グンマー2100~群像の精器(マギウス)

奈楼小雪

第127話 仕掛けられた者と仕掛けた者


 ――2100年5月11日02時30分 馬返し
 草木が寝静まった丑三つ時。 照貴琉男デキルオは1人報告書を読みながら頭を抱える。
 「2日で5万の損害!?敵に与えた損害は無し」 「しかも、矢路一男やるかずお屋良凪男やらないおが敵スパイ容疑で逮捕?」
 報告書を読みながら声を上げる。 
 ~~報告書~~
 明智平要塞の攻略は勇敢な隊員達によって行われている。 2日で僅か5万人の損害で敵の中禅寺湖への侵攻を防いでいる。 隊員は100万の兵士達を導入する予定なので問題は無い。
 また、矢路一男やるかずお屋良凪男やらないおをスパイ容疑で逮捕した。 敵の襲撃から唯一生き残り、敵から受け取ったと思われる書類を持っていた為である。 専門員が尋問を行っているが、強情にも口を割らない。
 100万の兵士は日光要塞経由で随時投入される。 貴殿はこちらの作戦指示通りに隊員達を使う様に。
 ~~終了~~
 報告が書かれたタブレット端末を壁に投げる。 ベコッと音がし、壁にタブレットが刺さる。
 「何故だ!彼らは味方なのに敵だと思った!!」
 頭を抱えて机に両膝を付ける。 彼は知らないのだ、2人に手紙を持たせた少女の存在と持たせた手紙の内容を……。
 内容は何が書かれていたのだろうか……
 ■  ■  ■
 ――2100年5月11日02時30分 明智平要塞内
 砲撃音が鳴り響く深夜の要塞付近だが、要塞内は静かに静まり返っている。 要塞内には簡易的ではあるが、タワミ上級社員用の大風呂が存在している。 今入っているのは、1人の少女。
 「で、津久江つくえちゃんは依頼通りに書いてくれたの?」 『勿論、凛書記さまに頼まれたら無碍には出来ないわ』 「あら、様なんて付けなくて良いわ。私達は対等なのだから」 『わかっているよー、でアレはどういう意味があるのかな?』
 谷川津久江たにがわつくえは投影されたスマホに移る凛書記に尋ねる。 凛書記も同じように、風呂の中で何も纏っていない。
 『あ、アレね南関東側の最新暗号譜面の一部で、平社員も知らない物』 「なるほどね、派遣社員が持っていたら問題になるわね」 『何処で手に入れたか拷問でもされていると思うわ』 「あとスマホの方は何が入っていたの?」 『企業連合側の優秀な社員君達が、匿名でグンマー校と取引したと思わせるデータ』 「悪辣な女王様だこと」 『企業に忠誠を尽くすのは良いけど挫折も必要なのよね』
 金色の瞳を笑わせながら、金髪の髪を撫でる。
 妙義凛みょうぎりんがやったのは離間りかんの計。 企業というのは正社員と派遣社員、中管理職と正社員間で壁が有る。 経営者というのは、そういった互いのしがらみを上手く使い会社を動かしている。 が、これは互いに嫌いあいながらも信頼をしているという薄氷の信頼で成り立っている。
 これらは、失敗や裏切りをすれば窓際や降格という罰が有り。 成功すれば、報償を与えるという信賞必罰が存在している。 ここで面白いのは企業に重責を担う者が裏切りが判明した場合は、見せしめ的に重く罰するのだ。
 『日本のサラリーマンは200年変わっても江戸時代と変わらず、自社を奉公先とみている』 「そして、企業は何れも血縁によって成り立っている」 『上層部が愚かで腐っていても下が優秀なら100年でも200年でも存続出来るわ』 「だからこそ、核心コア技術を持ち優秀で勤勉な社員が裏切ったと思わせたのね」 『ええそうよ、企業の人事と経営者は馬鹿だから彼らを一度、重要プロジェクトから離し様子見するわ』 「優秀で有れば、自分が置かれた境遇の変化が分かるわ……そういう事、怖い人」 『気が付ける人間と気が付けない人間、私なら気が付く人間を選ぶわ』
 切れ目で蒼い瞳を凛に向けながら髪を撫でる。 凛が実際にやった事は、無実な人間が企業を裏切った様に見せかけて干させる事。 仕掛けたのは凛だが、鉈を振るうのは人事がやる事。
 それに気が付き、人生に絶望した者を凛が何らかの方法で救うのだ。 気が付かずタダ平凡な生活を送る者は……ただ普通の生活を送って貰う。 何と寛大で優しいのだろうと思った人は、実に怠惰で面白が無い人生をこれからも送るだろう。 何と冷徹で陰険で極悪非道な人間と思った人は、悩み多き人生を送り転職タイミングを逃すだろう。 サラリーマンという人生はそういう人生なのだから、仕方が無いのだ。
 「さて、私は出るわ」 『あら、もう少しお話していたかったのね』 「戦場が私を待っているわ」 『頑張ってね、死の机デスデスクちゃん』
 凛がそう言うと映像が切れ通信が終わる。 津久江は風呂場から上がると机を召喚する。 召喚された机からは、黒い舌が出て火照った白い身体の隅々を舐める。  髪から足先まであっという間に乾燥する。
 「ありがとうね」
 脱衣所に向かいながらいうと、机は嬉しそうに飛び跳ね姿を消す。 置かれていた下着と人民服を着ると脱衣所から出て行った。
 ■  ■  ■
 ――2100年5月11日04時00分 馬返し
 そんな彼女達の思惑を知らない照貴琉男デキルオは頭を抱える。 明智平要塞の戦いは、もはや消耗戦になっている事に気が付いたのだ。 規模でいうならば、第一次世界大戦の【パッシェンデールの戦い】に匹敵するだろう。 出来る男の照貴琉男デキルオは気が付いたのだ。
 沿岸部からのミサイルやトマホークは敵航空部隊に撃墜され有効性は無い。 偵察衛星など存在せず、偵察機は撃墜され有意義なデータは得られていない。 五里霧中、敵戦力不明の中で兵士達を突撃させていくのだ。 馬鹿らしいとしか思えない。
 「一体我々は何の為に戦争をしているのでしょうか」 『そうだな、我々は与えられ任務をこなすだけだ』 「ゴア・ビル大佐!何時の間に!」 『起きたら、部屋のライトが着いていたので心配して入ってみたんだ』
 照貴琉男デキルオが壁に掛けられた時計をみると4時を示していた。 悩んでいる間に時間が経ってしまった様だ。
 「大佐どの……この報告書を見て下さい」 『何々、何だと!2日で5万の損害!』
 ワナワナと手を震わせながら報告書を読む。 暫くして、頭に青筋を浮かべる。
 『まったく上の連中は何を考えているのだ!』 「ええ、最悪です。100万のニートの軍勢で押しつぶすつもりです」 『私は賛成は出来ない、航空支援も敵情報も満足に無い中では兵士を殺すだけだ』 「同意です。なんとか敵の情報だけでも得られないかと思っているのです」 『分かった……昔の恩を売った友人に何とか情報を得て見よう』 「ありがとうございます」
 照貴琉男デキルオはゴア・ビル大佐に頭を下げ大佐は部屋から出て行く。 果たして、大佐の友人とは一体何者なのだろうか?

「グンマー2100~群像の精器(マギウス)」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「SF」の人気作品

コメント

コメントを書く