グンマー2100~群像の精器(マギウス)

奈楼小雪

第108話 115年目の飛行 中編


 ――2100年4月28日18時10分 相模湾上空
 JANAL123便、最新機体エアバスA380で乗客数524名。 18:04分に羽田発で伊丹に向かっている機体である。
 現在は、相模さがみ湾上空を巡航高度の24,000ft(7200)mへ向け上昇中である。
 『機械系統オールグリーン異常無し、チェク』
 「機長、機械系統及び機体異常無し。問題有りません」
 『慣性誘導装置と飛行管理装置F・M・Sを伊丹へ!チェック』
 「チェック、以後の機体運行は予定通り私が受け持ちます」
 『チェック、了解した。はぁ、何とか飛んでよかった』
 機長はフーっと安心しながら溜息を吐く。 その声を聞き、思わず副機長も笑顔になる。
 『新会社になってから、曰く付きの便名だから心配だったのだ』
 「確かに、この時間にこの場所はアレを連想させますね」
 2人が言っているは、1985年8月12日に起きたとある航空事件である。 JANALが合併する前に、片方の会社が起こした単独での最大の事故である。 それ以来、その会社では123便は欠番扱いにされていた。
 現在でも尾を引いており、123便という名称を使うかで揉めていた。 そんな中で、羽田発で伊丹行きで123便という名称が付く機体が有った。 合併したとはイエ、企業の習慣とは残っている物。
 片方は、不吉な番号で別な番号にしろ。 もう片方は、新会社になったのだから番号に縛られのは良くない。 かれこれ、5年程争っていた。 合併から5年目という事に合わせて、遂に番号を使う事にしたのだ。
 そんな彼等が操縦する機体のファーストクラス。 普段なら、多数のVIPが座っている席。 今は一人の老人と多数の黒服を着た男達が座っている。
 老人の名前は、小保方春男おぼかたはるお。 適合者フィッター研究の第一者である。
 「ようやく、これで東京からおさらば出来た」
 窓から海を眺め呟く。
 「博士、まだ安心出来た訳では有りません」
 「グンマー校か?奴らは此処まで追ってこれまい?」
 「そうだと良いんですけど……」
 小保方の横に座っていた男は心配そうに呟く。 男は政府から任命された小保方との繋ぎ役の一般人男性である。 一部ではネットに強い弁護士とも言われているが定かでは無い。
 (とっとと死んでくれたら有難いナリ)
 男にとって、本来ならこんな依頼は願い下げである。 だが男は、政府に弱みに握られていた。
 ネットで炎上した依頼人から弁護の相談を受け失敗。 自分自身もネットで、晒し上げを喰らい弁護士業を失った。 酒に溺れていた時に、公安の人間に駒として雇われたのだ。
 (早く、伊丹についてキャバクラで遊びたいナリ)
 そう思いながら、男は博士に作り笑顔を向ける。
 更に場所は、機外に移る。
 「先輩ーー何もありませんね」
 「鉄斎、油断は禁物だ」
 2人はとある機体の中で言い合っている。 初飛行が1958年で、退役が1996年という100年前の機体。 名前をF-4 ファントムIIっという名機である。
 現在は特許フリーで、首都圏校でも生徒がビーストの戦いで使用している。 一機当たりの費用も3Dプリンタで印刷される為、100万円と軽自動車より安い。 左右の燃料エンジンは、精神伝導メンタルトランスエンジンに改装。 これらの技術は、首都圏校がグンマー校との交流で得た技術である。
 「グンマー校の姿は見えませんが……」
 「鉄斎!レーダーに感!下側から何か来るぞ!」
 雲の切れ目から姿を見せたのは、ランドセルを背負った厳つい顔のオッサン。 背後に立った人間をぶん投げるスナイパーの様な顔をしている。 そんなオッサンが、背負っているのはランドセルでは無い。
 グンマー校専用の飛行装置である。 サイズは奥行が20cm、横幅が25cm、高さが46cmっとランドセル型である。 左右にはマニュピレータの様な細長いアームが付いている。 ランドセルの下には、小型の精神伝導メンタルトランスエンジンが二つ付いている。 識別を示すのに描かれた、黒地に金色の線が映える。
 至って普通のグンマー校航空部隊所属の生徒が持つ装備である。 グンマー校は別に秘匿している訳では無く、設計図等も公開している。 が、残念ながら使用しているのはグンマー校の生徒に限られている。
 何故かというと……。
 「先輩!オッサンが、ランドセルを背負って飛んでます」
 「まて、鉄斎!アレはオッサンが扱える代物だと思うか?」
 「イエ、先輩。アレは適合者フィッターのみが扱える物です」
 「っという事は、オッサンでは無く適合者フィッターっという事だな」
 そう、適合者フィッターしか使えないのだ。 しかも、構造が簡単でコストパフォーマンスが良い為、企業には美味しく無い。 一個作るのに凡そ、5万円という最高の性能を持っている。
 F-35戦闘機シリーズの平均金額が、一機100億と考えると破格の金額である。 100億円は、研究開発資金50兆円や人件費等を含め企業が利益を回収出来る額。 日本や米国で、このランドセル型の物が流行ったらどうなるか……。 法的整備が必要になり、軍需産業にもダメージが有る。 その為、米国や日本を含めた世界地域では流行らせられていない。
 「先輩!奴が何かを出しました!」
 「何かとは何だ?」
 細長いアームの右手が、ランドセルの側面に付いた長い銀色のケースを展開する。 左手でのアームで器用に中の物を取り出し、男に持たせる。 長さにして、1m程の大きさの細長い筒である。
 筒の先には、エアバスA380がある。 男は精神伝導メンタルトランスエンジンの出力を上げるとA380へ向かい始めた。
 「鉄斎!奴を止めるぞ!」
 「了解シマシタ」
 F-4 ファントムIIは唸りを上げながら、逆落としに男に襲い掛かった。

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