異世界闇金道~グレーゾーン?なにそれおいしいの?~(仮題
第二十八話
極大の火球がサカエを襲う。
だが、当の本人はその場に立ち尽くすだけでなんら変わりは無い。
突如現れた黒い魔力障壁が全てを喰らったのだ。 そして豪炎が消え去ったその場には上半身裸で手を翳すアルストの姿があった。
「良かった!!うまくいった!!」
アルストがやってのけた事は簡単な技術では無い。 空気中の魔素を魔力に変え続ける特性を生かし莫大な魔力を消費し同等の火玉を展開、そして反魔素が喰らいつく瞬間に合わせて消失させる。
それを感覚でやってのけたのだが、傍目に映るは魔力障壁をはったようにしか見えないだろう。
「アルスト!!なんでこんな所にいるのぉ?」
「避難は終わったからね、手伝いに来たんだけどサカエさん大丈夫?」
アルストの問いにリンダは数回首を横に振る。
「空をあんな物騒にした途端固まってしまったのよ、サカエちゃん!サカエちゃん!!」
完全に無防備な状況を好機として糸田は攻めるかと思ったがゆっくりと後退りを始める。
「なんで!?そんなのおかしいだろ!何処まで恵まれたら気が済むんだ!!」
錯乱する糸田を無視してリンダがサカエの肩に触れたと同時だった。
『我の力の行使を邪魔するのか?』
見開かれたサカエの目は漆黒に染まっていた。
「さ、かえ、ちゃんなの?」
『我を殺す程の男の中はさぞ楽しいと思うたが、やはり我に間違いは無かった』
黒目に染まり上がったサカエが手を翳すと果てなく空を埋め尽くしたマグマが黒い鉤爪に変わる。
『して、そこの人形師よ。我が楽しみにしておった花火を台無しにした代償はいかにして払う』
「ま、まって下さい黒眼龍様!!私はあなたに一度剣を授かった事があります!!何かの思し召しだったのでは」
『ほう、あの仮想世界で剣を授けた人形師、そうか。お前あの時我の目を潰した人形師か』
「ひっ、ひぃぃ!!!」
『まぁ、生きていなくとも関係はないしの。殺すか』
目を黒く染めたサカエが鉤爪を振りかぶると同時にアルストはその手を止めた。
「黒眼龍様?で、いいんだよね?黒眼龍様が決める前にサカエさんに決めさせてあげてよ」
黒い瞳に縦に割れる漆黒のスリットがアルストを睨みつけるが、アルストは涼しい笑顔を返す。
『ほう、我に臆さぬか』
「爺ちゃんが言ってたんだ。花火好きに悪い奴はいないって」
『くく、くははは!!そうか!!それでお主は鍵を咥えた狐と玉を咥えた狐を両肩に彫ったか』
「知ってるの?」
『知ってるも何も鍵屋と玉屋をこの世界を創る時に連れて来たのは我じゃ、ここは理想郷だったのだ、あの偽神が現れるまでは……』
「それ、僕が聞いていい話なの?」
『あぁ、我の意思が宿るこの体の男にも伝えておけ。あの数値化された仮想世界と言う名の地獄にて我ら十二神龍は無限の苦痛に苦しめられたがお前らのおかげで魂を分散させて帰る事が出来たとな。そして仮想世界で我を討った140と余名に再度忠誠を誓わせるか殺すかをしろとな、さすれば如何様な願いでも叶えようと伝えておけ』
「難しいけど、伝えておくよ」
『なればあの偽神が起こした世界の改変に少しだけ抗わせてもらおうか。人形師、お前はもう良い、好きにするがいい。だが、我の力の片鱗返して貰うぞ』
「そ、それだけは!!それだけは!!」
サカエの目が一層黒く染まると糸田の体から黒く光る玉が抜け出す。 そしてその玉をサカエは躊躇いなく喰らい飲み込む。
『ふむ、まだまだ顕現には足りんのう。アルストと言ったか、花火屋よ』
「うん、そうだよ」
『サカエと言ったか、この体の主にこれも伝えておけ。くだらん怒りなどの感情に飲まれるぐらいなら食い破ってくれるとな、そしてこれは我からの餞別じゃ、死ぬなよ』
そう言った直後に鉤爪は小さな宝石となる。 そしてその宝石を強引に喰わせると同時にアルストは意識を失い地に伏した。
『ふん、良い花火師になると良いのう』
♥︎♤♦︎♧
薄暗い何も無い空間で僕は目を覚ました。
音も無く風も無く熱も無い。
立ち上がってみても地に足も付かない。
すると一面に果てのない仕掛け花火が打ち上がる。
その花火の美しさは今までに見た事が無い程に美しく、そして儚い一瞬の煌めき。
『千景・百花繚乱』
「花火師が辿り着く最高峰の職技だ」
振り向くと隣には鍵を咥えた大きな狐が居た。
「鍵屋様」
『ほう、博識だな小僧。あの山の石像を見た事あるだけではなさそうだな』
僕が生まれ育った辺境の大自然レザーウィリアの守り神様だ。
辺境伯家の元の始まりは代々続く花火師の家計。
戦花火のレザーウィリアと言えばスペルダルではかなり有名だって事は学校に行ってから知った。
父上はあまり花火師の才能は無かったようだけど、お爺様は一味違う。
魔力切れで一ヶ月入院するのを引き換えに自分の限界を越えた花火を構成しまくるイかれたお爺ちゃんだ。
そんなお爺ちゃんはいつも二言目には言っていた。
鍵屋と玉屋の高みに登る者はおらん、と。
絶大な魔力と花火構成の早さがピカイチの派手好きな鍵屋。
そして技術力、構成力がズバ抜けていてガラス細工が光輝き儚く散るかのような様を思わせる美しい花火の玉屋。
この父鍵屋と娘玉屋は互いを高め合い世界を二分する程の花火師へと成長していく。
そして生涯の技を出し切ったのがレザーウィリアでの大花火。
今だ誰もなし得た事の無い、千の花火を千の景色に映し出す千景・百花繚乱。
そして、意思を持つ花火を構成し十二の龍を空に昇らせたあの。
『千景・雲起龍驤』
刹那。
頭の中でイメージし続けたそれとは遥かに次元が違う花火が目の前で打ち上げられた。
十二色の龍が互いを威嚇しあい天に登る様子は圧倒的な美を追い求めた末の至高だと理解出来た。
世界を埋め尽くす百花繚乱と天に昇る12の昇竜。
僕は涙が止まらなかった。
夢にまで見た最高の花火をこの目で見たのだから。
『泣いていらっしゃるの?そんなによかったのかしら』
玉を咥えた細身の狐が妖艶な声で僕に問いかける。
「玉屋様ですね」
『そうよ、よろしくね』
鳴り止む事の無い無限の花火の中で、鍵屋様と玉屋様と対峙する。
そして、鍵屋様が沈黙を破る。
『黒眼龍にはお前を試せとしか言われていない、力になってやれと言えば逆らわんのにな』
『でも花火が好きなだけで花火が打てるわけではないのではなくて?』
両者の会話だが、ここで割って入る必要が僕にはある。
「僕は、僕の夢は!!鍵屋と玉屋を越えて世界に名を轟かせる花火師になることです!!」
『ほう、小僧大きくでたな』
『嫌いじゃないですわ』
その直後に世界は暗闇に戻った。
『ならば魅せてみよ、命を計りにかけ我らを納得させてみよ』
『ここはあなたの心の中、とても世界一を目指す花火師の心の中とは思えませんわ』
『玉屋の言う通りだ、お前の心の中は花火の終わった後の静けさによう似とる』
ここが俺の心の中。
こんな何も無い空間が?
そう思い返すと小さな頃に見たお爺ちゃんの花火が上がり始めた。
『ほう、確かに美しい花火じゃ、だがこれはお前のではないのう』
『あまり舐めないでね?ここを燃やせばあなたは消えていなくなるのよ?』
玉屋の逆鱗に触れたのか一面が焼け野原になると全身が燃え盛るような熱が走る。
そうか….この世界では僕の思い通りになるのか。
なら遠慮はいらないな。
『お前の命が尽きるまで楽しませてもらうぞ』
『もっとも私達を尊敬してる時点で答えは見えてしまっていますわ』
「だまれよ鍵屋玉屋、僕の17年間の大花火を見て腰を抜かすなよ」
千景・夢想
だが、当の本人はその場に立ち尽くすだけでなんら変わりは無い。
突如現れた黒い魔力障壁が全てを喰らったのだ。 そして豪炎が消え去ったその場には上半身裸で手を翳すアルストの姿があった。
「良かった!!うまくいった!!」
アルストがやってのけた事は簡単な技術では無い。 空気中の魔素を魔力に変え続ける特性を生かし莫大な魔力を消費し同等の火玉を展開、そして反魔素が喰らいつく瞬間に合わせて消失させる。
それを感覚でやってのけたのだが、傍目に映るは魔力障壁をはったようにしか見えないだろう。
「アルスト!!なんでこんな所にいるのぉ?」
「避難は終わったからね、手伝いに来たんだけどサカエさん大丈夫?」
アルストの問いにリンダは数回首を横に振る。
「空をあんな物騒にした途端固まってしまったのよ、サカエちゃん!サカエちゃん!!」
完全に無防備な状況を好機として糸田は攻めるかと思ったがゆっくりと後退りを始める。
「なんで!?そんなのおかしいだろ!何処まで恵まれたら気が済むんだ!!」
錯乱する糸田を無視してリンダがサカエの肩に触れたと同時だった。
『我の力の行使を邪魔するのか?』
見開かれたサカエの目は漆黒に染まっていた。
「さ、かえ、ちゃんなの?」
『我を殺す程の男の中はさぞ楽しいと思うたが、やはり我に間違いは無かった』
黒目に染まり上がったサカエが手を翳すと果てなく空を埋め尽くしたマグマが黒い鉤爪に変わる。
『して、そこの人形師よ。我が楽しみにしておった花火を台無しにした代償はいかにして払う』
「ま、まって下さい黒眼龍様!!私はあなたに一度剣を授かった事があります!!何かの思し召しだったのでは」
『ほう、あの仮想世界で剣を授けた人形師、そうか。お前あの時我の目を潰した人形師か』
「ひっ、ひぃぃ!!!」
『まぁ、生きていなくとも関係はないしの。殺すか』
目を黒く染めたサカエが鉤爪を振りかぶると同時にアルストはその手を止めた。
「黒眼龍様?で、いいんだよね?黒眼龍様が決める前にサカエさんに決めさせてあげてよ」
黒い瞳に縦に割れる漆黒のスリットがアルストを睨みつけるが、アルストは涼しい笑顔を返す。
『ほう、我に臆さぬか』
「爺ちゃんが言ってたんだ。花火好きに悪い奴はいないって」
『くく、くははは!!そうか!!それでお主は鍵を咥えた狐と玉を咥えた狐を両肩に彫ったか』
「知ってるの?」
『知ってるも何も鍵屋と玉屋をこの世界を創る時に連れて来たのは我じゃ、ここは理想郷だったのだ、あの偽神が現れるまでは……』
「それ、僕が聞いていい話なの?」
『あぁ、我の意思が宿るこの体の男にも伝えておけ。あの数値化された仮想世界と言う名の地獄にて我ら十二神龍は無限の苦痛に苦しめられたがお前らのおかげで魂を分散させて帰る事が出来たとな。そして仮想世界で我を討った140と余名に再度忠誠を誓わせるか殺すかをしろとな、さすれば如何様な願いでも叶えようと伝えておけ』
「難しいけど、伝えておくよ」
『なればあの偽神が起こした世界の改変に少しだけ抗わせてもらおうか。人形師、お前はもう良い、好きにするがいい。だが、我の力の片鱗返して貰うぞ』
「そ、それだけは!!それだけは!!」
サカエの目が一層黒く染まると糸田の体から黒く光る玉が抜け出す。 そしてその玉をサカエは躊躇いなく喰らい飲み込む。
『ふむ、まだまだ顕現には足りんのう。アルストと言ったか、花火屋よ』
「うん、そうだよ」
『サカエと言ったか、この体の主にこれも伝えておけ。くだらん怒りなどの感情に飲まれるぐらいなら食い破ってくれるとな、そしてこれは我からの餞別じゃ、死ぬなよ』
そう言った直後に鉤爪は小さな宝石となる。 そしてその宝石を強引に喰わせると同時にアルストは意識を失い地に伏した。
『ふん、良い花火師になると良いのう』
♥︎♤♦︎♧
薄暗い何も無い空間で僕は目を覚ました。
音も無く風も無く熱も無い。
立ち上がってみても地に足も付かない。
すると一面に果てのない仕掛け花火が打ち上がる。
その花火の美しさは今までに見た事が無い程に美しく、そして儚い一瞬の煌めき。
『千景・百花繚乱』
「花火師が辿り着く最高峰の職技だ」
振り向くと隣には鍵を咥えた大きな狐が居た。
「鍵屋様」
『ほう、博識だな小僧。あの山の石像を見た事あるだけではなさそうだな』
僕が生まれ育った辺境の大自然レザーウィリアの守り神様だ。
辺境伯家の元の始まりは代々続く花火師の家計。
戦花火のレザーウィリアと言えばスペルダルではかなり有名だって事は学校に行ってから知った。
父上はあまり花火師の才能は無かったようだけど、お爺様は一味違う。
魔力切れで一ヶ月入院するのを引き換えに自分の限界を越えた花火を構成しまくるイかれたお爺ちゃんだ。
そんなお爺ちゃんはいつも二言目には言っていた。
鍵屋と玉屋の高みに登る者はおらん、と。
絶大な魔力と花火構成の早さがピカイチの派手好きな鍵屋。
そして技術力、構成力がズバ抜けていてガラス細工が光輝き儚く散るかのような様を思わせる美しい花火の玉屋。
この父鍵屋と娘玉屋は互いを高め合い世界を二分する程の花火師へと成長していく。
そして生涯の技を出し切ったのがレザーウィリアでの大花火。
今だ誰もなし得た事の無い、千の花火を千の景色に映し出す千景・百花繚乱。
そして、意思を持つ花火を構成し十二の龍を空に昇らせたあの。
『千景・雲起龍驤』
刹那。
頭の中でイメージし続けたそれとは遥かに次元が違う花火が目の前で打ち上げられた。
十二色の龍が互いを威嚇しあい天に登る様子は圧倒的な美を追い求めた末の至高だと理解出来た。
世界を埋め尽くす百花繚乱と天に昇る12の昇竜。
僕は涙が止まらなかった。
夢にまで見た最高の花火をこの目で見たのだから。
『泣いていらっしゃるの?そんなによかったのかしら』
玉を咥えた細身の狐が妖艶な声で僕に問いかける。
「玉屋様ですね」
『そうよ、よろしくね』
鳴り止む事の無い無限の花火の中で、鍵屋様と玉屋様と対峙する。
そして、鍵屋様が沈黙を破る。
『黒眼龍にはお前を試せとしか言われていない、力になってやれと言えば逆らわんのにな』
『でも花火が好きなだけで花火が打てるわけではないのではなくて?』
両者の会話だが、ここで割って入る必要が僕にはある。
「僕は、僕の夢は!!鍵屋と玉屋を越えて世界に名を轟かせる花火師になることです!!」
『ほう、小僧大きくでたな』
『嫌いじゃないですわ』
その直後に世界は暗闇に戻った。
『ならば魅せてみよ、命を計りにかけ我らを納得させてみよ』
『ここはあなたの心の中、とても世界一を目指す花火師の心の中とは思えませんわ』
『玉屋の言う通りだ、お前の心の中は花火の終わった後の静けさによう似とる』
ここが俺の心の中。
こんな何も無い空間が?
そう思い返すと小さな頃に見たお爺ちゃんの花火が上がり始めた。
『ほう、確かに美しい花火じゃ、だがこれはお前のではないのう』
『あまり舐めないでね?ここを燃やせばあなたは消えていなくなるのよ?』
玉屋の逆鱗に触れたのか一面が焼け野原になると全身が燃え盛るような熱が走る。
そうか….この世界では僕の思い通りになるのか。
なら遠慮はいらないな。
『お前の命が尽きるまで楽しませてもらうぞ』
『もっとも私達を尊敬してる時点で答えは見えてしまっていますわ』
「だまれよ鍵屋玉屋、僕の17年間の大花火を見て腰を抜かすなよ」
千景・夢想
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