グンマー2100~群像の精器(マギウス)

奈楼小雪

第130話 スリーマイル島の危機 後編


 ――2100年5月10日 13時00分 スリーマイル島
 マスコミのヘリが飛んでいる中を海兵隊機のオスプレイが高速で飛んでいく。 やがて、その機体は回転翼を垂直にするとスリーマイル島原発に降りる。
 後部ランプから出て来たのは、カウボーイハットにサングラスを掛けた白人男性。 片手にはサーフボードを持っている。
 「ゴア・ビル大佐大佐殿、お待ちしていました」
 『状況はどうだ?』
 「最悪です!今にもメルトダウンしそうです」
 『分かった案内してくれ』
 大佐は室内で放射線防護服を切ると原子炉へ歩き始める。 中は熱く背中に付けた冷却装置がフルに動き始める。
 『熱いな……』
 大佐は思わず声を上げ右手の温度計を見ると80度と表示されている。 すでに放射性物質の飛散に備えて循環系は閉鎖されているのだ。 下には青く光る燃料プールが見える。
 『フクシマの様にはさせないぞ』
 そういいながら、大佐は原子炉の最上階に立つ。 下には、現在メルトダウン寸前の炉心が存在している。 右手に持っていたサーフボードを床に置き乗る。
 『外装武装ペルソナ作動!コール【スターリン】!さて、凛書記!停止させろ』
 「サーフボードの要件を満たしていない為に発動しません」
 足元のサーフボードから少女の無機質な声が響く。
 『サーフ―ボードの要件だと?』
 「ほら、そこにプールがあるだろう?波もついでに上げよう」
 ドーンっという音と共に壁と天井が吹き飛び破片が燃料プールに落ち波を立てる。 まさに少しだけ波がある感じの海岸線という感じである。
 「安心したまえ、水素ガスを使って爆発させただけだ」
 『私にこのプールに入ってサーフィンをしろと?』
 「そう、愛国心パトリオットがあれば米国人アメリカンは不可能を可能にする」
 ピきっと大佐の額に青筋が入るが、国の為と言われたらやるしか無い。 上着を脱ぎ、サーフボードを燃料プールに置き飛び乗る。 波打つプール内で煽られるサーフボードの上でバランスを取りながら立つ。
 『さて、約束は果たしたぞ』
 「オールライトレシーブ、君の勝ちだ」
 制御棒達が原子炉の内部に入って行く。 先ほどまで鳴っていた警報が切れる。
 『ははh、貴様の思うようにはッツ』
 バチバチッとサーフボードが青白く光り大佐がボードからひっくり返り投げ出される。 サーフボード上には、金髪に金色の瞳の美少女が立っている。
 「残念ながらなっているんだよねー」
 『なぜ、お前は日本にいるんじゃ……』
 少女がパチンと手を鳴らすと近くの燃料を引き上げるケーブルが大佐に巻き付き引き上げる。 ブランっと吊りあげられた大佐の傍に来て右手を頭に当てる。
 「そう、私は自分自身を量子化して何処にでも通信させ飛ばせる」
 『なんだと……そんな事が人間ニッつ!』
 「私は適合者フィッタ―、じゃーね」
 『やめうぁあああgっやああ』
 バチバチっと凄まじい閃光が大佐を貫く。 ガクッと躰を動かなくなった彼を見て床に放りなげる。
 「さて、彼の私との記憶も消したし中東で頑張る様に深層にも埋め込んだし仕事完了」
 バチッと音がしサーフボードが壊れると同時に少女の姿が消えた。
 ■  ■  ■
 ――2100年5月11日 05時00分 グンマー校榛名要塞
 バチッと電源から音がすると金髪に金色の少女が姿を現す。
 『おかえりなさい、凛ちゃん』
 「ただいまーけんさま」
 凛はそう言いながら、パソコンの前に座っている賢治首席に抱きつく。 モニターにはグラフや報告書が置かれている。
 『任務の方は完了したかい?』
 「勿論です、けんさま。どのくらい儲かりましたか?」
 『各国の仲間達のお陰で今の所は5兆円の利益確定だね』
 「さすが、けんさま。10兆円の投資で50%も得たのですね」
 賢治首席の総資産は30兆円。 違法な資金では無くG型トラックの売買で得た資金である。
 『米国さんには資金を渡して来た?』
 「もちろん、ついでだからもっと強気に参加できるようにしたよ」
 『どういう事?』
 「これを見てね」
 パチッと指を鳴らしながら映像を変える。 映るは6人の中東系の男女達で何れもカメラの前で何か言っている。 翻訳すると、【米国の第6次中東戦争へのイスラエル支援への報復】を口にしている。
 そして、映像は3つに変わりドローンからの映像に変わる。 映っているのは3台の大型トラックである。
 1台は5角形の建物、もう1台は市内へ、別な1台は尖った建物の近くに止まる。 そして、神を讃える言葉と共にトラックはそれらの建物へ向かい爆発した。
 『まさか、国防総省ペンタゴンに各国の大使館、ワシントン記念塔』
 「その通り、中東の過激派は何を考えているのか分からないわ」
 フフッと美しい顔を引くつかせながら笑顔で喋る。 賢治首席はというと予想外の事で呆然としている。
 「彼らは米国生まれなんだけど、人種差別で苦しんでた所をテロリストに勧誘されたようね」
 『へぇー良く国家安全保障局N・S・Aさんが気がつかなかった事』
 「梯子エシュロンでも見逃す事があるみたいだわね」
 『てっきり、君が梯子を外したのかと思ったよ』
 「一発なら梯子が外れるのも誤射かもしれない」
 賢治の温厚な顔が一瞬ピクリと動き凛も笑顔のままで止まる。 黒い瞳と金色の瞳が互いに見つめ合う。 ぐにゃっと何も無い空間が歪む。
 『わかったよ、今回のテロの酷さには抗議をせざるを得ないな』
 「そうだね、汚い爆弾ダーティー・ボムを使うなんてね。でも、米国製だよ」
 汚い爆弾ダーティー・ボムとは、放射能物質を含んだ爆弾である。 この場合は、直接的な攻撃より核汚染を生じさせる事が目的である。
 さらりととんでもない事を言った凛と賢治の瞳が再び合わさる。 メシッと音がして机に罅が入る。
 「これによって、米国世論は沸騰し世界はテロリストの殲滅を目指す」
 『で、今回の我々はテロを非難し人道的支援をすればよいと』
 「その通りですわ、けんさま。我々と米国は共通の敵テロリストと戦うのです」
 つまり、凛書記達が掲げて来た【米国とのテロとの戦い】をやめるという事。 彼女達●●●が方針を変えるだけの結果を出したという事。
 「後の2人とメンバー達も同意しています。後はお任せします」
 笑顔で賢治の頬にキスをすると風呂場の方へ向って行く。 それを見送り賢治は再び仕事を始めた。

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