10年間修行した反動で好き勝手するけど何か問題ある?

慈桜

10

 手漕ぎボートを急造でフェアリーランドで拵えてもらい、チャリクス爺の本を日除けに寝転がる。 腹の上ではライがアクビをしながら眠りにつく。 オールを必死で漕ぐのは悪魔幼女だ。
 海鳥の鳴き声を子守唄に干し肉を噛んでいると悪魔幼女が騒ぎ出す。
「主君、レッドシャークに囲まれましたが…。」
 眠たい目をこすり左足で蹴飛ばすと悪魔幼女は無表情で海に突っ込んで行く。 暫く続いた喧騒が鳴り止むと赤く染まる海から悪魔幼女が顔を出す。
「主君、極力外傷の無いように全滅させました。数は28、処理はどうされますか?」
「ふぁぁぁ、お前のアイテムボックスに入れとけよ。」
「はっ!それでは主君より預かりし腕輪にこれらを納めたく存じあげます。」
 暑苦しいわぁ。 こっちはポカポカ陽気でいい気持ちだったっつーのに、まぁ、魔導石で動力エンジン的なもんを付けた船だとか大型の軍船があるにも関わらず手漕ぎボートに揺られてるのは、単純にこいつがどれぐらいでワガママを言い出すか見てみたいって言うのが大きいのだが……見ての通りの忠臣ぶりで困る。 俺は将軍でも王様でもないけどぉぉぅ!! 元はあんなえげつない見た目の悪魔だったのに。 こんな可愛らしい幼女連れて歩いたら色んな意味で俺の人生詰みな気がする。
「主君!!陸地が見えましたぞ!!」
「おっ!!おおおお!!!しかし恐ろしい程の密林地帯だな!」
 魔法書のインストールとダウンロードを何度も繰り返し、船の上で似つかわしくないディナーを何度も食し、果ては冒険譚なども読み尽くし海上での生活には限界を感じていたがやっと陸地だ。
 何をするにも俺の自由。 習い事なんぞに時間を取られる事も無い。 胸が再び熱く燃える。
「上陸ぅぅぅ!!上陸じゃあああ!!」
「はっ!主君の仰せのままに!!」
「わおーーーーん!!!」
 砂浜に上陸すると同時に空間魔法で一帯をマッピングする。 後はゲームのマップのように何時でも把握する事が容易くなる。
「うーん、食用の生き物は心配ないな。異常に分布してる。その分魔物も多いけど。街とかは近くには無いっぽい。」
「では、移動されますか?」
「いや、人に会うのが目的でも無いし、ここで悠々自適に暮らすのも悪くないな…よし、ここら辺一帯を整地しよう。」
「では、我に任されたし。」
 ライが海辺で蟹を捕まえて遊ぶ最中、悪魔幼女は雑草を抜くように木を抜いては浜辺に集める作業を繰り返す。 そして500m四方の更地が完成してから岩を砕き敷き詰め丸太で叩き砂を敷き詰め丸太で叩きを繰り返し、文字通り整地された土地が完成する。
「如何でしょうか主君!!」
「うん、工事現場のアルバイトさせたいぐらい完璧だな。」
 後は木材をフェアリーランドに突っ込み加工してもらい設計図を悪魔幼女に渡すだけだ。 何処から取り出したのか黄色いヘルメットをかぶって作業着を着た金髪赤眼の幼女はトンテンカントンテンカンと家を組み立てていく。
「完成はどれぐらいかかる?」
「主君!!申し訳ない。明日中には完成出来そうですが、今日は……」
「いや、全然いいよ!俺はちょっと散歩してくるから続けて」
「御意」
 正直野宿だろうが関係無い。 自由すぎる。ただそれだけが幸せでしかない。ダラダラしてしばきまわされる事も無ければ、怒られる事もない。
 そのまま鬱蒼と茂る密林地帯で剣技を惜しみなく使い切り開いて行くと大きな木の麓で膝を曲げて落ち込む緑色の少年が見える。
「ゴブリンの子供……?」
 好戦的で最弱の魔物、ゴブリンは此方の気配に気付くも落ち込んだまま虚ろに下を見ている。
「おーい、いけるか?」
「……グギギ」
 おーう。何喋ってっかわかんねーわ。
付与式エンチャント・言語理解』
 即座に魔方陣を浮かべゴブリンの少年の肩に文様を刻む。 差し詰め言語理解の刺青と言った所か。
「おい、いけるか?」
「……だからほっといてってば」
「ほっといてって言っても気になるじゃん」
「もう!うるさっ……て…あれ?人間?うわ、うわわわわわわわ」
 俺を叩こうとして顔を上げたと同時に焦り倒すゴブリン君。 いや、わかるわかる。え?なんで?って感じでしょ、はい。 とりあえずそのクロスにした腕はなんだ?そんなんで防御ができるのか?
「落ち着け、大丈夫だ。危害は加えん。」
「いやいやいやいや、絶対嘘だから!人間は俺たちを殺すのが趣味だって爺ちゃんが言ってたから!って………え?なんで言葉わかんの?」
「そういう魔法を使ったからな。」
「え?ええええ?魔法使い??じゃ、じゃあ強いのか??」
「まぁ、それなりには強いと思うが……」
 ゴブリンの少年は恐る恐ると近寄り俺のローブの裾を掴む。
「な、なぁ?それじゃあ、俺に魔法教えてくれないか?強くなりたいんだ…」
「なんで?なんで強くなりたいんだ?」
「それは………」
 根掘り葉掘り聞いて行くと、どうやらここでは集落に分かれたゴブリン達が争いを繰り返しているらしく、このゴブリン少年の集落は奪われてしまったらしい。 それで強くなりたいと。
「うーん、それなら魔法を使わなくても強くなる方法をとろう。」
「そんな方法があるのか?魔法使いのお兄ちゃん!!」
「あぁ、お前を一人前のゴブリンに育ててやる」
 上陸初日、面白そうな遊びを発見した。


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