異世界闇金道~グレーゾーン?なにそれおいしいの?~(仮題

慈桜

第十四話

 期限の五日後を迎えるまでの間、俺は忙しすぎる毎日を送っていた。 一つは必要最低限のシクラちゃんの情報収集。 まぁ、単純にあの乳眼鏡はヤンデレーズ脳筋だと言う事も踏まえて、逃げも隠れもしませんよ、足だけで撒きますよな感じでくるとは思ってはいるんだが、いかんせんこの広い王都でかくれんぼな下りになると6時間は不利だ。
 会話の流れで追いかけっこだよって思い込んでくれてればラッキー、ややこしいのは隠れてたらいけんじゃね?って悟り開くタイプ。 そんなんを踏まえて色々行動パターンをさぐったりとバタバタしていたわけですが。 それよりも大変なのは我が家です。
 まずゲットしたのはいいけどきたねぇきたねぇ。 最後らへんムカつきすぎてブラックホール作って全部捨ててやったわ。 そしてロクザのシステムキッチン。 素晴らしいの一言でした。 鬱陶しいなんて言ってすいませんでした。 すっからかんになった家を何より彩ってくれました。
 屋上の空きスペースに多種多様の工房を広げて、家具作ったり家具作ったり家具作ったり。 はい、すいません。 とりあえず家具ばっかり作ってました。 いやぁ、凝りだすと止まらないもんでね。 ソファやらベッドやら食器棚やらテーブルやら考えたら作ってってしてたら楽しくなっちゃってね、けどテレビが無いのはいただけないわ。
 無駄に寂しいから魔晶石でイルミネーション作ったり、精霊界から妖精拉致って歌わせたり躍らせたり、いや、言い方悪いけどちゃんと報酬払って契約してますからね? そんなこんなしてたらもう5日目なんですけどね、まぁおうち改造計画はまたみなさんに付き合ってもらうとして。 とりあえずシャワー浴びてるんで待っててくださぁいと。
 あっ、シャワーとお風呂も作りましたよ?勿論。 火の魔石と浄化の魔石で巡り続けるタイプの24時間風呂ね。 配管とかめんどくせぇって方にはお勧めですよ、異世界に行かれた際には是非って。
 テンション空回りで誰に喋ってんのかわかんねぇわ!!!
 なんだこれ!!!
 とりあえず日も暮れ始める頃だし、シクラちゃん狩りといきますか。
 そんなこんなで意気揚々と商業ギルドに立ち寄ると…。
「あれ?シクラなら体調不良で早退しましたけど?お約束していたのでしたら私の方で御用件お伺い致しますがいかがなさいます?」
 パターンBで来ました。
「あっ、大丈夫です。大した用では無いので改めます」
 あのシクラめぇん、中々ふてぇ野郎だな。 俺が本気と書いて追い込むと読む意味をあの乳に叩きこんでくれよう。
『獣装士セット・ビーストアップ・パターンウルフ』
 これは単純に獣人化スキルだ。 俺は今狼の獣人に変態したわけだが、勘違いが無いように違う言い方もしておこう、変身したわけだ。 とりあえずお察しの通り単純明快に乳眼鏡の匂いを辿ろうと思う。 と、待て。 あいつの匂いの付いた物が無いではないか。 どうすればいい、このやらかした感。 しかも説明していなかったが、下の平民街なら獣人は特に珍しくもないんだが、商業ギルドの貴族街では当然のように希少種だ。 明らかに不法に侵入した奴を見る目で見られてしまっているんだが…。
「うぅん、とりあえず逃げるか」
 スキル電光石火でとりあえず一目から離れた所で変態を解除する。
 クソ、やらかしただけじゃないか。 能力的に便利すぎるのも玉に瑕だな。
 けど、基本的にシクラが行動している下町まで来れたので良しとしよう。 いつもならこの小さな立ち飲み屋街で酒も飲まずにアテとお茶でチビチビとやってる筈なんだが、今日はいないだろう。 早上がりしてまでの気合の入りようだ。 もしかしたらこの近辺にすらいない可能性も高い。 けどありえるのか? シクラはこの立ち飲み屋で焼き魚を食べるのが生き甲斐的な節がある。 いくら状況が状況でも人間サイクルの一つは中々崩せないもんだ。 聞いてみるか。
「あのぉすいません、商業ギルドからの使いなんですけどシクラ来てません?」
「え?シクラなら今日は夜に来れないからって昼間に焼き魚食べていったけどな」
「あぁ、そうなんですか!!そのお魚ってまだあります?職場でシクラが良く自慢するもんだから食べてみたくて」
「あるある、今日は確かキンメサンマだったな、すぐ焼くから待ってくんな。なんか飲むかい?」
「くぅぅ、お酒飲みたいんですけど…仕事中なんで」
「しゃあねぇわな、次来た時は飲んでくれよ!!」
「はい!!是非!!」
 うんま。 そら毎日通うわな。
 まぁそれにしてこれで匂いはゲットしたわけだ。 胃袋の匂いじゃなく、あの炭で焼いたキンメサンマと店の香りが付着した人物をしらみっつぶしにあたる。
 いつもならどんな長丁場でもここだってとこにいつまでも張り込むんだけどな、今日は時間制限設けちゃってるからあの手この手で行かせてもらう。
『獣装士セット・ビーストアップ・パターンウルフ』
地図製図士マップドロワーセット・水見地図・連動・嗅覚探査』
 その昔こんな裏クエストがありました。
 虹色魔石をあしらった香水の蓋をカラスに盗まれた、探して欲しいと。 まず一般的には開放されない条件のクエストなのでプレイヤーの怒りを買う事は少なかった、しかし条件を満たしていた俺ですら言ったね。
 ふざけるなと。
 はじめは街のマップを事細かに起こして画面の色彩が変わる形での嗅覚察知で徐所に範囲を狭めてもなお見つける事は叶わなかった。 だってわかるわけないじゃん。 ジョブによっては連動させる事ができるとか。 ドラッグして重ねるとか意味わかんなかったね、運営の悪意を感じたよ。 おかげで今ではありとあらゆる組み合わせを知る事ができたからいいんだけどね。
 説明が長くなったけど、この連動によって、条件化に当てはまる人間が地図上にリストアップされてなおGPSのように表示し続けてくれる。 世界がリアルになったから立体で更にわかりやすいのは嬉しい誤算だけれども。 水見地図は空気中の水分を使用した地図である的な説明文は読んだ事があるけど、実際に使ってみるとすごい。 ミニチュアの王都が立体映像化されて頭の中に映し出されるのだから。
 数名リストアップされている中でもこれは間違いなくシクラだなって言う人影を見つけた。 時の鐘の屋根の上に座っている人物だ。 こんな急斜面な屋根に普通に座っていれるなんて普通じゃありえないし、まず普通の人間そんな所にいないよね。
 そうとなったら後は捕まえるだけだ。 千の職が火を噴くぜ!!!!
 ビーストアップしたままに街道を駆け抜ける。 行きかう人々の悲鳴も今は聞こえないふりをさせてもらおう。
「見つけたぞぉぉぉぉぉぉ」
「ひゃうっ!!すごい!!よくわかったね」
 驚いた顔を浮かべ数瞬硬直はしたものの小さく笑いを浮かべ、すごいすごいとシクラはただ拍手をするだけだ。 俺の中ではこれからがパターンA、本気のおいかけっこの始まりだと思っていたんだが。
「え?逃げないの?」
「うん、ここがばれたらボクの負けって決めてたからね」
「へぇ、諦めがよろしいこって」
 シクラはうんと頷きおなじみの革鞄とは違うリュックから以前に渡した金貨入りの袋を渡してくる。
「今は金貨50枚用意できないや…」
 まぁこうなるんだろうなとは思っていたが。
「いやぁそれは困りましたねシクラさん、なんだったらこの100枚の中から50枚金利で貰って残り50枚は元金返済に充てて貰ってもいいんですがそれだと5日後にはまた25枚用意して貰わなきゃなくなる」
 シクラは寂しそうに笑うと小さく首を傾げる。
「それ本気で言ってるの?」
「そう言うゲームのはずだったからね、こっちとしても安くないリスク背負った分の見返りが必要だろ?普通の奴ならこんなとこに隠れられたらゲームオーバーだからね」
「そっか…結構えげつないね」
「褒め言葉だよ、払えないってんなら家族に追い込みかける事になるけどどうする?」
 この言葉が禁句だって事はわかってる、でも仕方ない事だ。 コレが俺の取立てキリトリなんだから。
 その言葉を飲み込んだ後に下唇を噛み締めながらシクラはボロボロと大粒の涙を流す。
「…どい、ひどいよ、その家族がいないことしってて…」
「家族がいない!?なんてこった!!俺は回収にしくじった事が無い、にも関わらずお客さんに実は家族がいなかった…そうだ、そうだった!!聞いていたんだった!!それなのに俺はシクラさんに貸付をしてしまった!!これは俺の落ち度だ!!だが、金利は発生してしまっている。なんとかしなければならない!!なんだ!!!!簡単な話しじゃないか!!ならば家族を奪った相手から切り取りするしか道はないじゃないか!!!」
「え?」
「さぁシクラちゃん、債権回収と参りましょうか」

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