グンマー2100~群像の精器(マギウス)

奈楼小雪

第80話 可哀想な羊《スケープゴート》中編

  ――2100年4月23日09時00分NEO埼玉要塞。
 場所は遠く離れて、NEO埼玉医療棟。 白く清潔な空間に置かれたベッドの上で、1人の男がタブレットを見ている。
 スーッと扉が開き白い躰を覆った人物が入ってくる。
 「閣下、無事に手術が終わられた様で何よりです」
 『臨時司令官の任、苦労を掛けている』
 「大統領パパよりは、楽だと思うけど」
 『確かに、そうだなHAHAHA』
 っと声を上げるのは、NEO埼玉司令ジョン大将。 先日まで、脳梗塞の症状で冷凍睡眠コールドスリープしてたとは思えない元気さだ。
 『で、私の頭は大丈夫なのか?』
 「ええ、完璧に修復されているわ。担当医師もびっくりよ」
 『そう言う意味ではなく……彼女の能力的にだな』
 「それなら問題は無いわ、【ヒポクラテスの誓い】を立ててたわ」
 大統領パパの娘は、現基地の司令官代理のオペ子である。
 ヒポクラテスの誓いとは、医師の倫理・任務などについての、ギリシア神への宣誓文である。 現代の医療倫理の根幹を成す患者の生命・健康保護の思想、患者のプライバシー保護。 専門家としての尊厳の保持、徒弟制度の維持や職能の閉鎖性維持なども謳われている。
 その中の一つに、重要な言葉が有る。 【自身の能力と判断に従い、患者に利する治療法を選択し、害と知る治療法を決して選択しない】 つまり、最善の選択をし、患者を死に至らしめる様な事を故意にしないという事である。
 『だが、彼女は人を操るのが得意だろう?』
 「彼女曰く、一地域の司令官を操っても意味が無いそうよ」
 『どういう事だ?』
 「狙うとしたら、大統領パパを狙うみたいだわ」
 『ハハ、笑えないジョークだ。大統領閣下プレジデントを操つるとは』
 「あ、本気の様だったわ。大丈夫対策は出来ているわ」
 オペ子は、ジョンの前にソフトボール大の球体装置を置く。 球体の周囲に筋が現れ、LEDの様にチカチカと点滅する。
 『これは?』
 「傀儡マリオン系の解除装置』
 『我が国が開発したのか?』
 フルフルと首を振り否定する。 裏側を見せると【Made in KOG】と刻印が現れる。
 『メイドイン、KOGというのは Kingdom of Great Britainで英国か?』
 「いいえ、Ken of Gunmaでグンマ県よ」  
 『県のPrefectureプリフェクチャーでは無いのかね?』
 「さぁ、分からないわ」
 『で、これをどうしたいのだ?』
 「設計図等も彼女に渡されたけど不明ね」
 オペ子は肩を竦める。 そして、タブレットでジョン司令の状態を見る。 入院していた時より、躰は最高状態によりを戻した●●●●●様だ。
 「それにしても、彼女の能力は凄いわね」
 『ああ、恐ろしい位に……何故に平和に使わないのか』
 「私の問いに彼女はこう言ったわ、【米国なら平和に使えるの?】」
 2人は沈黙する。
 【米国なら平和に使えるの?】
 宇佐美の能力を使えば、一国を支配する事は容易い。 文字通り、鎧袖一触で相手は宇佐美に支配される。 中東アラブで、未だに苦戦している米国からしてみれば欲しい能力。
 「だから、彼女は操る者として可哀想な羊スケープゴートを演じるそうよ」
 『成程、傀儡マリオンで己が操られる危険性を伝える担当なのだな』
 「だからこそ、大統領パパを狙いたい何んて言うのよね。お陰で大変」
 『どうしたのだ?』
 「すでに、日光NSAで無い方の本国の国家安全保障局N・S・Aが騒ぎ始めた』
 『ほぅ』
 「彼女と接触しそうな怪しい人間を洗い出している様だわ」
 『はぁーーー其処まで考慮して、 可哀想な羊スケープゴートと呼ぶか』
 ジョン司令のため息がクリーンルームに響く。

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