異世界闇金道~グレーゾーン?なにそれおいしいの?~(仮題

慈桜

第十六話

  意識に潜られて気を失っていたシクラを家に送り届けた。 こんなイケメーンな行動してるのにおっぱいがあたってるおっおっおってなった事は一応報告しておくが幻滅はしないでくれ。 むしろ正常だと考えて欲しい。 いや、この際異常だと思われた方がやりやすいか?
 話しがそれたな。
 一先ず、これからのプランを練ろうと思う。 テアトロと呼ばれているこの国に送られた楔自体は俺の中では餌になれば御の字ぐらいの感覚だ。 当然人外と言うぐらいだからレベルでは俺より遥かなる高みにいると考えてもいいだろうから気を抜けば足元を掬われる事は理解しているつもりだ。
 問題は根本の原因となった家畜の糸田をいかにして誘いだすか…後回しにするべきなのか…。
 絵描きと軍師の職をセットすれば恐らく答えは見えるだろう。 大陸同士のいざこざを纏める事が出来る程の連動スキルだからな。 けど俺は攻略本片手にRPGはしないタイプだ。 ロールプレイするからこそだろ? ここは俺なりのやり方でやらせてもらう。
 じゃあまずは軽い挨拶でもしておこうか。



 翌日。
 家のベッドに昼下がりの太陽の光が射し込み暑さと眩しさんい眼が覚める。
「わーおきたよー!」「さかえおきたー!!」「クッキーちょうだい!!ねぇクッキー!!」「角砂糖でもいいよ!!」「蜂蜜がいい!!!」
 以前軽く話した妖精達が寝癖にぶら下がってくる。 赤髪、青髪、黄髪、緑髪、紫髪とそれぞれ違う色の髪色以外は見分けがつかない小さな妖精達は虹色に輝く綺麗な4枚の薄い翅で宙に浮いてる為に重さは感じないのだが五重奏がうざい。 で、甘い。 匂いが甘すぎる。 ケーキ屋かってぐらい甘い。
 こいつらは天真爛漫ではしゃぎまわる元気っこタイプでダンスと歌が得意だ、こいつらによく似た光る蝶のような翅のおとなしい子達もいるんだが、おそらく俺がプレゼントした妖精の楽器工房で寝ているのだろう。 普段はコクコクと頷くだけの蝶翅の子達が楽器工房を見た瞬間に「「「「「フォオオ!!!」」」」」と叫んだからな。 おそらくと言うより確実にあそこにいるはずだ。
 起きたてに巡る妖精の甘い香りをおかずに冷えた牛乳を飲み干す。 500mlはあるだろうが関係無い。 日本の頃のチビの俺はこれが習慣だからな、言わば朝飯はチチである!だ。 どうでもいい話だが、ここテストにでます。
 妖精が勝手に開けないように厳重に閉ざした食物庫を開けてクッキーと角砂糖と蜂蜜を大皿に盛り付ける。 後、ピンクと紫色の蜜花フェアリアを山盛りに盛り付けた皿を横におく。 いわばこの花が俺達日本人の主食の白飯であるように、妖精の主食のようだ。 繁殖力が強く一年中咲き誇る事から、料理、雑貨、染色等なんにでも使える多様性と万能性に優れる事から市場で何処にでも売ってる。
 でも…。
「いやぁあ!!フェアリア嫌い!!!お菓子だけでいい!!」「苦いよう。青臭いよう」「そう?蜂蜜つけたらおいしいよ!!」「古風!!古風すぎるよ!!」「べぇぇぇ捨てちゃえ!!」
 これである。
 蝶の子達はかわいいんだよ? フェアリアはむってしてパンパンに膨らんだほっぺた両手でおさえておいしいーって顔するんだから。 逆にお菓子はあまり食べないけど。 まぁ家の妖精事情なんてどうでもいいわな。 出かけようとしたら、いやいやされて全身にまとわり付いて来たが屋上の扉を開けるとショボンとして帰っていった。 今度遊んでやらなきゃな。
 闇市、露天でフェアリアをまた買占めて家の近所をぶらぶら歩く。 俺が欲しいのは噂話し、まだ時間が早いのか…それとも緘口令が敷かれてるのか。
 さて、まずは近場にある夜は酒場、昼間はカフェ的な所に来てみる。 話し相手でも見つかればいいなとカウンター席に座り込むと騒がしかった店内が静まり帰った。
「お兄ちゃん、その席は年中リザーブなんだよ…悪いが一つ横にずれてくれないか?」
 眠そうな髭面のイケメーンなマスターにそう言われても俺が座りたい所に座って何が悪い…いや、正直に言おう。 恥ずかしいのだ。 一見さんで暗黙の了解を破る、最悪だ。 しかしこうなっては恥ずかしいばかり、強がるしかないだろう?
「悪いなマスター、俺はコーヒーを目の前で作る所が見たいんだ、予約席かも知れないがその人が来るまで許してもらえないか?」
 髭面のマスターは鼻で笑い遠い目をする。
「あいつと一緒の事言うか…いや、そこのお客さんはこの時間ならもういるんだよ。察してくれ」
 完全にやらかしましたと。 これ馴染みの客がお亡くなりになりましたパターンだよな。 素直に認めよう。
「そう言う事なら悪かった」
「すまんね、なに飲む?」
「コーヒーを頼むよ」
 冷凍庫なんてないだろうから氷はないだろう。 アイスコーヒーが飲みたいんだが仕方無い。 そんな事を考えながら席を横に移ると電流が走った錯覚に襲われる。
 俺はいつの間にか深層の意識下に焼き付いた記憶に従ってここに来たのかも知れない。 この席からの風景、そして幾度と流れる映像。
 ここに毎日座っていたのはラクシールだ。
 ローブを目深く被ったシクラがいつもここでラクシールの夢を聞いて頷いていた場所。
 ソコに禿頭の筋肉ダルマが肩を組んでくる。
「兄ちゃん、見ねぇ顔だが?一人か?」
「あぁ、そうだ、見ての通り一人だよ。最近近場の屋上に移り住んでね、挨拶回りでもしようかなって所さ」
「ほう、じゃあおめぇが噂のチェスの駒のポーンの一つからビルをとったって噂の?」
 やけに噂が早いな。
「あぁそうだ。交渉したのは俺じゃないがな」
 その瞬間おっさんは俺の両脇を持って向き直らせガバッと熱い抱擁をかましてきやがった。
「ちょ!!離せって!!なんで?誰得だよ?!」
「お前か!!お前だったんだな!!シクラールをネオスラムに連れて来てくれたのは!!!よくやった!!よくやったぞ!!」
 その瞬間店の客達が大喝采を挙げ祝砲だと言わんばかりにエールを頼み始めた。 二日酔いに鞭を打って倒れる者や勢い余ってグラスを割る者。 これがまさに粉砕!玉砕!大喝采!だろうか?
「兄ちゃん…あいつからこの店を聞いたのかい?」
 マスターはそっと囁くようにその質問を投げかけてきた。 ここは素直に言っておこう。
「いや、なんとなくだ」
 だが確かにラクシールとの思い出が詰まった場所だと言う事は今は知っている。 これは本人の口からは聞いていないが心に聞いた事にはならないだろうか? その逡巡の念を顔に出してしまっていたのか、マスターは小さく数回頷くと、どう解釈したのかはわからないがそっと嬉しそうに目を伏せた。
 荒れに荒れた場をさらに荒らす情報がそこで飛び込んで来た。
「てーへんだてーへんだ!!!!!!!ビッグニュースだー!!!」
 そして騒然となる客達に衝撃の言葉が投げかけられる。
「ファルトムント城の外壁一面に赤い文字で殺害予告が書かれたんだ!!内容は第三王子の殺害を成し遂げる為に地獄より馳せ参じる!!サインはキラークラウンの名の横に涙の雫!!あれは間違いなく“J”のおやっさんのサイン、そしてあれを書けるのは!!!!!!」
「あぁ、シクラールだけだ!!今こそラクシールの仇とってやる!!」
「ティアードロップには俺の兄貴がいたんだ!!今こそ」
「この日の為に魔物を狩り続けた…死んでも構わない、あの銀糸の操り人形師に一太刀浴びせられるなら」
「俺はシクラールの盾になれればそれでいい」
 え???いやいやいや駄目だからね。 それ書いたの俺だし、何この人達怖い。
 その反応に困っているとマスターは咥えタバコでグラスを拭きながらウィンクを飛ばしてくる。
「まぁ昔からあんな奴等でな、死んじまうんは流石に寂しいからよ…頼むぜ?強えんだろ?」
 お見通しってわけかい。 そしてマスターはまた手を添えて耳元で囁く。
「爪に塗料が残ってる…詰めが甘いってのはそう言う事だよ」
「やかましいわ」

 まぁ、種蒔きには成功したな。 後は水をやりに行きましょうか。


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