10年間修行した反動で好き勝手するけど何か問題ある?

慈桜

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 結論を言おう。 ここ数日間、三匹もとい三人を調べたが、仮想体に穴など無かった。 文字通り生まれ変わってしまったのだ。 物は試しと成体になりたてのゴブリンをしばきまわして拉致ってきて魔魂憑依をした結果、本体が消滅した。
「ちょいマジ勘弁すよ王様ぁ!!生肉喰ったら腹こわしちまったっすよぉぉ!!」
 しかも初期の成体には見られない完璧な自我が芽生えた。 ちゃらい若造の見た目と言う地獄の結果付きでだ。
 近頃開始したトキタサンの操縦に関する基礎知識や、訓練用の模擬コクピットの授業はゴブリンジェネラル級の賢い個体でも理解する事は出来なかった。 しかし、この腹を壊したとわめく個体は、スポンジが水を吸うように知識を吸収しているのだ。
「リブラさん…悪い事は言いません…戦闘機乗りを育てるなら人にした方がいい。ゴブリンで乗れそうなのは一星イーシェン五星ウーシェンぐらいです…他は…」
「あぁ、間違いないな。まず、あのちゃらおとイーシェン達に乗らせて、後は希望する者には仮想体を与えると言う形をとりたい。」
「それがいいでしょう…自我が芽生えた誇り高きゴブリンからすれば、我々人間は下等にあたりますから…」
 まぁ、トキタサンの製造にも限界がある。 製図をフェアリーランドに入れて妖精達に造らせれば量産は可能だが、それは奥の手だ。 今は長年の夢を叶える為に切磋琢磨する時田さんの戦闘機が完成するのを待つ時だろう。 その時、巡回の兵が声を荒げて工房に入ってくる。
「報告します!!海賊船と見られる船体が一隻こちらへ向かって巡航中です。直ちに軍を配備し臨戦体制は整っておりますが、指示を仰ぎたいとの事です!!」
 海賊船か…鹵獲してもいいな。 移動も楽になる。 たが、こちらに船が無い限りは太刀打ちできないな。 船を破壊するのは簡単だが…。
「わかった、俺が出よう」
 よっこらせっと立ち上がると、別の兵が駆けてくる。
「…っ恐れ多くも申し上げます!!敵船、三隻の海賊船と合流した後にリャンシェン様の大隊が魔導砲のような大砲に撃ち抜かれ大打撃を受けております!!共に巡回していた客人コムギ様の障壁により堪えておりますが、やむなく撤退!目測の被害で槍隊50を超えています!至急ご指示を」
「怪我人を優先して運べ。カルマ聞こえているだろう?出番だ。全力で暴れてこい。」
「承った」
 物陰で聞き耳を立てていたカルマが疾風となり走り去る。
「助かりそうの無い奴を保護しておいてくれ、俺が行く」
「御意に!!!!」

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「お前達は退けぇぇ!!!コムギ殿をお守りし、集落まで戻るのだ!!!」
「でも、リャンシェンさん!私がいなきゃリャンシェンさんが!!」
「いいのですコムギ殿、私はあなたから様々な事を教えてもらった。私はあなたを守りたい」
 小柄な巫の少女を肩から下ろし大きな手でそっと頭を撫でるリャンシェン。 優しい笑顔は次第に武士のそれへと変わり敵へ向き直る。
 槍兵達が複数人でコムギを持ち上げ連れ去る中、少女はリャンシェンの背中を見つめ続けていた。
 その場に残されたのは五体満足のリャンシェン以下かろうじて生きている50の戦士達だけだった。 海からの砲撃に、陸地で槍一本ではなす術無し。 だが、リャンシェンと言う戦鬼は微塵足りとも諦めてはいなかった。
「我と共に覇道を歩んだ戦士達よ!!!腕を失おうが脚を失おうが臓物をぶちまけようが!!最後まで戦士であれ!!俺に槍をもってこい!!必ずやあの人間共に突き刺してくれよう!!」
 朦朧とする意識の中で、戦士達はリャンシェンの声を聞き、幽鬼となりて折れ曲がり砕けた槍をリャンシェンの元へ運び倒れて行く。
 険しい表情のリャンシェンの瞳には言葉にはできぬ噛みしめる強い意思が宿っていた。
「オオオォォォォォォォ!!」
 丸太のような長い剛腕で折れ曲がり焼け焦げ煤けた槍を投げつける。 人並み外れた怪物の膂力は、そんな槍を船にぶつける事に成功する…………だが。 次の魔導砲の補填が完了したのだろう。4隻の船の主砲が光輝くとリャンシェンは死を悟った。 せめて最後まで戦士であった仲間達の骸を残そうと仁王立ちで前に立つ。
「次は負けぬぞぉ!!!」
 死を悟り尚も再戦を誓い高笑いする武人の姿に、残り僅かの命を悟る兵達は熱く込み上げるものを感じた。
 魔力を凝縮した火属性の砲弾が眼前に迫る。 先ほどはこの砲弾が着弾すると同時に周囲が火の海に変わった。 それを知っていてもリャンシェンは微動だにせずそれを受け入れたのだ。
 ………………。
 だが、いつになろうとその身を焼き尽くす砲弾は届かなかった。
「ほう、リャンシェン。まさか貴様程の武人がこれしきの花火に臆したのではあるまいな?」
 右手を翳し、不適に笑う幼女が全てを受け止めてくれたのだ。
 合間合間で槍捌きを指南してもらったりはしていたのだが、この日を境にリャンシェンはカルマを本当の意味で師と仰ぐ事になる。 それは圧倒的な武に対する憧れか、はたまた気付かぬ恋心か…。 本当の強さに対しての渇望が始まったのはこの時であった。




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