グンマー2100~群像の精器(マギウス)

奈楼小雪

第120話 明智平要塞


 ――2100年5月8日08時30分 明智平要塞
 明智平展望要塞とは、旧明智平展望台に作られた要塞。 元の名前は明智光秀によって付けられたと言われている。 矢ヶ崎の戦いで敗北後、天海僧正を名乗った後に己の名前を残す為に付けたらしい。
 NEO中禅寺湖と同じく北からのビーストの侵攻に備えて頑丈に作られている。 標高1373mに作られた要塞は、峻険な崖にクネクネと曲がった道という天然の要害。 凡ゆる所に塹壕が掘られビーストの長期戦が可能である。 ある意味で、日光市防衛の為の天王山でもあるのだ。
 ただ、NEO中禅寺湖要塞とは異なるのは、自動化が進められているとう点にある。 7000門を誇る120mm砲弾やガトリング、ミサイル砲台。 これらが戦闘指揮所C・I・Cで一括管理できるという点にある。 その為、凡そ100名もいれば管理が出来る要塞なのである。
 今までは訓練された派遣の兵士達が詰めていた。 過去形である……現在は何者かによって占領されている。 派遣の兵士たちはというと全員の姿が無い。
 「瑠奈るなちゃん全部の掃除終わったよ」
 「太陽さんくん、お疲れ」
 ブレザーを着て左目が朱い美男子とセーラ服を着た右目が蒼の美少女が言い合う。
 「退屈アンニュイ過ぎて、全員燃やしてしまったよ」
 「そうね、精鋭の兵士と聞いていたけど対した事が無かったわね」
 『あら随分余裕ね!お姉さん嬉しいわ』
 2人に抱きつくのは、薄い茶髪のショートヘアにデコ出しルックで翠色の瞳。  作られた様な美しい少女である事から適合者フィッターである事が分かる。 年が近い兄弟姉妹がじゃれあっている様に見える。
 「定子さだこ先輩は第二いろは坂の制圧は終わったのですか?」
 『勿論よ、サン君!トンネルも崩して来たし適度に兵士を削って来たわ』
 角が血まみれの巨大な直角三角形定規を見せる。 古き良き時代に有った学校に有った数学の授業で使うアレである。 彼女の名前は、朝日定子あさひさだこで演劇部の朱軍あかぐん派である。
 『小さくて、暖かくて男の子ってほんとイイわ』
 抱き上げながら黒髪をワチャワチャと撫でる。 少年は少し妹の方をチラリと見るが無視された。 どうやら、自分が犠牲になるのは嫌な様だ。 頬をスリスリしながら、太陽さん少年と一緒に眼下の風景を見る。
 『眼下の敵は殲滅された様ね』
 第一のいろは坂は、朱に染まっている。 太陽の光では無く人間の血である。 第一いろは坂の隊員達は全員が戦死した。 凡そ一個大隊、1000名が今年の自殺名簿に名前を連ねた。
 「で、お姉さん。この血だらけの道はどうするの?」
 『安心して、いま彼女達が綺麗にするわ』
 指を差すのは、2人の美少女達がいる所。 1人の少女が座っているのは、学校で使う普通の机。 その机の教科書を置く場所から黒い影が這い出て来る。 その影は周りの死体や血をアッという間に吸い込む。
 「凄いですね……あいかわず」
 『あんなに大量の肉と血が何処に消えるのか不思議よね』
 「定子先輩はご存知無いのですか?」
 『うーん、津久江つくえちゃんも良く分からないんだってね』
 手を振ると2人の少女達は、此方に飛んで戻ってくる。 何れも背中にリュックサック型の飛行機装置を付けている。
 「「ただいまーー」」
 『お疲れーー2人とも!加減の方はどう?』
 「もちろん完璧よイロハ坂の道を破壊して来たわ」
 『それは何より、ここが天王山よ頑張っ行くわよ!』
 「「「「おー」」」」
 4人はガッツポーズで腕を上に上げる。

 ◆  ◆  ◆
 ――2100年5月8日08時30分 ロマンチック街道
 その頃のヤルオ達は、装甲車に乗りながら一路イロハ坂を目指している。
 「ヤラナイオ、さっきの話しは本当だお?」
 『本当だ、明智平要塞は対ビーストの難攻不落の要塞だ』
 「難攻不落なのにどうして陥落しただお?」
 『分からないが、プロ市民っというのは嘘くさい』
 「嘘だお?じゃ、奴らは何もなんだお」
 ヤルオが聞いた時に突如としてドンと音がし装甲車が停止した。 まだ馬返し前で、目的地のイロハ坂には程通い。
 「敵襲!!」
 周りに声がし、ダダダダっと銃撃音が響く。 ヤルオ達の前に銃を構え装甲車から出て行った隊員が撃たれ倒れる。 ドーン、ドーンと大地を震わせる音と共に装甲車がなぎ倒される。
 「一体何があったお?」
 倒れた装甲車を盾にしながら周りを見る。 土煙が上がり見えないが、ヤルオは土煙から飛び出て来た人影を見た。 思わず銃を構えるが、トリガーを引く前に相手の姿が見えなくなった。 ヒュンっと風を切るような音がし再び周りが土煙に覆われる。
 「ヤラナイオ!綺麗な女の子が飛んでいたお!凄い綺麗だお!」
 『ああ、あれがグンマー校の適合者フィッターだ』
 ヤルオが見たのは、黒い服に金線が入った制服が特徴のグンマ校の制服。 顔が綺麗なのは、適合者フィッター特有の造形だからである。
 「あんな可愛い子が、グンマー校に居るなんて捕虜にしてあんな事やこんな事」
 『不味いな、不味いぞ』
 「何が不味いだお?」
 『制空権が奪われたという事だ』
 「直ぐに後方から飛行隊が来て奪還してくれるお」
 『そうだと良いけどな、下手したらこっちに来れないかもしれない』
 ヤラナイオの予想は的中する。 同時刻、南関東連合から宣戦布告を受け館林要塞と古河要塞が衝突。 利根川付近で大規模な陸空戦が発生。 茨城空港及び、成田空港から飛びたった戦闘機や爆撃機は古河要塞へ向かってる。
 古河要塞を抜かれたらアッという間につくば学園都市に迫られる。 優先順位を付けるならば、古河要塞が優先されるのは仕方が無いのである。
 「ヤラナイオ!どうするかお!」
 『取り敢えずは、馬返しまでに行くべきだろうな退却は許可されていない』
 2人は武器を持ちながらロマンチック街道を歩き始める。 先頭の方に来ると装甲車が爆炎を上げて停まっている。 どうやら頭を抑えられ道を塞がれた様だ。
 『細道で先頭と最後尾車両を潰す。戦闘の常識、後は』
 「後はなんだお?」
 ヒューンっと上から風を切り裂く音がする。 2人が上空を見ると急降下した少女が、黒くて細長い3m程の物体を投げた。 そのまま落下するかと思いきや分解、小型の10cm程の物体が降り注ぐ。
 『クラスター弾で攻撃って決まっているんだ!逃げるぞ!』
 「どこにだお!」
 ヤルオがいう前にヤラナイオは襟首を掴むと茂みに飛び込む。 茂みの先は側溝だった様で2人は仲良くそこに入る。 ドーン、ドーン、バキバキっと音がし土煙が上がる。
 「痛いおヤラナイオ!声を掛けて欲しい……」
 土煙が晴れ文句を言いながら側溝から顔を出す。 が、文句は途中で止まる。 目の前の光景に絶句してしまったからである。
 街道はアスファルトが捲り上がり、装甲車が大地に刺さっている。 至る所で炎と煙が上がり、肉が焼ける匂いがする。  ツンと鼻腔をつく臭いに思わずヤルオは胃の中の朝食を吐き出す。
 『大丈夫かヤルオ?』
 「ウェええ、ヤラナイオ。何んだこれはお」
 『戦争だ』
 「嘘だお!こんなのが戦争なんて!」
 声を上げる前にダダダダット銃撃音が響く。 再びヤルオとヤラナイオは側溝に隠れる。 銃撃音と悲鳴が聞こた後静寂が支配し、小柄な足音が聞こえる。
 「こちらプロ市民010馬返し前、敵勢力の掃討を完了。これより帰投する」
 少女の声で思わずヤルオは少しだけ顔を出す。 黒髪に蒼い瞳の丹精な顔の少女が、背中のマニュピレータから出た銃を両手に構えている。 どうやら、報告を上げている様だ。 報告をしながら、呻き声を上げている兵士達に容赦なく銃を放つ。 撃たれた兵士達は肉片に変わる。
 暫く周りを見渡したあとに、少女は背中から火を噴くと空に飛んでいった。
 「なんだお、アレは悪マダオ」
 『アレが、グンマー校の適合者フィッターの第一世代』
 「グンマー校?プロ市民じゃないのかお?」 
 『あんなプロ市民があってたまるか!
 ヤラナイオは吐き捨てるように声を荒げる。 その通りであるが、その通りでない。 彼等は軍事方面に強い、プロ市民なのだ。 ネットに強い弁護士がいるなら、軍事方面に強いプロ市民もいるのだ。
 「ヤラナイオ、次はどうするかお?」
 『取り敢えず上官を見つけて、次の指示を仰ぐ』
 「分かったお」
 2人は炎と煙が上がる所を避けながら指揮官車両を探す事にした。

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