異世界闇金道~グレーゾーン?なにそれおいしいの?~(仮題

慈桜

第十五話

  暗がりの中に煌く行灯の明かりに照らされた道を歩きながら、シクラちゃんは俯き加減でだんまりを決め込んでいる。
「あの…シクラちゃん?そのさ、流れ的に銀の糸を使う悪い奴の事教えて欲しいんですけど?そろそろ」
 小さく頬を膨らませるシクラちゃんはこちらに視線を向けるがすぐに反らしてしまう。
「そんな事考えてたなら本気で逃げてました…ボクを気遣ってあんなゲームをしようなんて言ってきたんだろうなって。そんな優しいサカエさんにならボクのとっておきのお店を教えてあげようって…仲良くしたいって思ってたのに」
 恐らくキンメサンマを出してくれたあの炭焼きの店だろう。 知ってるし行ったしプゲラ涙目乙!! とか言ったらマジ泣きしそうだからやめておこう。
「俺はシクラちゃんが考えてるような優しい人なんかじゃない。現にこうしてシクラちゃんに無理矢理借金させたわけだしさ」
「でもそれは復讐の手助けみたいな事を考えてじゃないんですか?ボクの身の上を知ったから…」
「いや、そんな事は無い。金の匂いがしたからだよ」
 もういいからさぁ、尺とか考えてさっさと教えてくんないかな? 確かにシクラちゃんの言う通りの事は考えてる。 でも俺は偽善者だ。 それも間違ってない。 職業柄、縁と円は大事にする方針だからな。 どこにおいしい話が転がってるなんかわからない、ならあの手この手で色んな釜の蓋開けてみない事には話にならないだろう?
「もう!!無理なんですって!!!正直…嬉しかった…かっこいいって思った…けど相手はそんな次元じゃないんです!!人の領域を抜けた者なんです!!サカエさんがどんなにすごい人でも敵いっこない!!!」
 人の感情の引き出しを全部ぶちまけた。 そんな様々な感情を綯い交ぜにしたシクラちゃんの表情を見て、そして叫びを聞いて納得した。 心配してくれているのだろう、俺は素直にボクの邪魔をしないで!って感じに拗ねてるのかと思ったが、この娘は俺を心配してくれていたと。 極論なめられていると捉えてもいいわけだ。 それは極端すぎるだろうと考えるかもしれないが、あながち間違いではないだろう? 往年のホーストやアーツと居る時にムサシに絡まれてもなんとかなるんじゃないかと静観するだろう? けどそれが爆破に巻き込まれて髪の毛爆発した18ぐらいの得体の知れない少年といる時に絡まれたらどうだろう? バフバフッと叫ぶしか道はないじゃないか。 話しの流れで第三王子が関係しているから規模的には大統領を敵に回すレベルなのかも知れないが、まず何もわからなければ何もできない。
読心能力者サイコメトラーセット・潜水ダイブ
「え?」
 ERO作中では、敵の行動パターンを読み取り命中率を低下させるだけの能力であるネタ職の読心能力者、聾唖のおじいさんから受けれる特別クエストがずば抜けておいしいだけで他は見せ場の無い職だったが、何かとスキルの底上げが起きているこのリアルのERO世界ならどうだろう、答えは簡単だ。
 文字通り俺はシクラちゃんの中に潜った。
 深層意識の海の中、雑念が魚のように泳ぎ、泡の中にはシクラちゃんの人生の映像が流れ始める。
 これまずいな。 気を抜いたら自分の存在を忘れそうだ。
『見ないで…お願い…』
 晴れ渡る快晴の空だった大海原に拒否の雨が降り注ぐ。 その雨の一粒一粒が砲弾に身を削られるような言葉では表す事が難しい感情を巻き起こさせてくる。 能力の使用者だからこそわかる。 ここ・・に潜られて、的確に声を届けれるのは並の精神力じゃありえない。 だからこそ、その精神力があるからこそ、俺は自分の存在が危ういと危惧したのだろう。 逆を言えば自我が弱い奴なら存在を書き換える事すら出来るんじゃないかとすら思える場所だ。
 ここで負けてはいけない。
『だまれ…俺がお前を助ける。全てをさらせ』
 ここでは歯に絹を着せる必要は無い。 思念そのものが意味を成す。 ここでは俺も隠し事など出来ない。 ある程度のロックはかけさせて貰うが伝えたい言葉は本質に変わる。 俺が届けた言葉に大雨は少し勢いを失うが、次は暴風も共にやって来た。
『それでもワタシ・・・はサカエさんを失いたくない!!!』
 その言葉には色恋云々の浮いた感情では無く、誰かを失う事への恐怖心が多分に含まれていた。 自分のせいで、ボクがワタシがあの話しをしてしまったせいで…。 復讐に生きると決めた修羅の心の中はなんて綺麗で美しいんだろう。 この優しさが最後まで俺に答えを教えてくれなかったんだな。 って事はやっぱり。
『お前俺の事なめてるだろ?俺は千職師サカエ、御伽噺の英雄だぞ?』
 俺は自身のガードを外して過去に見てきたEROのオリジナルストーリーのスペシャルムービーの記憶を実体験として投影しシクラの深層意識の中で垂れ流しにした。 そして次第に暴風雨は曇り空へと姿を変える。
『さうざんどますたー様…?』
『あぁそうだシクラ、お前を助ける為に250年前からやってきたんだ、だから安心しろ』
『あり…がとう…サカエさん』
 シクラの感謝の意と共に曇り空は晴れ渡り、大海は姿を消す。 変わりに一つ赤いスペード形の水晶が空間に残った。
 このスペルダル大陸の形と酷似している、死を意味するスペードの形の水晶に込められた思念。
 若干二十歳の女子が何を思い何を見てきたか。
「見させてもらうぞシクラ」
 水晶に触れると同時にフィルムクリップが全身に螺旋のように巡る。 当時のシクラの苦悩、そして週末にだけ食べる事ができたご馳走の焼き魚。 毎日通った喫茶店での二人だけの一時。 シクラは魚が嫌いで、ラクシールが大好きだった記憶。 毎日姉を思い出して泣き続ける日々。 毎夜夢枕に立ち復讐を諦めさせようとするラクシールの幻、自身に作り出した幻想のラクシールに復讐しろと叫び続けられる毎日。 心を壊してはまた繋ぎ合わせての繰り返し。
 そして、憎き相手は。
 ウェステランドを支配する90名の竜王と龍王が四大陸の国々に人外の力を持ちえる子孫を抑止力として送り込むくさびと呼ばれる者達。 そしてファルトムントに打ち込まれた楔は銀糸の操り人形師シルバーパペッター、その名をテアトロ。 仲間の人形師も複数確認されており、銀色の不気味な仮面をしている為に素顔は知られていない…か。
 なんだ…結局助けたいとか言って原因は俺じゃねぇか。 家畜が建国して楽しくやってる分には好きにしろって思ったけどさ。
 こんな優しい女の子が毎日泣きわめくような事すんのはファールだろ。
 今のお前はなんて名乗ってるかはしらん。 けどな、テアトロってのはお前のキャラネームだったはずだ。 確か日本円での残りの貸付は20万。
「糸田、250年分きっちり利息払ってもらうぞ」


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