異世界闇金道~グレーゾーン?なにそれおいしいの?~(仮題

慈桜

第三十五話

 
「つーわけでアルスト、お前しばらく学校休んでロイの酒場で働け」
「ぶぱっ」
 俺の突拍子もない言葉にアルストは鼻からミルクティーを吹き出した。
「ちょ!?え!?」
 無理も無いだろう、シャンスと仲良しになってからは学校楽しくて仕方ありませんなクソリア充野郎に成り下がったゴミクズだからな。
 断りたいかもしれんがこれは既に決定事項、アルストに逃げ場などないのだよ。
「校長先生も喜んで快諾してくれたよ、てゆうか花火師の腕を見込んで特別講師の話を受けてくれたら卒業までの単位もくれると言ってたぞ」
「受けないよ?そんな話受けないからね!?」
 生意気言いやがって。
「まぁ、講師うんぬんはお前の話だからな、俺はなんとも言えんが酒場の切り盛りは決定だ。シクラにも頼みたいんだがいいか?」
「うーん、ワタシもハータル行きたいなぁ……」
 儚げに俯くシクラは最高に可愛いのだがこればっかりは勘弁願いたい。
 こちらも美紅から装備貰ってさっさと帰ってくるつもりだしな、それにロイに聞く話だとハータルのオオエドは和風の着物を来た女性が男性のおっちんをギガンティックにしてくれるお店があるらしいからな。 シクラを連れて行くわけにはいかないだろう。
「すぐ帰ってくるし次は旅行でみんな連れてってやるから我慢してくれ」
「うーん…わかった」
 胸が痛むが背に腹は変えられん。
 これで和風美人にドドスコスコスコできると言うわけだ。
 楽しくなっちゃって抜け出せなくならないか不安だな僕ちん。
 ふへ、ふへへへへ。
 ごほん。
 話を戻そう、金翼の戦闘機も昨日の夜にふらつくぐらい魔力ぶち込んで来たからな、いつでも飛べる準備は整っている。 後は面倒ごとに巻き込まれないようにしなければなと考えているとアルストがムスっと頬を膨らませている事に気づく。
「なんだアルスト、なんかあるのか?」
 問いに視線を合わせないように薄ら笑いを浮かべた後にまた沈んだ顔に戻り小さな声で話し始める。
「なんもないよ…ただ、来週から夏休みでシャンス達と山でロッジかりてパーティしようって言ってたんだ。それの為の花火とかも考えてるから急いで帰ってきて欲しいなんて思ったりして……」
「諦めろ、来週には戻らん」
 ガクーンと肩を落とすアルストには申し訳ないが我慢してもらう他ないだろう。
 そんなくだらん青春話よりもロイの奴が何を考えているのかが今は重大だ。
 先日の話の中で最後に見せた目は危険な匂いがした。
 もし俺が思っている人物とロイの再戦の相手が同じであれば話がややこしくなる、面倒ごとのご開帳だ。
 だがロイが所有する金翼の戦闘機があれば大方一週間もあればハータルには行ける。
「あぁ、めんどくせぇ」
 シンプルに考えよう、行く、貰う、帰る。
 これに限るだろう。
 結局俺のぼやきは井筒には届かず美紅の夢映画は流れなかったからな、その事を考えれば向こうで暇なく動き回らなければいけないだろうし。
 はぁ、俺の平穏カムバック。
 そしてその願いに反するようにアイツがやってきた。
「あっらぁん、アルストちゃんがなんでカウンターに立っているのぉん」
 ケツを振りまくるガタイMAXのモヒカン野郎、もといモヒカンカマ野郎のリンダだ。
「消え失せろカマ野郎」
 ケツを蹴り上げてやろうと空手家の職能を垂れ流しにしながら胴回し蹴りを繰り出すが案の定地面と抱き合ったのは俺だった。
 目が光った瞬間にこうなる事はわかってたけどね。
「やだサカエちゃん、あのまま行けばホールインアヌスだったわよ」
「頼むから死んでくれ」
 直後ドレスのスカートの中に閉じ込められて剛毛の大根足と女性下着から浮き上がる蛇を見て泡を吹いて失神したのが失敗だった。

 何故なら重大なこの情報を知り得たのは既に翌日の出発の直前なのだから。
「なんだこの惨状は」
 チカーノ風な黒いストライプスーツにハットをかぶった池様なロイは許してやろう、だが何故来るはずのない奴らが勢ぞろいしているのだ。
「おいシクラお前なにしてるんだ?」
「ビクッ!いや、その、それはそのリンダさんがあの」
「口でビクって言うな!ウチの妖精達の癖がうつってるぞ」
 白いワンピースにキャリーバッグを転がして麦わら帽子なんか被りやがって。 しかも安っぽいピアスとかブレスレットとかどうしたんだこいつ。
 今から行くのはラスベガスの巨大版みたいな狂った街に行くのにバカンスに行きますな格好はないだろう。
 って妖精達は!?
「シクラが来ちゃったら妖精達はどうするんだよ」
「よくぞ聞いたのさかえー!」
 俺の問いに返事するように赤髪のトンボ羽の子が八重歯を光らせながらシクラの胸元から顔を出すと同時にシクラが魔法光に包まれる。
「「「「「せーのっ」」」」」
 まぶしさに目を閉じた後に薄く目を開けるとなんとも言えない虹色の羽衣のようなドレスを纏い蝶の翅を生やしたシクラが立っていた。
 目を丸めて何が起こったのか状況を整理しようとしたが混乱が続くばかりだ。
「なんか、妖精ちゃん達が女の一人旅は危ないから妖精器になって守護してくれるって言ってくれたの…ですよ」
「一人旅じゃねぇよ!?」
 ワケがわからんがこれぐらいは予想の範疇だ。
 まだいいとしよう。

「で?お前は?アルスト」
「いやぁ…なんかリンダさんに呼ばれて……あは、あははは」
 空気を読んだのかは知らんが派手なパステルカラーのネクタイをしたスーツベストスタイルなのは何処まで言っても貴族としてご立派だと言ってやろう、だが!
「何故シャンスとその他学友がいるのだ、それに飽き足らず校長まで!!」
 待ってましたと言わんばかりに校長が前に出る。
 そして深々とお辞儀をした後に威厳のある声色で静かに話し始める。
「これはこれはサカエ様、ご安心ください、私は生徒の見送りに来ただけですから。その間、今回の課外授業にはコイツが特別に教師として引率しますんで」
 校長がそう言って手のひらを向けた先には今回の事件の首謀者がドヤ顔で立っていた。
 怪物リンダだ。
「どういう事か説明してくれるんだろうな?流石にちょっと切れそうなんだがな」
「あら、男は生理が来ないからって血の気が多いのはいただけないわよん、まぁわたしにも来ないけどな!!」
 何故かリンダは突如アーノルドになる。 某グラップラー漫画のお父さんが喰っちまうぞ!!と叫んだ時のような熊のポーズだ。
「こんな面白いイベントにロイと二人で愛の逃避行なんて見逃さないわよ!!」

 はぁ。
 もう色んな意味でアウトだ。
 思い通りにコトが運ばなくなり出すと案外どうでも良くなるんだな。
 まぁ、いい。 出だしがこれじゃ先は思いやられるがココからひっくり返すのは難しいだろう。
 こいつら全員カジノで負けて詰まりまくってくれないかな? そしたら少し気分もマシになるんだがな。
「仕方ないな、乗れ。その代わり事件に巻き込まれようが全財産使い果たそうが自己責任だぞ?」
 俺が折れた事に歓声が上がる。
 ここは一つ学生達の好感度を上げておこうか。
「魔法学校の生徒諸君、初めましてな子もいるだろうが俺が巷で有名なパンツヒーローのサカエだ!」
 ここでクスクスと笑い声が聞こえはじめる。
「アルストがいつも世話になってるようで感謝する!!これから行く国はハメを外しすぎてしまうような国だが大いにハメを外してくれ!!そして大いに成功して大いに失敗して泣いて笑って成長してくれればいいと思う」
 生徒達ならずシクラもふんふんと頷いているのを見て笑ってしまうが少し決めすぎるのもこの場合はありだろう。
「さぁ、諸君!!ちょっと大人な修学旅行の始まりだ」


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