10年間修行した反動で好き勝手するけど何か問題ある?

慈桜

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 大型アップデートと告知された後、ジェイルブレイカーはログアウト不可になった。
 下半身不随の僕は国からの援助でもらったジェイルブレイカーにのめり込んだ。 ただ、自分の足で歩ける。それだけが幸せだった。 ちゃんと踏み込めない変な感じだけど、関係無く幸せだった。

 ログアウトが出来なくなってからはじめはみんな混乱してた、でもデスゲームって訳じゃないってわかってから、みんなに余裕が出来始めた。 レベルダウンって言う凶悪なデスペナは痛いけど死んでもポータルで登録したベースタウンで復活するし、何より回復アイテム扱いだった無機質な食事が美味しくなったのが最高に嬉しかった。 でも、その代わり戦闘でのダメージの痛覚までもリアルになったのは勘弁してほしかった。 その辺を全部割り切ったら、元の世界になんて帰りたくないって思った。 そんな事をいち早く考えた俺は気付いた。
 ここはジェイルブレイカーの世界に似た異世界なんじゃないかって……。
「マサツグ!!早く早く!!ギルマスが緊急招令出してるよ!!」
「うわぁぁ、びっくりした!!待ってよ†堕天使イズナ†」
 脳内文語変換。 言葉の読み込みと同時に内容を相手側に表記する方法だ。 たまに読めない名前の人に使ったりするシステムだ。 この機能は生きてるみたいで少し安心した。 本当に読めない名前の人も多いからね。
「ちょっ!!文語出さないでよ!!後悔してるんだから!!普通にイズナって呼んでよ!!」
 今、このイズナちゃんの真っ黒な黒歴史を目前にしてるのに弄らないなんてとんでもない。 そんな事より、やっぱりギルドの幹部連中や領地持ちギルド…所謂クランの人達は、この状態を打破しようとしてるみたいだ。 別にゲームの世界で生きればいいのにって素直に思う。 でも社会人も多いからそんなワケにはいかないんだろう。
「では!この新しく追加されたチャプターに習い、新しく追加されたアウリファナンティ神域を目指そうと思う!!異議のあるものは?」
「異議はありません!!ですが、陸路で?それとも海路で?事前調査も済んでいませんしアウリファナンティ神域近隣でのベースタウンの探索を先行すべきかと!!」
「クランの連中が掲示板に書いてたが最も近いベースタウンで陸路で3日かかったらしいぞ!」
「しかもゴブリンの殲滅って初心者向けかよって思ったけど、かなり広大で深い森で初っ端から大型の魔物がわんさかいるらしいぜ?」
 幹部同士の問答に答えが出ぬままに話し合いが続いていく。 そして結論が出る。 システムウィンドウを触りながら耳に手を当て頷くギルマス。 おそらく誰かと通話しているんだろう。
「たった今、海賊ギルドに所属する友人と通信コールがとれた!!港町ハーバータウンをベースタウンとし海路でアウリファナンティ神域を目指す!!先日海賊ギルドに所属していない者でも搭乗出来る事が確認できたそうだ!!!」
「うおぉ!!すげぇ!!もう裏ギルドも正ギルドも関係ねぇって事かよ!!!俺こっちの方が好きかもしんねぇ!!」
 思い思いに騒ぎ立て一路ハーバータウンを目指す。
 やっぱりそうだよ。 これはもうゲームの世界じゃないんだ。 裏ギルドはPKやNPCKを一定数こなして賞金首の規定額を高額にしてからやっと入れる狭き道だ。 しかも、それまでに狩られたりしたらキャラクターが消滅されて一からやり直しって言う極悪な条件付きで。 でも裏ギルドに加入できれば前歴は一度消去されて、海賊船で強奪も出来るしNPCを奴隷として別の大陸に売ったりもできる。 本当の自由は裏ギルドに入ってからなんかも言われたりしてる。 それなのに僕たちがいきなり海賊船に乗れるのは世界の制限がなくなってるってことで………。 もっと突っ込んだ話しをしたら宿屋のNPCとセクロスしたって話しも聞くぐらいだ。
 そんなのがゲームで出来るワケがない。 いくら死なないからって、このままゲームの世界だと割り切っていたらいつか痛い目にあうんじゃ?
 僕はずっと、そんな心配ばかりしてしまう。
「マサツグー!!海賊船だって!!楽しみだねぇ!!」
「うん、楽しみ……だね」
「船酔いとかするタイプー??」
「いや、大丈夫だと思う…乗ったこと無いけど…」
「そうなんだ!!あれ?そう言えばツグナさんとは連絡とれた?」
「いや、コールはでなかったからメッセージ送ったんだけど既読スルー」
「あはは…忙しいんだろうね、サーバー最大のギルドマスターとなると…いつかまた今度天空の大国シエルクラティアに連れてってよね?」
「だめだよ、クランに入らないと入国出来ないよ?」
「あちゃー、やっぱ厳しいかぁ」
 正直兄貴とか関わりたくないから嘘ついちゃいました。ごめんねイズナ。 俺は今初めて感じる自分の足で歩く感覚を楽しみたいんだ、だって新しい世界での冒険は始まったばかりだ。 折角歩けるんだ、しっかり大地を踏みしめ歩いていきたいじゃん。 兄貴の空の城なんて興味ないよ。


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