10年間修行した反動で好き勝手するけど何か問題ある?

慈桜

94

6条に煌めく赤い流星が西へ飛び立つと黒く蠢く何かの実態が明らかになっていく。
「おぞましい…あれはなんだ?」
「黒い巨人ですか…」
血で赤黒く変色した幾千の目玉を持つおぞましい姿に六騎槍の面々は身の毛がよだつ感覚に襲われる。
「ここから我等が持ちうる最大の槍をお見舞いしようぞ!主様の手を煩わせるわけにはいかぬ」
「はっ!!」
そして六体の鬼は持ちゆる最大の威力を持つ巨槍を魔力で象る。
「行きます!!!」
まず始めに槍を放ったのは氷の茨木童子。全てを凍てつく殺意を持った蒼く透き通る巨槍を黒い巨人に向かい放つ。
直撃と同時に特大のガラスを叩き割るような音が響き、巨人の体を揺らすが、揺らすだけで終わる。
「効いてない……」
「じゃあ連続で撃つまでだ!!」
間髪入れずに放たれたのは雷の巨槍、そして炎の巨槍。
直撃と同時に大炎をあげ、全身に雷鳴を轟かせるがそれもまたかき消される。
『ヴァァァァァアアアア』
声にならぬ悲痛な叫びを巨人があげると振り上げた手から氷と炎と雷の魔力球が投げつけられる。
「おい!!あれは!!」
「二星様!!我々の技が吸収されています!!」
『ヴァァァァァアアアア!!』
巨人が放った魔力球は先ほどの茨木童子達の技と同じ槍の形を型どり二星達へ襲いかかる。
「回避間に合いませぬ!!!」
「我等の槍を、あの二流の槍に当て相殺せよ!!」
「「はっ!!」」
斬撃特化光の白き槍と、貫通特化闇の黒き槍、そして邪気にて極限まで練りこまれた二星の槍が放たれると光と闇の槍は二星の槍に飲み込まれ一際巨大なやりとなり巨人の槍をの飲み込み消滅させ黒い巨人の脇腹に突き刺さり、滝のように血を流す。
「やったか?」
「立っていられまい」
『ヴァァァァァアアアア!!』
巨人が月を仰ぎ叫ぶとズブズブズブと聞くに堪えない肉を捻り骨を引き延ばす音が響き渡り巨人は何事もなかったかのよう右拳を振り上げた。
そして巨人の両の眼が月色に染まりあがり口角を吊り上げた。
「お、おい。まさかとは思うが、親方と同じ槍撃つってんじゃねぇだろうな?」
「おい、氷の!それはいくらなんでもだぞ!ほら見ろ…赤黒い魔力球!?」
「何ボケっとしてんだおめぇら!!散れ!!撤退するぞ!!」
二星の言葉に焦り、即座に天火竜を加速させる茨木童子達。呻き声を上げながら放たれた赤黒い槍は、そのまま適当に投げられた。
地を抉り空を切り裂く赤黒い槍はただ東へ突き進み山を消し飛ばして果ては消滅する。
『ヴァァァァァアアアアヴァァァァァアアアア!!』
巨人はその破壊に歓喜の声をあげるように更に巨大な魔力球を作りはじめる。
「主様、あれは違います、あれは戦ってはいけない」
方々に散った六騎槍の面々は一路リブラ達の元へ向かう。

巨人は特大の槍を月に向けて放つ。そして月に邪法の槍が突き刺さると、月は黄金の体を赤黒く染め上げ、その傷口から縦に割れる黒い瞳を開いた。
「うふふふ、くははは!200万の魂を使えばこれ程までに力が手に入るか!!良い!!いいぞぉぉ!!万能たる神はやはりこうで無くてはいかん!!追跡者を喰わねばならん追跡者を喰らい更なる高みへ登るぞぉう」

その頃最大速度で飛んだ天炎竜が地を割りリブラ達の元へ舞い降りる。
「主様…あれはいけません。特に主様が戦ってはなりませぬ」
「え?どしたの?そんなに慌てて」
二星は息を荒げながら、先ほどの一撃でリブラに被害が無かった事を安堵しながら二の句を告げようとすると青き水晶から生まれし燕尾服の白うさぎがその言を断ち切った。
「力を盗まれたんだなん?」
二星はその言葉に悔しそうにゆっくりと頷いた。
「へ?どゆこと?」
月写つきうつし、月神がもっとも得意とする神法なんだなん。身を襲う破壊を糧にして同等の力を手にするんだなん。」
「え?なにそれこわい。ドエム?」
「意味はわからないけど、ドエムなんだなん。」
「え?勝てねぇじゃん。どやって勝つんだよ、そんなヤツ。」
リブラのもっともな意見にウサギは首を振る。
「まずは月写眼つきうつしのまなこが開いてる間は絶対に勝てないんだなん。これは夜に月を見る物から力を奪う能力なんだなん、それに付け加えて月が本体になるから影をいくら殺しても意味がなくなるんだなん。だから昼間に誘い出すか、月写眼が開く前に陽の力で幾千回殺しきるんだなん。陰はすぐに吸収するから陽の一本押し、昔はリリスが紫龍を数百匹放ってクラウドとジェルスが覚醒状態で殺しきったんだなん。」
「え、そこまで?そこまでのヤツなの?じゃあ月壊せばいんじゃね?」
「そんな事をしたら太陽神が自由になってエリミガリアどころかこの世界そのものがなくなってしまうんだなん。」
「え、なにそれ。めんどくさい。」
リブラは絶望的な話しを聞いて、頭をおさえる。
「主君……」
「わう…」
ライとカルマもなんと言葉をかけていいのかわからなくなり、そっと側に連れ添う事しか出来ない。
「なんか他に方法は無いのか?」
「それは己の無力を認めるって事でいいんだなん?」
「だって無駄じゃんよ?何しても勝てないヤツに挑むとかさ」
そこで三星が膝から崩れ落ちる。
「あれー?まずいっすね。月が目玉になって立てなくなったっす。」
「もう誰も月を見たらダメなんだなん!!月写眼なんだなん!誰かその火車に陽が登るまで魔力を与えるんだなん!干からびて死んでしまうんだなん!!」
「では私が!」
五星が率先して三星に魔力を送りはじめると、一同がホッと息を吐く。
「てか、ウサギお前知ってたんならもっと早く教えろよ。」
「教えるつもりだったんだなん!けどまだ時間はあったんだなん!お前の部下が勝手に強くしてこんな事になったんだなん」
二星はビクッと肩を震わせ「申し訳ない」と小さく呟いた。
「お前達も帝釈天に力を分けてもらって鬼になれたんなら神の力の片鱗に触れたはずなんだなん!!行動が軽率すぎるんだなん!」
「わかった、わかったからガタガタ抜かすなウサギ。俺達が悪かった。どうすればそいつに勝てる?」
ウサギはリブラの言葉にむーっと首を傾げる。
「なんか頼まれてるのか貶されてるのかわからないんだなん。けどこうなってしまった以上、方法は一つなんだなん。帝釈天に知恵を授かり次元の守り主として生まれた我々、青の精霊石を司る次元兎を連れ従えて、帝釈天より力を授かり次元の守り主として生まれた緑の精霊石を司る次元梟を迎えに行き、赤の精霊石を司る帝釈天に会いに行き、青と緑の命を捧げ黄色であるお前達現世の魂を捧げ帝釈天に顕現して貰い、世界を一から作り直すんだなん。そうすれば神々も赤子になるから数千年は平和になるはずなんだなん。」
「なんだそれ。結局俺らも死ぬって事か?」
「帝釈天が消えたらどうせ世界は滅ぶんだなん。あんな死にたがりのゴミ神にいいようにされたくはないんだなん。」
「だぁぁぁ!!もう!意味わかんねぇ!!」



コメント

コメントを書く

「その他」の人気作品

書籍化作品