 ――2100年5月19日 11時30分 日本ロマンチック街道
 ガガガッと銃撃音が響き隊員達が道路に縫いつけられる。 一路、馬返しを目指していた彼らはまだ辿りつけていない。
 「撤退!撤退だ!」 「あ、足を撃たれた!助けてくれ!」 「く、くそ、くそこれでも喰らえ」
 勇敢な隊員は銃を空へ向けて撃ち、臆病な隊員は逃げようとする。 先ほど上空を通過したグンマー航空隊が旋回し30mm機関砲を再び放つ。 勇敢な者も臆病な者も全員をミンチにしていく。 制空権無き状態では歩兵は単なる的にしか過ぎないのだ。
 やがて、日光側から大量のミサイルが飛んでくる。 グンマー航空部隊はミサイルを撃ち落とすが、多数のミサイルに押される様にして去って行く。
 「やったぞ!」 「グンマー校を追い払ったぞ!」 「このまま明智平まで行っちまえ!」
 銃を掲げながら隊員達は声を上げる。 が……突如としてミサイルは向きを変えると隊員達に向かってくる。
 「お、おいこっちにくるぞ」 「味方だぞ!」 「うぁああ逃げろ!!」
 彼らは逃げ場を求めて走り始めるが既に遅い。 多数のミサイルは彼らの頭上で爆発。 高温の熱の塊が彼らを覆い燃やし尽くす。
 上空でそれらの光景を見ているのはグンマー校の航空隊の生徒。 彼らは何れも最新のバイザーを付けており通信等もこれで行っている。
 「流石、凛書記です」 『無線誘導なんて使うなんて愚かに程があるわ』
 このミサイル達は無線誘導式で映像を見ながら飛ばしている。 双方向に通信回線が開いているから使える。 それに干渉出来る人間がいれば結果はこの様になるのだ。
 『さて、残りの連中も片付けちゃいなさい』 「了解しました」
 航空部隊は再び攻め始め逃げ惑う彼らの命を摘み取る。 声の主の凛は一体何をしているのだろうか?
 ■  ■  ■
 ――2100年5月19日 11時30分 榛名山生徒会室
 『けんさま、っという訳で敵のミサイルを撃退しましたわ』  「流石だね、凛書記」
 爆炎と煙幕に包まれる映像を見ながら賢治首席がいう。 凛書記は後ろから賢治首席に抱きついている。 制服の上からも見える豊満な胸が賢治首席の背中に当たる。
 「で、現在までの戦況はどうなのかな?」
 全く意に介していない様である。 凛書記は口を尖らせ少し不満そうな顔をする。
 『現在までに敵の航空艦を殲滅、地上では2万程を殲滅しましたわ』 「我々が依頼されているのは何人の削減だっけ?」 『ハイ、50万人程ですわ』
 50万という値を聞き思わず賢治首席は顔を顰める。
 「それにしてもNEETを対ビーストに役立てる事を彼らは考え無かったのか?」 『アノ洗脳装置もってしても一週間しか使えない人材だそうです』  「君が提供した洗脳装置が効かないとは、何という意思の硬さ!称賛したいな」 『頑固、融通が利かない、童貞、包茎、糞袋、魔法使いと言われています』
 賢治首席が言う洗脳装置というのは凛書記が提供している高度外装武器ハイペルソナである。 適合者フィッタ―は使えないが、一般人にはかなり使える代物である。 ロシアや大漢民国といった人権後進国で非常に重宝され購入されている。 欧州では死刑の変わりに洗脳により人格を変える事が議論されている。
 元のベースと成ったのは、凛書記の能力である。 何れも一台につき100億円程で購入されている。 各国は分解し調査を行い模造品を造ったが廃人のみを生み出している。 動く事も話す事も無い糞袋を量産化の成果生み出し、各国は模造を諦め輸入している。
 「残りは凡そ48万人だけど大丈夫?」 『勿論です、彼らには21世紀最後を飾るに相応しい第二の203高地戦を行って貰います』 「分かった!NEETの件は君に任せる、私は書類をかたずける」 『分かりました!けんさま』
 そう言いながら凛は賢治から離れ自分の椅子に座りながら指揮を取る。 賢治首席はNEO埼玉に行っていた間に溜まった300枚程の書類データを眺めため息を吐く。
 「さて、頑張りますか」
 賢治は一つ目の電子書類を見ながら電子半子を押し始める。 戦場は現場以外にも、生徒会室にも有るのだ。 

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