10年間修行した反動で好き勝手するけど何か問題ある?

慈桜

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  この合戦は各国間にも大きく取り上げられる事になる。 この報を受けたノースウォール神聖国シェルル姫は頭痛で悩まされながらにため息を吐いていた。
「これが我が国内に存在する勢力だと考えると寝るのも息苦しいわね」
 海岸の方角を見つめながら広がる山々に再度小さなため息を吐く。
「しかし、現状では良い関係を築けているのであれば、そこまでお悩みになられる事はないかと?」
 戦況を報告しにきた北方同盟代表ホーキ・ボンドは心配そうに眉を垂らしシェルル姫に問いかける。
「えぇ、もちろん。それは理解しているわ…でも彼は…リブラと名乗る代表者はまだ齢は10と聞きます。それでここまでの武力を備え、一日で帝国が守るヨルムンガルドを落とした…恐ろしいと思うのはおかしいですか?」
「いつか、自国にもその牙が向くのでは無いかと…そう懸念されておられるのですか?」
 シェルル姫は自分の頭を二回ポンポンと叩き首を振る。
「なんと申してよいか…彼は今はまだ国や領土などには関心は低く、魔物との戦いをこよなく愛しています。その素材等と米や酒を交換しゴブリン達を肥えさせる事が楽しいと言った具合に。」
「それがもし…」
「えぇ、国を営む事に、いや人と戦う事に興味を持てば大いなる脅威となりましょう、あの日不可侵の条約…いえこの場合は約束ね、これを結ぶ事が出来ていなければ…そして血の繋がりが無ければ、好奇心のみで我が国が落とされていたのではと、そんな事ばかり考えてしまいます」
 そんなシェルル姫の様子を見てホーキ・ボンドはクスリと笑う。
「あら、何がおかしいのかしら?」
「城下を見てくださいシェルル姫」
 目前に広がるは民と追跡者が所狭しと溢れかえり、新たに建造される建物と外壁、商いをする馬車の群れ。
「今、この大陸で間違いなく流通の頂天にあるのは、北方同盟の土地を吸収した大国ノースウォール神聖国です」
 シェルルは街を見渡し「そうね」と頷く。
「何を恐れる事がありましょう!!リブラ少年が恐ろしいのであれば、同盟を結べはいいではないですか!財と力を使い少年の願いを叶えればいい!大使館を築き橋渡しをすればいい!国を求めれば土地を与え建国を認めればいい!!何故考えないのですか?自国の領土に降って湧いたように閉ざし守り抜かれたはずの王族の血縁者がいる事を運命だと!!」
「それは……そうよね、でもね、正直お姉さんぶって駆け引きしたりするけど怖いの。底が見えてしまったのじゃないかって」
「底など見せてあげればよいのですよ!シェルル姫はまだ代表代理の姫君なのですから、儚くとも麗しき姫君の一面を見せてもよろしいのでは?」
「ばっ、馬鹿にしないでください!!もぉ、ボンドさんがいると調子狂っちゃいます。」
「あはは、では次回の遠征によろしければ私を呼んで下さい、うまく交渉して見せますよ、うまくね」
 そのホーキ・ボンドの言葉に銀色の指輪型アイテムボックスを一撫でするシェルルは小さく頷いた。
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 その頃不動国。

「ほう、おい!見たか?柴田!!ヨルムンガルドっちゅーとこに零戦飛んどるらしいぞ!!」
 アインシュタット王以下王国貴族そして兵隊に似せた人造人間を錬金術で創り出し暗躍する不動国、不動明王秋定はこの報を掲示板で知り胸を踊らせた。
「はい!組長おやじが見たら喜ぶだろうなと一番に考えました。」
「ばれとんかいな!ははは!せやけどええのぉ、ワシの錬金術でも作れなんだのにどないしたんやろのぉ!!展示の動かん奴でも胸踊んのにホンマもんなんか見たら寝られんど」
「どないしますか?」
 待ってましたと言わんばかりの悪い顔で秋定氏は微笑む。
「ほなちょっと手土産持って会ーてきてーな。気ぃわるぅさしたあかんでぇ?うまい具合に言うて遊びに来てもらってんか」
「かしこまりました。ほなちょっといってきます。」
 城の天守閣から柴田と呼ばれたスーツの男が飛び降りると、そのまま空を蹴り空へ飛び立った。
「達者でのぉー」
 秋定氏が空を見上げる頃には既に柴田は小さくなっていた。
「せやけど空飛ぶヤクザて何べん見てもおもろいなぁ」
 秋定氏の呟きを聞く者は誰もいなかった。
 そして、プレイヤー掲示板を見ながら情報を集めコーヒーを飲み煙草の火を着けると、おもむろに掲示板に入力を始める。
 678:不動明王秋定
 :どーもー
 ワシもみんなと遊ぼかなぁ

「大人気ないとは言わさへんでぇ」

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 各国が今回の合戦の報せを受け、躍起になっている頃、水面下では亜人の国ロウエント共和国と獣人の国ビーステイルダム首長国が水面下で軍事同盟を結んでいた。
「ロウエント首相、我らが血盟を結ぶ事に異議はないか?」
 ライオンの耳と鬣を持つビーステイルダム首長が二足歩行の獅子そのものであるロウエント首相に問いかけると、ロウエント首相は深く頷く。
「思えば我々は忌み嫌い合い隣接する広大な土地を奪い合っていた、だが互いに長きに渡り争いあって来たからこそ、互いの恐ろしさを理解している。」
「その我らが血盟を結ぶ事によって、全てを跳ね除ける武力を手に入れるのは案ずるより産むが易し。」
「では、これより血の同盟を」
 互いに国を主張する旗印の入る短剣を交換し右手を斬りつける、そして強く手を握り合わせる。
「これより我らは」「血を分けた兄弟となる事を」「「ここに誓う」」
 ここに両国による亜獣同盟が締結される。
 事の始まりはやはりエリミガリア大陸同盟である。 長年に渡る戦が休戦状態になり、更に協力して共通の敵を倒した事が大きいだろう。
 帝国の反乱があった後もなおこの二国は協力しあい、ポータルで待ち伏せして追跡者を遂には殺しきる事に成功する。
 国内で奴隷にしようと人攫いをしたり強姦を繰り返す裏ギルドの追跡者を両国の軍で追い詰め、殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺しきったのだ。
 それにより追跡者の中では大きなニュースとなった。 Lv1まで下がった状態で殺されると復活しなくなる事が改めて実現したのだ。
 それを知った追跡者達は両国から逃げに逃げ、最終的にはロウエント共和国、ビーステイルダム首長国から追跡者を追い出す事に成功した。 それを祝い互いに同盟を希望したのだ。
「しかしロウエントよ、近頃追跡者を保護し魔物の軍勢まで抱える国があると聞くな」
「やはり知っていたか、これは追跡者と魔物に苦しめられた我々への冒涜と考えても良いのではないか?」
「ふむ、機は熟したな、世界融合により拡大した大陸を飲み込みノースウォールを落とし覇を唱えようではないか」




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