10年間修行した反動で好き勝手するけど何か問題ある?

慈桜

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 転移プレートで集落に転移したシェルルは相変わらずの平和な集落で辺りを見渡した。
「あれ?姫様どしたのぉ?」
 魔導機関銃のメンテナンスをしていたちゃらおがシェルルを見つけると眠たそうに話しかけると、シェルルはニコッと笑顔を作る。
「リブラ様は家におられるんですか?」
「え?王様いねーよぉ?星持ちもみんな出払ってるし、五星さんは多分教官と学校行ったしねぇ。」
「そうですか……」
「なんかあったの?」
 ちゃらおが不思議そうに質問するとシェルルは小さく頷いた。 そして、話を聞こうとした所で玲瓏なる美しい声が響く。
「あら、あなたはいつぞやの姫君でいらして?」
「あっ、タナトスちゃん!どーもーっす!」
 タナトスはちゃらおをキッと睨みつけると、シェルルに向き直り涼しくも優しい笑みを浮かべる。
「ささ、姫君が立ち話しなど似つかわしくござりませぬ。手狭ではありますが我が主の館にてお話しをお伺いいたしましょう」
「は、はい!」
 是非にとタナトスの案内に、面白そうだとちゃらおもついていく。 そして、シェルルが国の現状を話し始めた。
「なるほど…確かにご主人様なら楽しそうだと手を貸すやも知れませぬが…」
 ふふーんとちゃらおが胸ポケットから地図を取り出しコンパスで距離を測り始める。
「時にちゃらお殿は何をされておられるので?」
「うん?いや、距離測ってんすよ、零で飛んでってどれぐらいの時間戦えるのかなってね。」
 その行動にタナトスは呆れる。
「ご主人様の指示を仰がずに行かれるつもりですか?」
「増加タンクつけて満タン入れたら10分暴れても余裕もって帰ってこれるな…いや、12分は行けるか…。」
「聞いておられますかちゃらお殿!!」
「え?あぁ、聞いてるっすよータナトスちゃん!ってあれ?逆に聞いてないっすか?今日は演習でたまたま・・・・ノースウォールの方まで飛ぶって話し、あれぇ?言った気がするけど言ってなかったかな?気のせいかなぁ?」
 完全に呆れ返ったタナトスが深くため息を吐く。
「あら奇遇ですわね、ちゃらお殿。私もたまたまシェルル殿に城へ案内されていましたの。なんだか雲行きが宜しくないようで何らかのトラブルに巻き込まれそうな気もしますが、それはそれで仕方がありませんこと、運が無かったと諦めるしかございませんわ」
 恐らく互いにシェルルに協力してあげようと言う気持ちはあったのだろう。 だが、これが言い訳の出来ない状況であればまだしも、主君が交渉の席についていない場所で勝手に行動したとなれば後が怖い。
「でも追加タンクと陸用爆弾の換装の時間が。時間が足りない」
「明日の朝まで時間稼ぎなら出来そうな気がしますわよ?」
 その再確認の為に、わざわざ一芝居打つのだからシェルルから見れば滑稽にも見えるだろう。 現に既に戦場での話しをしてしまっているのだから。 そして反面、感謝の念が止め処なく溢れているだろう。
 だが、この頃ノースウォールでは信じられない出来事が起こっていた。 それはここに会する三人には予想だに出来ない事だったであろう。
 火車三星の存在だ。
 三星は、いつも通りに神域の魔物間の争いの中に身を置いていた。
 そして、突如何か強大な力を感じ取り背筋に冷や汗を流した。 とても暴力的で抗う事も許されないような圧倒的暴力の威圧。 それはシェルルの放った紫龍に他ならないのだが、三星の口元は三日月型に釣り上がった。
「おぉい、行こうぜ。ノースウォール行こうぜ。」
「ダメですってサンシェン様!!ぜっったい怒られますよ?またぼっっこぼこにされますよ?」
「大丈夫大丈夫!なんかが攻めて来たって言っとけばわかってくれるって!」
「嘘は絶対にダメですよ!巻き添えでタコ殴りとか勘弁して欲しいですからね!」
 そう言いながらも、星持ちの部隊の中で、最も戦闘を好むと言われる火車の群れの面々の顔は自信に満ち溢れた笑顔を浮かべていた。
「じゃあガバッといってみるか!!」
 比較的道の開けた森を抜け火車の群れはヨルムンガルド寄りの森へ抜け左手から大きく回り込むようにノースウォールを目指す。 それはまるで巨大なネズミ花火が群れをなしているように煌き輝き焼き尽くす進軍。
 明け方、ノースウォール近辺までやってきた火車の群れは、戦の篝火が煌々と燃え盛る戦場を見つける。
「なんかやってるしぃぃ!」
 完全なる横槍。 場違いな戦力が投入される瞬間であった。

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