グンマー2100~群像の精器(マギウス)

奈楼小雪

第79話 可哀想な羊《スケープゴート》前編

――2100年4月24日10時00分東京警視庁
 映像に映るは、赤茶髪に朱い瞳のウサ耳を付けた少女。 もう1人は10歳程の黒髪に黒い瞳の少女、腕と脚を縛られている。
 「お姉ちゃん、どうしてこんな事をするの?」
 『それは、貴女のパパが悪いのよ!』
 「パパが何を」
 『ねぇ、貴女は適合者フィッターって知っている?』
 「凄い力を持った人型兵器って、パパが言ってた」
 『フーン』
 整った顔に、ピキッと青筋が入りながら笑顔を見せる。
 『貴女のパパは、適合者フィッターを虐待し壊したのよ』
 「だって、兵器でしょ?物は何時か壊れるわ」
 『貴女のパパは、適合者フィッターが何でも食べるからって、糞尿を食べさせたの』
 少女の前に映るは、金髪や銀髪の少女達に汚物を食べさせる男の映像。 呆然としながら見ていた少女の腹をウサ耳少女が蹴飛ばす。
 「痛い!嘘だ!パパがこんな事する訳ない!」
 『じゃ、パパに聞いてみましょうか?』
 ウサ耳少女が手を鳴らし、ギッとドアが開き男が入って来た。 男が持っている皿には、よく焼けた肉が置かれている。
 「もヴやめて、食べたくない」
 『ねぇ、パパが持っているのは貴女のママだよ』
 ドアを完全に開けると両手両脚を切断され、息絶えた女性がいた。 顔は恐怖と絶望に染まり、躰中に料理庖丁が刺さっていた。
 『その肉を娘に食べさせ、娘は生で食べなさい』
 ウサ耳少女は男が入って来た方へ向かい、ドアを閉める。
 「ぱパパ、ママを料理なんて嘘だそね……」
 「ご、ごめん、ゆるしてくれ、からだが」
 肉が刺さったフォークが、少女の口に入る。 肉だが、喰べるべきでない肉が入る。 暫くバタバタしていた少女は、虚ろな瞳で動きを止める。
 「ご、ごめんよ」
 男は持っていた、ナイフで娘の首に突き立てた。
 「ぎゃーっ」
 振り絞るような声をし息絶える。 男は、ナイフで切り裂きながら娘を咀嚼する。
 数時間後、ウサ耳少女が姿を見せる。
 『あら、まだ食べていたの?』
 「もう、やだ、殺してくれ」
 『そうね、ある条件をクリアすれば、死ぬことを許可するわ』
 写真を男の前に見せる。 写真には、2人の少年が写っている。
 『彼らを此処に誘導して、今は首都校の病院にいるわ』
 「わ、わかった。そうすれば、死ねるのか」
 『そうよ、約束するわ。残りの肉は焼いて喰べると良いわ』
 「や、もう、食べたくない」
 ウサ耳少女は、言うと姿を消した。 男は、娘の大腿部を千切り台所へ姿を消した。
 此処で、映像が止められる。
 ゲーっと胃の物を吐くのは、刑事の男。 警部の男も顔色がとても悪い。
 「警部アレは、一体何なのですか?」
 「ちょっと調べる」
 映っているウサ耳少女の映像を拡大し、顔認証に掛ける。 膨大なデータの中からアッという間に、対象が算出される。
 【コードネーム:地獄の傀儡師ヘルマリオン前橋宇佐美まえばしうさみ
 「地獄の傀儡師ヘルマリオンだと……」
 「警部、地獄の傀儡師ヘルマリオンってあの地獄の傀儡師ヘルマリオンですか?」
 「グンマー校、十番隊隊長、10年前の関西騒乱で500万人の命を奪った悪女」
 「噂ですよね、当時6歳の子がそんな事出来ませんよね」
 ピッと音がし映像が変わる。 そこには、涙を流しながらバットを持ち人を殴る映像。 包丁を持ちながら、警察官に襲い掛かる少年少女達。 最後には、逆光の中で立っている6歳程の少女。
 「10年前のは噂に過ぎないが、今回の映像内では大犯罪者だ」
 「警部、捕まえないと行けませんね」
 「ああ、そうだな」
 「さっそく、手配してきます」
 「君の責任●●●●で上に上訴してくれ」
 「分かりました」
 若い刑事は、データを取りタッタッと明るい足取りで部屋を後にした。 刑事が居なくなった後を確認し、周りに話しかける。
 「これで、良かったのですか?」
 「勿論、彼には犠牲になって貰うが、君の昇進は保障しよう」
 スピーカーから無機質な声で返ってくる。
 「ですが、彼は」
 「彼らと友人だったのだ。処分しなといけない」
 「分かりました、それではまた」
 警部も部屋を後にした。

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