10年間修行した反動で好き勝手するけど何か問題ある?

慈桜

22

 世界に何が起こっていようと俺達には関係無い。 だって魔物達と暮らすこんな密林に新しい生物が辿りつかないっしょ? そんな事より目の前の戦だ。
「スーシェン!!突っ込みすぎだ!!射抜かれるぞ!!!」
「大丈夫ですってイーシェン殿っ!!!ちゃんと手は打ってますから!!!」
 矢の雨が降る中スーシェンを筆頭に東蛮の小鬼達が矢面に立ち、その隙に渓流の上流から背後を取ったサンシェン・石松以下のゴリライダーゴブリンが石弓の小鬼達を薙ぎ倒す。
「よし!!道は空いた!!槍隊前に出るぞぉぉ!!!!」
 リャンシェンが槍隊を率いて先陣を切る。
「さぁ、行こうかカルマ」
「えぇ、主君。今宵も血の雨を降らしましょうぞ」
 世界融合があってから数日後、俺達は北の石弓の小鬼400との戦を始めていた。
 何よりも戦力として補強されたのはカルマが公言通りに黒豹を撃破し、更には番いでこれらを支配下に置いた事だろう。
「ふみゃぁぁお」
「よしよし黒姫くろひめもう少しで暴れられるからな」
 カルマの乗る黒豹、名は黒姫。 過去に一度カルマの仮想体を食い千切った個体だ。 ランスで牙を折られ泣き崩れた所で俺がくっつけると言う荒技で支配下に置いた可愛いやつだ。 もう、カルマの顔を舐める舐める。 そして、俺が乗るのはヤマト。 色艶麗しい黒姫と違って、毛はボッサくれてやる気のなさそうなダラけた黒豹だ。 黒姫が懐くなら俺もと言った適当さが俺のいい意味での琴線に触れた。 俺がこいつと付き合っていく上でたった一つの問題点は ライの異常なまでの嫉妬ヤキモチだ。 俺がヤマトと居る所を見られるとスリープ状態の本体に噛み付いたり、いじけて無視したりと、まぁ大変な事が多い。 その問題以外はこれと言って障害は無く、だらけたヤマトとは仮想体での抜群の相方だ。 しかも俺同様に高みの見物が大好きな黒猫じゃなくて黒豹ちゃんだ。 好きにならない方がおかしい。
 激戦の最中、敵の弓兵が一際大きな強弓を引き絞る姿が見えた。
「敵軍総大将!!発見せりでーす!!」
 ゴブリンの脚とは思えない速さで敵の石砦を登って行くイーシェン。
「このクソイーシェンがぁぁ!!敵将の首は渡さぬぞぉ!!!!」
 カルマも即座に黒姫の腹を蹴り、それを追いかける。
「あまいわぁぁぉぁ!!!!」
 そして側方からの巨大な拳が敵総大将を弾き飛ばし石弓の小鬼の全面降伏によって幕を閉じる。
 三日間に及ぶ激戦は、いち早くスーシェンと連携を取り突っ込んだリャンシェンの手柄となった。 しかし、こちらにも少なくない被害が出ており、もしスーシェン達との戦が無ければ負けていたであろう戦の内容に背筋が冷える思いをした。

「石弓の小鬼の長と見受けられる」
 イーシェンの言に顔を引き締め深く頭を下げる石弓の長。 全石弓の小鬼達も弓と矢筒を地に起き頭を下げる。
「どうか、我が命を持って部族の者共の命をお救いください。」
「いいや、お前が俺らと共に歩もうと言うのであらば考えんでもない。だがな、そこで自害すると言うなれば石弓の部族もろとも皆殺しだ。」
 涙など流れるはずも無いゴブリンの目から涙が流れる。 やはり弓を作れる部族なだけあって知性が溢れているとでも言うのだろうか? その顔付きもやはり人間に近いものを感じる。
 そして涙を拭いイーシェンの言葉を噛み締め、弓を捧げる。
「我が忠誠、お受け取り下さい」
「うむ、しかと受け取った。同胞よ、共に生きようぞ!!」
 この日我がゴブリン軍団に狙撃部隊隊長 五星ウーシェンが生まれた。

 そしてまた、カルマの秘蔵の酒が大放出された。

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