グンマー2100~群像の精器(マギウス)

奈楼小雪

第52話 アメリカンフィッター 後編

  オペ子は、エミリーの傍に走り寄った。 顔は血の気が無く、青くなっている。
 『こちら訓練室トレーニングルーム!担架と救護班を!』
 「まぁ、適合者フィッターだから大丈夫でしょう」
 振り返ると賢治が、覗き込んでいる。
 『本当に?』
 「適合者フィッターは、脳と心臓が活動する限り死なない」
 そう言っている間に、血が止まる。
 『本当だ!エミリー、大丈夫?』
 「ウーン駄目だね、休止ブレイク状態だね」
 『ブレイク?』
 「メンタルギアユニオン、通称マギウスが、躰の回復に力を向けてる」
 『脳が躰の方に、力を割いているという事?』
 「その通り!ところで、腕どうする?一緒に持っていく?」
 転がっていた2つの腕をオペ子の前に出す。
 『ヒッツ!腕、うでーー』
 想像をして見て欲しい、振り返りざまに腕の断面が現れた事態を……。 手の方は、賢治が握っている。 オペ子の目の前には、骨と血が流れる腕の断面が見える。
 生ぬるい血が頬を濡らし、現実であることを示す。 思わず腰が引けたオペ子に追い打ちが掛けられる。
 「あ、手側で握った方が良いですね」
 エミリーの手をオペ子の手に、握らせる。 冷たい手が、オペ子の手を握る。
 『んひゃあああああはh』
 オペ子は、白目を向き倒れた。
 「あれ、大丈夫ですか?」
 賢治が、ユサユサとオペ子を揺らす。 反応は、無い。
 ダンっと扉が開き、白い服を着た救急隊員が入って来た。
 「大丈夫ですか?うっつ」
 思わず声を挙げ、後ずさる。 現場は、両腕を失ったエミリーの血だまりの中にオペ子が倒れている。
 「早く、運んであげてー」
 賢治が促すと救急隊員は、ようやく再起動しエイミーを担架に載せる。 それを見て、賢治は戦っている2人の方を振り返る。
 「全く2人とも!他人の施設だからって、遊びすぎだよ」
 賢治は、誇張して言っている訳では無い。 重厚な壁が崩落し、強化ステンレスで覆われた天井は青空を見せる。
 「わぁ、空綺麗」
 どっかの夜勤明けのSEシステムエンジニアが言いそうなセリフを呟く。
 そんな事を言っている間にも、壁は蜂の巣にされ。 または、チーズの様にザクザクと切られていく。  警報装置は、鳴っているが、今にも消えそうな音色である。
 「中々、猪口才な」
 「AAカップの割には、やりますね」
 「お主も胸ごと、潰してやろうか?」
 「成程、だから貴女のメンタルギアは……なのですね」
 プチっと何が切れる様な音がし、乙姫の周りがベキベキとヘコム。 まるで、重力で圧縮された●●●●●●様だ。
 「ああ、遊ぼうと思ったけど殺っちゃおうか?」
 乙姫の大剣の色が、漆黒に変わっていく。 両手で持ち、振り上げた瞬間。
 きゅっと、何かが乙姫の胸を揉んだ。
 「さて2人とも、大人しく争いをやめなさい」
 「ひゃああああああ」
 賢治の声と共に、乙姫が悲鳴の様な声を上げる。
 「フフ、流石の乙姫首席も精神メンタルがぶれたね」
 「な、何を言っているのかな、至誠首席」
 「ほぅ、動揺して苗字で呼んでるし君の大剣」
 「っつ」
 黒みが無くなり、普通の銀色に戻っている。 そんな大剣を賢治は、ピンと弾く。 乙姫が、色っぽい声を上げる。
 「賢治首席、何時からこんな方法を取るようになったのだ?」
 「ウーン、凛書記から貰った本に描いて有った」
 「名前は、何というのだ?」
 「確か、【親しい友人との接し方】だったよ」
 「その本は!」
 思わず、乙姫は溜息を吐く。 首都圏では、発禁になった本。 出会いから、ハウトゥS○Xまで書かれてる本である。
 書いたのは、謎の人物。 爆発的に、日本中で流行した。 社会現象にもなり、ベビーラッシューが生じた。
 政府は歪な人口ピラミッドを恐れ、この本を発禁とした。 この本には、【親しい女性が、我を忘れた場合の対処の仕方】の章が有る。 書では、【後ろから2つの果実を揉みながら愛を囁く】と書いて有る。
 「ここで、愛を囁くっていうだけど?どう囁くの」
 「イヤイヤ、何で愛を囁く」
 「本に書いてあったからだよ?」
 「親しい女性にだろ?」
 「だって、君と僕は10年間戦って来た親しい友人だよ?」
 乙姫は、致命的な見解の相違に気がついた。 それは、賢治が親しい=戦友だと思っている事。
 「ちょ、ちょまって」
 乙姫は、賢治の方へ向き引き剥がそうと顔を向け腕で押す。 だが、バランスを崩し賢治の上に乗っかる様に倒れ2人の唇が重なる。 唇が離れ、乙姫の舌から一筋の線が垂れる。
 「―ーーーッツ」
 「キスって奴、しかもディープな感じ」
 賢治は、何も感情を抱かない様に説明する。 乙姫は、声に成らない悲鳴を挙げ顔を赤くし倒れた。
 「しょうがないなー、乙姫首席も保険室に連れて行くかーー」
 「私もご一緒します」
 賢治はお姫様だっこし、銃子と共に訓練室トレーニングルームを後にした。
 穴が空いた青空には、米軍機がスクランブル発進していく光景が見えた。 一体何が有ったのだろう……。 

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