グンマー2100~群像の精器(マギウス)

奈楼小雪

第26話 賢者は動かず、悟らせず

  グンマー校首席、至誠賢治しせいけんじ。 彼は、現在NEO埼玉に来ている。 現在は、ショートブレイクという事で休憩所に来ている。
 ショートブレイクなのに、既に2時間以上経っている。
 「ひまだねー」
 「そうですね、首席殿」
 中居屋銃子なかいやじゅうこは、色素が薄い紫のツインテールを揺らす。 小さい躰の少女が、スーツを着ているのは少し背徳感がある。
 部屋の中には、多数のごつい格好をした兵士達が銃を構えている。 軟禁でも監禁でも無く、彼等は立っているだけである。
 そんな事を言っている間に、時計は13時を差した。 賢治の持っているスマホが鳴り、電話に出る。
 「おお、ご苦労さん。計画B発動の承認?承認した」
 目の前に、現れる【承認】コマンドを押す。
 「フン、フン。イイね、こっちでやるよー」
 機嫌よく賢治は、会話を終える。 横にいる、銃子は首を捻る。
 「親衛隊第1部隊が、剱岳つるぎだけ占領したって」
 「本当ですか?」
 「本当だよ!だけど、立山市が吹き飛んだみたいだね」
 「問題は、有りますか?」
 「無いかな?関西勢が出てくるけど」
 そう言いながら、賢治は銃子の首に手を廻し、自分の傍に近づける。
 「首席殿ッツ!近いです」
 「銃子ちゃん銃を出して、持ってくれるかな?」
 「ハイッツ」
 銃子は、銃を出す。 瞳に光彩は無く、機械の様な顔に変わっている。
 賢治は、休憩所に有る角砂糖を2つ取る。 角砂糖をスプーンで削り、丸い形にした。
 2つの丸砂糖を銃子に見せる。 銃子は、首を傾げている。
 「ねぇ、銃子ちゃん。戦闘機の燃料は、何だか知っている?」
 「精神燃料のマギウス、合成石油ですね」
 「その通り!では、離陸前の戦闘機を止めるには?」
 「操縦士を殺すか、燃料に異物を混入する」
 「ちがうなよー狙いは……」
 ゴショゴショと呟きながら、丸砂糖を手渡す。 銃子は、拳銃の安全装置をガシャット音を立て解除する。
 周りの護衛達は、銃を持った銃子に身構えるが遅かった。 銃子は、窓から飛び降りて行った。
 「頑張っていってらー」
 賢治は、左手で柄を取る。 護衛は、賢治に近づこうとしたが、眠る様に意識を失った。
 銃子は4階の窓から着地、滑走路へ向かって脚を進めた。 通路で、出会った不幸な兵士達は意識を刈り取られる。
 銃子が、辿り付いたのは在日米軍陸軍の航空基地が見える所。 滑走には、航空自衛隊の戦闘機が移動を開始している。
 「風向きよし、全てよし」
 無機質な機械の様に言い、銃を構える。 弾倉には、先程貰った丸砂糖を詰めた。
 「敵性戦闘機の移動を確認!排除する」
 ダンっと一発の銃弾が放たれる。  移動中の戦闘機の前輪が、パンと音を立て破裂する。
 戦闘機は、前方の車輪から火花を散らせる。 ウーウーとサイレンが鳴り始め、基地内が喧騒に包まれる。
 消防車が姿を現し、高速で滑走路内を走り始める。 銃子は、ダンっともう一発音をさせ撃った。
 今度は、消防車両のタイヤがパンク、バランスを崩し横転する。 しかも、滑走路内を封鎖した。
 「敵戦闘機部隊の発進を阻止、任務を完了!」
 銃子は高所から飛び降り、元来た所へ戻る。 戻る時に、意識を戻した兵士は再び眠りへ墜とされる。
 「お帰りなさい、銃子ちゃん」
 「タダイマです」
 飛び降りた窓から戻ると賢治が迎えた。 そして、銃子の手を取り、銃を取り上げる。
 光彩の無くした瞳は輝きを戻し、人間的な感情に戻った。
 「ハッつ、私は何を?」
 「何もボーッとしていたと思うよ」
 「首席、何かしましたか?」
 「何もしてないよ」
 銃子は自分の服を見つめる。  そして、ある事に気がつく。
 「服が、よれています。まさか……」
 「ン?どうかした」
 「私を眠らせ、服を脱がしたのですね」
 「まさかー、僕は、人に興味無いんだけど?」
 「それもそれで、酷いです」
 「どうしろと」
 銃子は、賢治の膝の上に座り、両手を首に廻す。
 「撫でて貰えます?」
 「それだけで良いの?」
 「ハイ」
 賢治が撫でているとコンコンっとノックがし人が入って来た。 白人で、年配の男性が入って来た。
 「ジョン司令、どうかされました?」
 「その、何というか?」
 バツの悪そうに2人を見る。 状況的には、首席と秘書の逢引に見える。
 「ああ、気にせずどうぞ」
 頬を赤くする銃子を撫でながら、賢治は促す。 賢者は、動かず悟らせず。 使うは、信用出来る駒のみ……。

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