10年間修行した反動で好き勝手するけど何か問題ある?

慈桜

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「竜槍士と言う言葉をしっているか?」
「えぇ、モチロンです。課金職…いや、珍しい職業です」
 リャンシェンさんは気さくな人?って言うか鬼で、共に山を越えるようになってから色々な話しができるようになった。
 その中でも今まで生きてきたリャンシェンさんの過去の話には思わず涙が流れてしまう話しも多々あった。 ゴブリンに生まれて、何度も負けて強くなると誓った話や、自分の力で奪った集落をたった一匹のゴブリンに奪われた話し。 そして力を合わせてゴブリンを統一した話。 仲間達の悲しい死。 そして人間に対して深く深く抱いた劣等感。 積み重ね槍を振り続け研鑽の果てに今の姿になった事。 人族と鬼、決して相入れるはずのない組み合わせではあるけれど、僕はこのリャンシェンさんの力になりたいと素直に思った。
「どういう力なのだ?竜槍士とは」
「そのままですよ、竜に跨り槍を振るう天空の戦士です」
 僕の言葉を聞いたリャンシェンさんは深く目を閉じて何かを噛みしめるように頷いた。
「そうか、竜に跨り槍を振るう天空の戦士か。ではこれは何か分かるか?」
 リャンシェンが取り出したのは持ち手が赤い炎のカタチをした、赤く透き通る刀身を持つ短剣だ。 そしてそれは…。
「炎の属性竜と契約を結ぶ事が出来る剣です。」
「なんと!!こんな短剣でそんな事が可能なのか?」
「はい…ですが簡単ではありません。単独撃破で竜を殺し、その心臓に突き立てる事でその契約剣が核となり竜が蘇り主従を結ぶ事ができます。」
「そうか、時にマサツグ。お前達は竜から身を守る事は出来るのか?丁度通り道に火竜の住まう火山があるのだが」
 少し返答に困ったけど、小さく頷いた。
「長くは持ちませんけど、竜域に入らなければ可能でしょう。」
 互いを知り合えた上で、一番大切な話しをする。 嘘をつかないと信じてもらえたから、認めてくれたからこの話をしてくれたんじゃないだろうか? そんな事を考えながら火竜の住まう火山へ向かった。
「マサツグっ!リャンシェンさんがここで待っててくれって!!」
「え?火山までまだまだあるよね?あっつ!!」
「もー!!なんでよそ見しながらよそうかねぇ!!」
 夕方になり野営の準備中をしている最中にリャンシェンさんたちは火山へ向かったそうだ。 リャンシェンさんと部下の戦士さん達は夜でも昼間ぐらい目が見えるそうだから道中の心配はないだろうけど…やっぱり、見届けたかったな。
「あと、マサツグに伝言だってよ?」
「え??なになに??」
「この川辺から月が見えなくなったら空に向けて目立つ魔法を打ち上げる指示を出してくれってさ」
「え?火山まで後2日ぐらい距離あるよね?」

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 闇夜の森を6体の妖鬼がまさに疾風迅雷となりて駆け抜けて行く。 その怒涛の勢いにやがては風が吹き荒れ木々が大きく揺れ動く。 そして月明かり照らされる中、妖鬼達は火山の麓へ到着した。
「火山では苦い思い出がある…戦友の弔い合戦だ派手に暴れてくれよう」
「イズナ殿に聞いたのですが、火竜は山の上に行けば行くほど強い個体になると話しておりました。出来れば我らも強い個体と戦いたく…」
「よし、いいだろう!!なれば我はあの頂上でふんぞり返る天炎竜を討つ」
「そんな!!リャンシェン様!!古竜は危険です!!下手すれば全火竜との戦いになります」
「ほう、我と共に死線をくぐり抜けた貴様ほどの武人が竜ごときに臆したのではあるまいな?」
「……いえ、これが戦となりますれば必ずしや殲滅致しましょうぞ」
 かつて槍の師に命を救われ放たれた言葉。 リャンシェンと言う名の酒呑童子からすればそれが一番の叱咤なのだろう。
「では戦おうか」
 闇夜の巨大な火山に6体の鬼が放たれた。 火竜達は神経こそ研ぎ澄まされているが、リャンシェン達の疾風の如き速さに気付いた頃には視界の果てにいる為もう一度首を垂らし目を閉じる。
 あれよあれよと山頂近くまで来るがやはり一筋縄では行かぬ。
 守護を司る位置に立つ大きな身体を持つ羽根なしの守護竜、所謂天炎竜の下位個体の天火竜の喧嘩に負けて羽をもがれた竜だ。
「グルアァァァァァァ!!!」
「宵闇は静かにするのが世の常ぞ?」
 突如リャンシェンの手に握られた紅き巨大な槍を一薙ぎすると守護竜の首が胴から切り離される。
「我はこのまま頂きへ行く!!お前ら、死ぬなよ?」
「「「「「応!!」」」」」
 寝起きの天火竜達が部下の元へ襲いかかるがリャンシェンは脇目も振らずに駆け抜ける。
 そして、一際大きな竜へ巨槍を投げつける。
「グルアァァァァァァ!!!!」
 突如に襲う激痛に一際大きな咆哮を上げ天炎竜は全身に炎を纏った。
「ははは!!!いいぞ天炎竜!!これほどまでに震えたのはカルマ様以来だ!!」
 言葉を聞く事もせずに天炎竜は全身の炎を一点に凝縮する。
「グルアァァァァァァ!!!!」
 海賊船から放たれた魔導咆を何百発と凝縮したようなブレスは一条の光となりて火山一帯を火の海と変えやがては溶岩流が巻き起こる。
 刹那、部下達が戦っているであろう位置に氷の巨大な槍が降り注ぎこれを受け止める。
「ふん、やりおるわ小童こわっぱども。ならば我も武を魅せねばなるまい」
 深淵アビスで100匹以上の戦友を失ったリャンシェンと以下の戦士達は力を願い力を求め続けた。 ある者は全てを凍てつく力を求めた。 ある者は全てを食いちぎる力を求めた。 ある者は全てを焼き尽くす力を求めた。 ある者は全てを斬り裂く力を求めた。 ある者は全てを轟かす力を求めた。
 そしてある者は、師を越える邪悪で禍々しい全てを滅する力を求めた。
「茶番はおわりだ、トカゲ」
 天を貫かんばかりの邪悪で禍々しい真紅の邪気が次第に大量の槍となり天炎竜に降り注ぐ。
 実体の無い邪悪な紅槍は文字通りその身に穴を開けて行く。 抗いようの無い巨槍の雨は豆腐にストローを突き刺したように身を削り脅し肉片と変える。
 竜の全身を穿孔すると間もなく天炎竜は長い生に終わりを告げた。
「穴だらけでは使い物にならぬでは無いか…まぁ、いい。奇跡など起こるはずがないのだからな」
 同行する少年の夢物語に胸を躍らせた反面、死者は帰らぬ現実を知っているリャンシェンは仲間達の数々の死を思い出し、それを振り切り短剣を巨大な竜の心臓へ突き立てた。
 すると…短剣は赤く輝き竜の亡骸と混ざり合う。 そしてその光が竜の身体を埋め尽くす。
「これは………」
 光が消えると老竜であった天炎竜の鱗は赤く光り輝き、一回り程小さくなったが若き美しい天炎竜へと生まれかわったのだ。
「クルェ」
 そしてリャンシェンの顔を見ると嬉しそうに顔を舐めたのだ。
「そうか、これが契約と言うものか。よもや我が親になる日が来ようとはな。」
 そして、部下達も契約に成功したようで大きな天火竜の首の根元に跨り空を舞ったのだ。
「リャンシェン様ぁ!!ご無事ですか??」
「無論だ、お前達も大事ないようだな」
「もちろんですとも!!いやぁ!!俺の竜ったらつえーつえー!!」
「ばか!!俺の方が強かったよ!!」
 勝利を喜びあうと西の空に極大魔法が打ち上げられる。
「さぁ、これで我らも羽を手に入れた!!!よもや零戦に一番槍を取られる心配はいらぬであろう」
「「「「「応っ!!」」」」」


 この日、リブラ達の集落では紅き流れ星が流れたと話題になったのはリャンシェン達は知る事はない。




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