グンマー2100~群像の精器(マギウス)

奈楼小雪

第118話 米国とグンマー校 後編


 ――2100年5月5日10時00分 米国国務省
 会談様に用意された部屋の扉が開く。 姿を見せたのは、灰色のショートヘアに蒼い瞳、小動物の様な可愛さの少女。 創られた様な美しい姿から、適合者フィッターである事がわかる。 名前は、藤岡言葉ふじおかことのは16歳。 所属は討論ディベート部の部長である。
 『こんにちは、ベル長官。お疲れの様ですね』
 「貴女はお変わりが無いようですね」
 『適合者フィッターは疲れません、閣下は国防総省ペンタゴンのクレームでお疲れかと思います』
 「ご存知でしたか?」
 ベルは肩を愉快に笑わしながら、右手を出す。 言葉も笑顔で右手を出し握手をする。
 『アレは、我々の責任では有りません。認証コードが送られて無かったのが原因です』
 「飛行計画フライトプランにも書いてありましたが、アチラが五月蝿くて」
 『仕方がない事ですね、悪くは無いですけど通行料としてこれを差し上げます」
 持っていた鞄から分厚い書類を渡す。 ベルは言葉に座る様に促し、座りながら書類を見る。 書類に穴が空かんばかりに食い入る様に見つめ、言葉の方を見つめ直す。
 「これは、まさか……本当の事で?」
 『ええ、中国政府とロシア政府・英国の対ビースト基地上空の様子』
 「よく高解像度で撮れましたね、しかも中東の我が軍や武装勢力まである」
 『マッハ5で高度3000ft(約1km)の光学ステレスで気がつかれませんでした』
 この世界では10年前の群馬独立戦争グンマワー以来は、人工衛星が全て消滅している。 打ち上げ機材がある地域はビーストが闊歩している為に打ち上げが出来ていない。 世界は第二次世界大戦前の宇宙空間に戻った為に、各国は偵察機に頼らざるを得ない状態。 使われなったSR-71等が復活したのもその為である。
 SR-71がステレス性に優れているといっても、相手に対策が無いわけでは無い。 ステレスを探知するレーダーの開発・実戦投入もしている訳で有る。 深入りすると撃墜され、折角の情報を得られなくなり外交問題にもなる。 そういう訳で、偵察するにしてもバレない所をギリギリ飛ぶようにしている。
 今回のグンマー機は異常。 対ビースト基地という最も警戒が厳重な場所を超低空で飛行している。 それだけ得た情報も多い、最新の機体から無線周波数まで多数の情報を得ている。
 『これだけ有れば、国防総省ペンタゴンも文句は無いでしょうね』
 「ええ、文句など有りませんでしょうね」
 『別な情報が欲しい場合は、対価次第でお渡しできます』
 16歳の少女と思えない笑顔でベルに水を向ける。 向けられたベルは、苦笑いをしながら書類を机の上に置く。
 「で、フィリピン地域へのグンマーの参加要請の結論はどうなりましたか?」
 『ええ、条件次第では考えて良いと思っています』
 「条件とはどの様な物ですか?」
 ベルは言葉の言った内容を考える。 この場合は、米国との貿易かそれともそれ以外の要求か……。 そう思っていると1枚の封がされた封筒が渡される。 黒に金色の印で封をされている。
 ベルが封を切り封筒を出し中身を見る。
 書類にはこう書かれていた。 1.米国は英仏露への対ビースト名目で物・人・金の支援を辞める。 2.変わりにNEOスイス・ヴァチカン・イタリア連合国へ支援を行う。 3.日本政府及び、南関東校へ対グンマーからビーストへ圧力を加える。 以外にもグンマーにとって利益のある事が書いてないのだ。
 「こんなので良いのですか?てっきり余りグンマーへ利益が無いですが」
 『イエ、我々には大変利益が有ります』
 そう言いながら、言葉は別な書類をベルに渡す。 書類には写真と分析された報告が書かれている。 写真には西側の洗練された戦車や武器、東側の社会主義感が滲むゴツイ戦車等。 東西の武器見本市の様な状態である。
 場所はNEO中禅寺湖、国連軍所属の部隊である。 本来ならビーストとの戦いを行う米国陸軍所属の部隊である。
 『NEO中禅寺湖要塞には、PKOの為に米英仏露の四ヵ国が駐留していますよね?』
 「そうですが……この規模でビーストの戦いを行うにしても国務省には連絡が来てませんが」
 『ええ、彼等は正規軍では無い部隊なので協定上では通達が必要無い部隊です』
 そう言いながら更に別な書類を渡す。 書かれているのは、とある日本企業名で名前をタワミ株式会社の動向。
 タワミは、2000年代は外食や農業や居酒屋や介護事業が主で有った。 社長は全盛期には、国会議員をやっていた。 が従業員等の自殺からブラック企業と非難され、経営が悪化。 事業は縮小し倒産は間近と思われていた中で転換点が有った、 それがビーストの日本侵攻であった。
 そんな中で、タワミは別な事業を展開した。 複合的人材派遣会社である。 ブラック企業である事に、開き治ったのである。 同時に国会で社長はとある法案を提出、全会一致で承認された。
 法案名は【ニート活用法案】である。 仕事も学業もしない満30歳以上の男女を有効活用する法案である。 何れも強制的に、派遣社員として兵士として使う法案である。 知識の方は、学習装置で強制的に入れるという物であった。
 『このタワミ企業の海外事業展開している子会社という風にしたそうです』
 「ナルホド、民間企業なら事前承認は必要無いですね」
 『で、英仏露企業と軍のダミー企業である訳でして』
 指を指して示すのは、くっきりと映った白人男性達の姿。 肩には所属国である英仏露国の紋章が縫われている。 
 『恐らくは、新型兵器等の実力を見る実験場にしたいのでしょうね』
 「グンマー校の方は大丈夫なのですか?」
 『ええ、問題は無いです。問題は、英仏露国の三国に余裕が出来た事』
 「余裕ですか?」
 『他国に自国企業を通し、他国に兵士や武器を送れてます。これは余裕です』
 言葉が言いたいのは、米国が支援を行い過ぎて英仏露国が余裕が出来たという事。 その結果が、他国の問題へ介入出来る様な国力増加である。
 「だが、対ビーストの可能性もある」
 『分かっています、ですから我々は特定の条件で攻撃を開始します』
 「ほぅ、どんな条件ですか?』
 『中禅寺湖から彼等が南進し足尾銅山側へ移動を開始した場合』
 足尾銅山の付近は現在はグンマー校が支配をしている。 そこには鉄道がありグンマー校が自県を守る為に、必要不可欠な所だからである。 そこへ向かった時点で攻撃を行うという物である。
 「分かりました、大統領と議会へ早めに提案をしたいと思います」
 『急いだ方が良いと思うよ、情報部の報告だと二、三日以内に戦いが始まるから』
 「本当ですか?」
 思わずベルは躰を前に出し確認する。 言葉は何も言わず、首を軽く縦に降る。
 『ええ、良い返事を待っているわ』
 そう言うと座っていた椅子から立ち上がり出口へ脚を進める。 扉の前でベルに振り返り、花が綻ぶ様な笑顔で挨拶をし扉から出て行った。 それを見届け、ベルは思わず呟く。
 「何というか……年配の人間と話している感じがした」
 それもそのはずである、第一世代の適合者フィッターは凡ゆる知識を入れられている。 これはビーストとの戦い時や凡ゆる事態において適応する為で有る。 ある意味で、それは人間味を帯びた完成された人格を持つ機械でもある。 彼女の頭には、凡そ二百年分の外交文書が入っているのだから
 10年間でグンマー校の彼等も個性という物を会得し、己の得意とする分野を開拓し始めた。 彼女、藤岡言葉ふじおかことのはが得意分野は、近世の世界史と外交史。 尊敬する人物はタレーランとメッテルニヒである。 ベルがそう思うのも仕方が無い事である。
 そして、彼女が言った通りに【3日後】グンマー校と南関東校は大規模な紛争が始まる。 これによりベルと国務省は、議会と各国からの対応に追われる事をまだベルは知らない

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