10年間修行した反動で好き勝手するけど何か問題ある?

慈桜

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 イーシェン、スーシェン、ウーシェンが己が高みを目指さんと意を決している頃、ゴリライダーゴブリン部族長、サンシェンとゴリラ石松は総勢300を超える軍勢を部隊分けし森の巡回警護に当たっていた。
「ったく、森の地力回復ったって主は魔物の繁殖力をどー考えてんのかねぇ」
「サンシェン殿、不敬にあたりますよ。慎みますよう。」
「ほいほーい、ん?どうやらやっこさん本格的にやる気出したみたいだねぇ」
 これだけ総動員での警護には並々ならぬ理由があった。 地力回復をうたい海岸部に軍事基地開発を元にした集落を造成するに至った反面、警護全般を任されているサンシェン達は、近日中にオーガの群れと当たる事を予測していたのだ。
 オーガの狙いは家畜地帯。 天敵である黒牙豹の二匹が家畜地帯から姿を消した情報を手に入れたオーガは誇り高き鬼の部族の繁栄の為にここに軍を向けた。
 事前にオーガの動きを探っていたサンシェンからすれば、このタイミングで自軍を総動員するのは至極当然であったのだ。
「報告します。これより北にオーガの進軍を確認、その数200、後方より本隊オーガ500を確認できました。」
「うっひょー!!めちゃくちゃ多いなぁ。これまともにやったら勝てないかもな石松っ」
「だいじょぶ、おら、つよい、サンシェンもつよい。」
「わーってるよ」
 サンシェンは適当な性格ゆえに、滅多な事が無いと森から出ない。 常に最前線で警備網を張り報告も部下を使う。 以前、半島を制覇し、地力回復で海に布陣を下げてからサンシェンは森にこもり続けた。
 そして、リブラですら知らぬまま、他の星持ちのゴブリンも当然知らず事がある。
「サンシェン様……オーガを壊滅させた所で、一度リブラ様、他の皆様にお会いになって全てをお話しした方がよろしくありませんか?我々も隠せる自信が無くなってきました…」
「あははは、ダメに決まってんだろぉ?言うに言えなくなっちまったんだからそれに見合う土地もってかないとさ?」
「ですが侵攻を進めすぎです!!人間の地図というモノを見せてもらいましたが、我々は既に西の神域を抜けるまでに領地を拡大しているのですよ?」
「って言っても海岸沿いだけじゃん?しかもオーク消したのは黒姫ちゃんだしさ。どーせならやろうよ、ガバッといっちゃおうよ」
 旧イーシェン達の集落から西に見た元赤ゴリラの西の森から海岸沿いに抜けて行くと、スーシェン達、東の蛮族とオークの両者の広大な領地が広がる。 そこを海岸沿いに抜けて行くとボアオークと言う戦斧を武器とする猪寄りのオークが3000の軍勢を持って神域内の海岸沿いをほぼ支配していた。 サンシェンは即座に軍を向け昼夜問わずの木の上からの奇襲にてこれを撃破。 支配領地をさらに広げ、ボアオーク・オークの幼生を自軍に取り込み更に侵攻を続けた。 そこに待ち構えていたのは高度な罠の数々。 ボアオーク、オークの幼生を強引に食事で成長させ、これらを玉砕精神の名の元に特攻させた。
 この間、リブラから支給される供給過多の食糧をゴリライダーゴブリン達は手をつけず、ボアオーク、オークの成長繁殖に費やした。
 飢えた戦士はボアオーク達の屍を越えて鬼神の如き進撃を見せる。 そして卑劣な罠をくぐり抜け、その罠を仕掛けた小人族コロポックルを無血降伏の元に降し、神域を抜けた先の平穏なる森にて草食動物の虐殺を繰り返した。 それを見兼ねた平穏なる森の強者は精神錯乱と空からの奇襲をサンシェン達に仕掛け血で血を洗う抗争に発展する。
 女面鳥人ハーピーとの全面戦争である。
 コロポックルの熾烈な罠と、ボアオーク、オークの捨て身の特攻、そして対空戦を物ともしないゴリライダーゴブリンの機動力を持って700のゴリライダーゴブリンは300まで数を減らしたが、これに勝利し、対空兵器としてハーピーを取り込んだ。
 死闘の最中、生死の境を彷徨ったサンシェンは何者かの声を聞いた。
『あなたはそれでも修羅の道を生きますか?』
 そしてサンシェンはその声の主を斬り捨てた。
 怒涛の進撃と他種族との連携により西の海岸沿いを制覇し、勢いに乗るサンシェン達は、来るべきオーガとの戦に相当な根回しをしてきた。
 戦は根性だけでは勝てない。
 これが数々の激戦を自分達の力でのみ勝ち抜き幾度と死線を彷徨ったからこそ手に入れた真骨頂である。
「報告します。オーガ先兵200、コロの罠により壊滅しました。これにより罠の全てが使えなくなりました。」
「報告します。ハーピーの上空から投石によりオーガ本隊半壊!ここに豚共が突撃しました。」
「よぉぉし、じゃあ残りは俺がいただきますかぁ」
「我ら部族は予定通りサンシェン様の食い残しを撃破いたします!!」
「ははっ、のこってたらね?」
 そう言い残し、赤髪の長いざんばら髪・・・・・・・・・・の少年は巨大な火の車輪に剛腕を生やした・・・・・・・・・・何かに乗りながらオーガの群れをボアオークら突撃部隊諸共轢き殺し消し炭に変えた。
「いっちょあがりぃっ!!」
 この後、サンシェンは集落に帰ろうとせず、オーガのメス、子供を取り込み北の森から西の森へかけて扇状に侵略を繰り返し覇を唱える。
 激戦で死んだ仲間の死骸を貪り羅刹に生きた小鬼達は、後の大戦で火車の群れと恐れられるのはまだ先の話である。



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