グンマー2100~群像の精器(マギウス)
第117話 米国とグンマー校 中編
――2100年5月5日09時30分 米国国務省
米国国務省は、外交政策に責任を持ち大統領へ助言する省。 日本で言うところの外務省である。
電話が鳴り、年配の白人男性が電話を取る。 白人男性の名前はグラハム・ベルという。 曽祖父と同じ名前である。 トーマス・エジソン大統領とは、曽祖父の代からの因縁を持っていた。
そう、過去形である。 すでに150年前の色々な事は互いに乗り越えて国政に当たっている。
「グンマー校が空港に来ただと?一時間後に来るだと?分かった」
電話を置くと内線に通信が入る。 内線の主は国防総省長官である。 画面が展開され少し若い白人男性が映る。
「やぁ、お早う!君から連絡が来るなんて珍しい」
「なに、君のこれからの予定について相談なのだが?」
「断る」
ピシャリと厳しい顔で言う。 言われた相手は以外そうな顔をする。
「まだ、本題も言ってないぞ!」
「どうせ、グンマー校との話し合いに参加させろというのだろう?」
「ああ、そうだ!国務省だけに任せて置くわけには行かない」
「全く、君は何も分かっていない。君達は彼等から見たらテロ組織なのだ」
5年前の首席暗殺事件以降は、グンマー校は国防総省をテロ組織に認定している。 他にも、中央情報局、米国家安全保障局、米空軍、海軍、海兵隊もテロ指定組織になっている。 現在も互いに日本以外の地域で【テロとの戦い】を行っている。
「交渉の余地は無いのか?」
「無理だ!現在も日本で君達が動けるのも我々の外交的努力による賜物なのだよ」
「だが、先程グンマー校は勝手に我が国の領空を侵犯した!此れに付いて抗議はさせて貰う」
「侵犯を許したのは国防総省の責任であり、グンマーが悪い訳では無いだろう?」
「奴らと来たら不可視のステレスで侵入して来たのだ」
「オカシイな?我々が貰った飛行プランでは、PM5:00にステレスを切る事になっている」
「だから、奴らに問わねならない」
「私が聞いとくから良いだろう」
プチっと通話を切る。 再び通信が入るがベルは無視する。
国務省と国防総省は21世紀はとても仲が良かった。 アフガン・イラクに始まり国益の為に二人三脚で頑張ってきた。 何れも国務省が国益の為に他国に挑発を行い、国防総省が自由と平等の為に制圧する。 これが21世紀の米国のスタイルであった。
22世紀に入り国務省と国防総省の仲は急速に悪く成り始めた。 原因は、【5年前のグンマー首席暗殺未遂事件】である。
当時の大統領と国防総省は軍産業複合体と癒着をしていた。 軍産複合体は比較的安定していたグンマーの不安定化を狙い、同時に混乱後に制圧、技術の奪取を考えていた。 中央情報局、米国家安全保障局を巻き込み作戦を立てた。 国務省は事前に知らされており、此等の作戦には反対の立場を示していた。
国務省はグンマーの事を独自のルートで的確に分析をしていたのだ。 急激に独自の成長を遂げながら、優れた技術を持つ人外魔境と分かっていたのだ。グンマー校と接する陸軍側も同じ様な感想を持っており、反対の立場を示していた。
結果として作戦は実行され、大失敗。 米国が誇る最新空母のバラック・オバマ等の旗艦を含めた艦艇を多数損失。 作戦に参加していた自衛隊部隊も壊滅的な大損害を被った。
そして、一番致命的だったのが南関東首席が返り討ちに有ったのと首都圏校の離反。作戦ではグンマー校の首席を暗殺する予定だったが、もう1つ秘密裏に行われた作戦が有った。
それが、【首都圏校首席も同時に暗殺】だったのだ。
グンマー校首席と戦えるのは首都圏首席。 どちらが片方残っても、色々と問題があると判断された結果であった。 結果として、両首席の暗殺に失敗……。
その後は、国務省にとって最悪の方に転がっていた。 グンマー校と首都圏校の技術・人的交流の強化。 首都圏校が日本政府と米国側から離反を始めたのだ。
更に、国務省にとって最悪は続いたなった。 中東地域でイスラエルとアラブ各国の間で、本格的な武力衝突が起きた。 この第六時中東戦争は、イスラエルの防御外装武器、【ソロモンの盾】が破壊された事に起因する。
イスラエルは、長年にビーストとテロリストに悩まされていた。 その為にイスラエル全体を覆う防御外装武器、【ソロモンの盾】を開発・製造した。 同時に中東地域から自国のイスラエルを隔離し、欧州や米国と仲を深め始めていた。 イスラエルの誇る技術を提供し利益を上げ、ますます軍事的プレゼンを増加させていった。
アラブ各国は、石油が枯渇し始めており経済が破綻し天文学的なインフレに陥っていた。 これは世界が精神伝導や精神波動エンジンにエネルギーを置換した為で有る。 今まで、石油経済に頼り自ら努力し生産するという事をしなかった為に技術が無かった。 当時のアラブ各国の指導者は、これがイスラエルの中東を支配する為の謀略だと非難した。 されど、【ソロモンの盾】の為に手を出せずにいた。
それが変わったのが、【首席暗殺事件】から1年後の4年前。 突如として、【ソロモンの盾】が破壊された。 っとイスラエルは言っているが本当は何者かにシステムをハッキングされ、自壊したというのが正しい。
同時に、足並みが揃わないアラブ各国が足並みを揃えてイスラエルへ戦線布告。 当時の現地報告では、【一糸乱れぬ様は何者かに操られたと疑った】とされている。 比較的安全だったイスラエルは圧倒言う間に戦争に巻き込まれた。
ビーストとテロからも安全と言われていたイスラエルには多数の欧米から来た観光客達がいた。 彼らを保護する為という名目で欧米の有志連合は、イスラエルを支援した。
半年で制空権を確保した欧米軍とイスラエル側は、有利に事を進めたが躓いた。 圧倒的に多数のゲリラ化した市民に襲われて、混戦に持ち込まれたのだ。 イスラエルや中東の各都市に潜む武装集団との終わりの無い戦いが始まったのだ。
イスラエル側はイギリスにフランスが支援。 米国も空海軍、海兵隊を出し支援をした。 ユダヤ人は、各国のマイノリティだが重要な地位に付いている。 彼等からの支援が無ければ政治家として大成するのが難しいのだ。
中東側はロシアや中国が支援。 まぁ、中東の欧米の思い通りにさせ為に行動を起こした。 後は残り少ない石油の権益を手に入れればと考えていたのだ。
そんなビーストにゲリラで泥沼化していく中東情勢。 3年前にそんな情勢の中で、行われたのがグンマー校によるイタリア半島奪回作戦。 通称:襲学旅行である。 グンマーから飛び立ったAn-225、ムリーヤに乗った100名はイタリア半島に上陸。 一ヶ月でイタリア半島からスイスまでを開放した。
驚くべき速さでローマとヴァチカン付近のインフラを直し始める。 1年後、フランス・アヴィニョンに避難していたローマ教皇がヴァチカンに入場。 同時にグンマー校の適合者達を人間として祝福。
人間として認めて貰ったグンマー校は、混迷の中東情勢へ介入を開始。 地中海に展開中の米国第六艦隊と【テロとの戦い】を始めた。 突如として、背面から攻撃を受けた第六艦隊は壊滅損害を被った。
それにより、2年前から中東全域で米国空・海軍・海兵隊との戦いをグンマー校はしている。陸軍はグンマー校とヴァチカンからの要請で、イタリア半島でビーストの戦いを続行中。 なお、陸軍兵士の殆どがイタリアからの難民から志願兵であり実質はイタリア軍である。
世間では右手で殴り合いながら、左手で握手をしていると揶揄されている。 これらの綿密な打ち合わせは、国務省とグンマー校の外交的摺り合わせで可能にした。 国務省は、この5年間で国防総省と険悪な仲になって来た。 その代わりに、グンマー校と首都圏校の仲は良くなって来ている。
「さて、久しぶりにグンマー校との会談だ」
パチンと両頬を叩きながら、ベル国務長官は自室から出て行った。 やり手と言われる彼が気合を入れる相手のグンマー校は一体何者なのだろう?
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