10年間修行した反動で好き勝手するけど何か問題ある?

慈桜

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 滑走路を設置するにあたって、フェアリーランドの妖精達には多いに働いて貰った。 コンクリートが欲しいと思っても作り方がわからないのだ。 得意の錬金術で無茶な滑走路を作ってやろうかとも思ったが、やはりロマンにかける、そこでなんとか作り出してもらったのがローマンコンクリートもどきだ。
 ゴブリン達の訓練の一環で森を切り開き整地していき太い鉄が交錯したメッシュを敷き詰め、綺麗に慣らして行く。 元槍隊総動員での作業だ。 50人規模で昼夜問わずの作業の成果を大きく三週間で空軍基地・・・・が完成する。
「やっとだな……時田さん……」
「えぇ、やっとです……」
 俺たち二人は噛み締めるように滑走路と何度もテストし直した零戦を前に頷くしか出来ない。
 ちゃらおがオイルロックが起きないようにプロペラを手で回しオイルを循環させる。
「大丈夫っぽいっすね!!」
 小さく頷き、時田さんはゆっくりとゆっくりと零戦へ歩み寄る。
 時田さんの目頭が熱くなっているのを見て、こちらももらい泣きしそうになる。 そして、操縦席に乗り込んだ時田さんはカウルフラップとオイルシャッターが開いているのを確認するとバッテリースイッチをONに入れる。 カチッと小さな音が響くと見守る時田さんの生徒達も緊張感が高まっているようだ。
 ギアを下げ、フラップをアップアンドニュートラルに入れる。 四脚とビリンダウンのインジケーターとスリーランプグリーンの確認。
 そして、燃料ポンプブースターのスイッチを入れる。
 カチッ。 それと同時にみんなが零戦から離れる。 エンジンに火が入るのだ。
「燃料圧力総圧良好」
 初期点火用燃料プライマースイッチを押さえスタータースイッチを入れる。
 そしてプロペラがゆっくりと回る、その回数が7回目に差し掛かろうとした時、マグネットスイッチをONに入れ、エンジンに火を入れる。
 ボポッボパパドドドドドドドとエンジンの爆音が響き渡る。
 エンジンオイルを温めタキシングを始める時田さんの顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになってた。
 俺は、自分のこみ上げる気持ちを押さえこみ、腕を組みながら時田さんに親指をグッと立てると時田さんも小さく頷き親指をグッと立てると機体はエンジンランアップに入る。
 徐々にエンジンの回転数が上がって行き、機体が加速する。
 そして………。
「「「うぉぉぉぉ!!!!」」」
 割れんばかりの大歓声と共に時田さんは飛んだ。
 写楽はそれを見て泣き崩れ膝から崩れ落ちた。
「よかった……よかったトキタサン………」
 背面飛行や急旋回をする様子に生徒達も発狂に似た声援を送り続ける。
 50年近く抱き続けた、もう一度飛びたいと言う無謀に近い夢はこの時叶ったのだ。
「やはり主君が一番気にかけるだけありますね、あの男は。よもや船で空を飛ぶとは」
「あはは、カルマ。あれは飛行機と言って船ではないんだよ」
「むむっ、そうなのでありますか!!カルマの無知をお許しください」
 問題無くフライトを終えた後、大規模の宴が行われた。 この日ばかりはと、カルマの秘蔵酒だけならず、俺の酒樽をも大盤振る舞いした。
「夢が叶ったな、時田さん」
「これも、何もかもリブラさんのおかげですよ」
 少し酒で顔を赤らめた時田さんは笑顔で話す。
「まだ沢山の時間があると思うと自ずと新たな夢が生まれます」
「へぇ、次はどんな夢??」
「生徒達と共に空を翔び、敵艦を撃破し、あの零の栄光を再びこの手に…いや、少し飲み過ぎましたかな」
「いいや、素晴らしい夢だよ、時田さん。次はあの海賊をコテンパンにするのは俺達だ。」
 本当に楽しいのだろう、大笑いするのをグッと堪える時田さんは笑顔を絶やさずに次の言を放つ。
「カルマ殿が鹵獲した海賊船に積載された魔導砲…あれの技術を組み込んだ魔導機関銃…完成しますよ」
 俺達二人は宴の席を眺めながら邪悪な笑みをこぼした。



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