グンマー2100~群像の精器(マギウス)
第94話 志(こころざし)を果たして 後編★
――2100年4月27日04時00分羽田空港
鉄斎少年たちが、人ごみに消えた頃の話し。 1人の初老と思しき男が、椅子の上でタブレット端末を見ている。 画面には、最近ダウンロードしたゲームが映る。 だが、ゲームに集中していない様でアッという間にゲームオーバ表示がされる。
「あ、すみません。そこ掃除宜しいでしょうか?」
清掃員の格好をした老婆が男に話し掛ける。
<a href="//19656.mitemin.net/i237012/" target="_blank"><img src="//19656.mitemin.net/userpageimage/viewimagebig/icode/i237012/" alt="挿絵(By みてみん)" border="0"></a>
どうやら、早朝の空港内掃除をしている様だ。
『ああ、今どくよ』
「すみませんね」
老婆はペコリと頭を下げ、どいた男の足下から掃除を始める。 床に膝を付き、掃除をしながら老婆は男に小声で話し掛ける。
「ご注文は?」
『兎耳娘』
「おっと、落し物ですよ」
『ありがとう』
ハンカチを受け取り、老婆は別な所の掃除を始める。 長年仕事をして来たベテランだけあって、磨かれた床や椅子が綺麗になる。
そんな様子を見ながら、男はハンカチをタブレットに広げて乗せる。 ハンカチに浮き出るは、四文字の英数字。 【NE×SW】 暫くの間、男は首を捻りやがて膝で手を叩き椅子から立ち上がった。
◆ ◆ ◆
男が向かったのは、空港内の展望台。 足元には、北の方位を示す矢印が書かれている。 NE×SWは北東、南西を示していたのだ。
男は周りを見渡すしていと、待ち人がやって来た。 先程の老婆だった。
「やあ、お久しぶり」
しゃがれた女性の声から少年の声に変わり、姿も変化する。 白髪に猫背、清掃員服から黒髪黒目、黒に金の筋が入った制服に変わった。
<a href="//19656.mitemin.net/i237013/" target="_blank"><img src="//19656.mitemin.net/userpageimage/viewimagebig/icode/i237013/" alt="挿絵(By みてみん)" border="0"></a>
『いつ見ても、凄いですね。至誠賢治首席』
「イエイエ、それ程でも」
『その新製品ならば、わが国で買いますよ?』
「まだ、売る予定は有りません。今回売るのは、此方の設計図とデータです」
賢治少年は、スーツケースから書類とチップを見せる。 男は受け取り、書類を見ながらタブレットでもデータを確認する。
『これを我が国に?』
「ええ、貴国だけです。使用料は何時もの口座にグンマー2で米国8」
『毎回思うのですが、なぜ低く設定しているんですか?』
「だって、米国さんは利益以上に受ける被害が有りますからね」
画面を展開し、男に空港内の防犯カメラの映像を見せる。 映像には、スーツにサングラスを付けた多数の男女が見える。
「英国、仏国、大漢民国、露国、日本の公安。沢山いるね、彼等も狙っている」
『帰るのが大変そうだ、大使館に行くには大使に迎えに来て貰おうか』
「イイエ、これが帰りのチケットと偽造パスポート」
男に渡されたのは、偽名が書かれた旅券とパスポート。 いずれも、本物にしか見えない。
『本物にしか見えないが』
「本物を私が少し加工しただけ、貴方のお兄さんのパスポートをベースにしたよ」
『賢治首席、兄をどうされたのです!まさか……』
「あ、殺していないよーー皇居の堀で全裸で捕まっていた時にゲットした」
『ホワット!』
数日前の新聞を見せられ、男は絶句する。 何故なら、【皇居の堀に外国人が乱入、持ち物は無く氏名ともに不明】。 【現在は拘置所に拘留され、詳しい経緯を調査している】。 っと書いて有ったのだ。
「っという訳で、大使館に連絡しといて下さい」
『あ、ああ、分かった』
「互いの志を果たし、我らで理解と利益を得ましょう」
賢治少年の声がし、ひゅーーっ一陣の強風が男の顔をなでた。 思わず目を閉じた男が目を開けるが、そこに賢治少年の姿は無かった。
『互の志を果たすか……そうだな」
男はスマホを手に持ち、大使館に連絡を入れ始めた。
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