グンマー2100~群像の精器(マギウス)

奈楼小雪

第93話 志(こころざし)を果たして 前編


 ――2100年4月27日04時00分羽田空港
 日本における空港は6つある。
 西は、伊丹空港と関西国際空港。 東は、群馬のジョウモウ・フロンティア・カルタ国際空港(通称:JFK空港)。 NEO埼玉のNEO埼玉空軍大基地。 千葉の成田国際空港。
 そして、東京の羽田空港。
 その羽田空港は東日本で唯一、民間人を受け入れる空港である。 JFK・成田・NEO埼玉ともに、対ビースト基地とて一般人は入れていない。 毎日の発着数は2000回程。
 滑走路は、2000年代は4本であったが現在は20本を超えている。 これも、関東で唯一民間に開かれた空港に変わった為で有る。 離発着を繰り返すのは、輸送機が圧倒的に多い。
 この世界では、海上交通路シーレーンをビーストに奪われている。 タンカー等が、護衛艦無しで海上を移動しようなら襲われ轟沈してしまう。 頼みの護衛艦は……10年前の戦いで、各国は多くの乗組員と共に失った。
 世間一般には、【グンマーの掃海】【無制限航空攻撃】と読んでいる。 グンマーとしては、日本の海域に入って来た船を片っ端から沈めただけ。 【自由に平等】に片っ端から沈めただけである。 その結果……ビーストが大繁殖し世界の海で猛威をふるい始めた。
 どちらが悪いとは言えない……が一つ言える事は有る。 結果として、世界は空と陸以外に輸送手段を無くした。
 「全く、朝早くからご苦労な事だな」
 呟くのは、先輩少年だ。 ガラス張りの展望デッキに来ている。
 滑走路には、巨大な輸送機が多数止まっている。 何れも世界中から輸入している食料等や物資である。
 『動力は、精神伝導メンタルギアエンジンだから輸送費は掛かりませんね』
 眠そうな声で、鉄斎少年が答える。
 精神伝導メンタルトランスエンジン、6年前にグンマーが開発したエンジンである。 それまでは、大型の精神波動メンタルウェーブエンジンを使っていた。 これにより、小型で大出力の駆動を可能にした。
 開発したのは、グンマー浪漫ロマン部。 第一次世界大戦から近代の兵器から日常的な物まで、全て石油燃料によって動いていた。 石油燃料が無くなった後は、精神波動メンタルウェーブエンジンが主流に変わった。
 精神波動メンタルウェーブエンジンも精神を燃料としていた。 だが、燃費や機械の大型化といった欠点が有った。 各企業が小型を目指している中で、グンマーが開発したのが精神伝導メンタルトランスエンジン。
 これにより、小型で大出力のエンジンを生み出すことにを可能にした。 しかもこの理論・設計データは世界中に無料で公開された。 アッという間に、精神伝導メンタルトランスエンジンは世界中で使われ始めた。
 ただ日本だけは、精神波動メンタルウェーブエンジンに固執し遅れを取った。 後に、グンマー浪漫ロマン部部長はインタビューでこう答えた。 【重要なのは、世界中に精神伝導メンタルトランスエンジンを広め規格化する事】
 結果として、精神伝導メンタルトランスエンジンは広まった。 それと同時に、各国とグンマーは秘密裏に交流を深め始めた。
 「それにしても、今日はパンピーじゃ無い奴が多いな」
 『どういう事ですか?』
 「あそことあそこ、多分何処かに国の諜報員だろうな」
 『そうなのですか?』
 初老のスーツ姿の男と、サングラスを掛けた女性を見ながら首を傾げる。 鉄斎少年には、一般人に見えている様だ。
 「フーン、米国に露国、大漢民国、英国、仏国と続々現れたな」
 朝一番の便で、各国からやって来た乗客たちを眺め先輩少年が呟く。 いずれも、普通に入国審査を通り抜けて来たようだ。
 「彼等の目的がなんであれ、我々の志は変わらず」
 『乙姫首席の依頼を完遂する事です』
 「短い間で、首都校生らしくなって来たな」
 『ハハ、ありがとうございます』
 2人は言い合いながら、人ごみの中に消えていった。

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