異世界闇金道~グレーゾーン?なにそれおいしいの?~(仮題

慈桜

第十一話

  身分証の発行が済んでから予定通りに商業ギルドへ向かった。 今回は商業ギルドのお姉さんが迎えに来てくれていたので追いかけられる心配が無かったので一安心だ。
 ただ問題は迎えに来てくれたお姉さんである。 スラッとしたスーツに浮かぶ抜群のスタイルにくすんだ色の金髪のロングヘアーに大きな茶色の瞳、薄いピンクの唇。 まずいぞ、タイプすぎるぞ。 ストッキング破って頭突っ込んで回転したい。
 え?俺は何を言っているんだ?
「サカエさん?どうかしました?」
「あ、い、いえ、何も、何もありませんよ」
 くそ、なんぼや?って言いたい。 金を目の前に積み上げて屈服させたい。 しかしそれをする事によって折角仲良くなったゴーウェンさんとの関係が…。 世知辛い、世知辛いかな異世界よ。
 カランコロン。
 いつのまにかギルドに到着していた。
「おーい!!待ってたぞサカエぇぇ!!ユミルもご苦労さん!!」
「うん!!パパ、時間だから今日はもう上がるね?」
「おっ?もうそんな時間か!!お疲れさん!!」
 なん……だと!? あの綺麗なお姉さんがこのゴリラの娘だと?
「どうしたサカエ?この世の終わりみたいな顔して」
「いえ、なんでもないですよお父さん」
「いつからお父さん?ねぇ?俺いつからお父さん?」
 クソ、一目惚れを取り消したい。 こんな奴が父親とかやり辛いったらありゃしない。 けど俺はあんな残念ヤンデレーなシュカより、ユミルちゃんをヒロイン枠に推薦するぜ? ユミルちゃんがとんだアバズレだったとしてもな。
「今なんかおめぇからすげぇ失礼な感じがしたんだがな?」
「気のせいだろ、そんな事より旧金貨を見てくれお父さん」
「わたさねぇよ?ユミルはわたさねぇよ?」
 その後案内された部屋でテーブルの上に旧金貨を積みあげていくと次第にゴーウェンの顔色が変わる。
「おい、これ程度がいいなんてもんじゃねぇぞ?ほぼ未使用じゃねぇか…こりゃいったいどんな価値がつくかわかんねぇぞ…おい、鑑定回せ」
 オラクルをつけた鑑定のおっさん達がうんうんと頷きこちらに向き直る。
「全て本物ですね、ここまで程度のいいものは初めて見ましたが、間違いなく黒眼龍が存在していた時代に発掘されていた純度100%の龍金です」
「おめぇサカエ、こりゃすげぇぞ?精々知れたもんだと思ってたが、ここまでの物になると金貨100枚なんかじゃ済まねぇかもしれねぇ、この時代の金貨はある日を境にこの世界から姿をくらませたなんて言われててな、噂によれば千職師が全部隠しちまったなんか言われてよ?現代では富と力の象徴だなんだ言われて、貴族や王族がコレクションしちまうせいで価値が当時の数万倍になってる、ここまで程度のいい旧金貨だとどんだけの値がつくか」
「まじか、けどいっぱいあるから言ってた値段でいいよ、目立ちたくないし」
「欲のねぇ奴だな」
 その千職師は俺なんですなんて口が裂けても言えないしな。 確かに全サーバーで一番ゴールドは持ってただろうけど、あの世界に流通していたゴールドなんて正直な話し無限にあった。 それがたかだか250年程度で希少価値のある物に変わっている。 何故だ? 可能性としては、シリーズ1からこの世界にきた家畜含むウチのメンバーが所有していた旧金貨のみが現状流通している状態だとしたら説明はつくよな。 シリーズ2以降は金貨のデザインが変わったのだとしたら辻褄は合う。 上野支店のメンバーが建国したのだって…いや、聞いてみる価値あるな。
「スペルダル大陸最南端の国ってさ、旧金貨となんか関係ある?」
「よく知ってるな、あのウエノは千職師と共に黒眼龍を討ち取った精霊魔導師と八賢者が旧金貨をばら撒きながら建国した国だ。今現在わかっている千職師の数少ないルーツの一つの国と言われている。なんでそんな事きいたんだ?」
「いや、俺が金貨を見つけた所にさ、アサクサ、ウエノ、イケブクロ、シンジュク、シブヤって書いてあってウエノって国あったよなぁなんて思ってさ」
 嘘だけどな。 ウチの支店があった場所だ。
「ほう、それは歴史的発見かもしれないな、何処にあるんだ?」
「それが消えたんだ。跡形もなく」
「消えた?」
「嘘だと思うならコルツ子爵領を調べるといい。俺はそこで旧金貨を見つけて爆発に巻き込まれて気付けばこのファルトムント王国の近くに転移していた。不思議体験の真っ只中ってわけだ」
 全部嘘だけどな。 けど辻褄合わせには丁度いいだろ。 ガチで山吹き飛ばしちまったしな。
「コルツ子爵領ってここから4ヶ月はあるぞ?そんな距離を転移しただなんて…もしや千職師のアーティファクトか何かが発動したのかもしれないな」
「まぁ、なんとか旧金貨は回収できたから結果オーライって感じだけどな、まぁそんな事情もあって目立ちたくないわけだ。察してくれ」
「なるほどな、折角見つけた遺産を難癖つけて取られたくもないだろうしな」
「そう言うこった」
 理解力のあるゴーウェンのおかげで波風立たずに換金は済んだ。 ここで目の色変えてって王道な展開にならなかったのは助かった。 なぜか無用心だがゴーウェンには話してしまう。 ある程度やってしまったなって部分は嘘で都合のいいように変えてはいるが、こうも自分の口が軽いとは思わなかった。
「で、これからどうすんだ?」
 そこにヒールが打ち鳴らす足音が響くのを扉越しに聞いているとくもりガラス越しにユミルのシルエットが見える。
「あぁ、すまない、聞いていなかったよ。お父さん」
「わたさねぇよ?ユミルはわたさねぇよ?」
 暫く漫談を続ける中でゴーウェンに不動産を紹介してもらう流れになった。
「買うんじゃなくて借家がいいってなんでだ?」
「まぁ一応コレでも色んなとこ移り歩いてるからさ、いらぬ波風たっちまって居心地悪くなるって場合もあるだろ?一応旧金貨なんて代物持ってるような奴だし、そう考えたらすぐに動けるようにしたいってのもあるわな」
「あぁ、そう言う事か、まぁ用心深いに越した事はないわな」
 シュカっていう戦争しましょう娘に追われてるなんて言えないしな。 上出来だろ。
「じゃあもう少ししたらウチの不動産関係の者が来るから適当に決めてくれや、金はたんまり持ってるからぼったくっとけって言ってあるからな」
「わかった、そのかわりいい家探させてもらうよ」
 がははとゴーウェンは高揚に笑った後、俺の肩を優しく2回叩いてから退室していく。 そして見計らったかのように革の鞄をもった男が部屋に入る。
「失礼しまうっ」
 嚙みやがった。 こいついきなり嚙みやがったぞ。
「アストラウド様よりご紹介に預かりました不動産事業部のシクラです、早速ですが、どのようなご住まいをお探しですか!?」
 うん、訂正。 どうやらこの栗色のショートカットで牛乳瓶の底みたいな眼鏡かけてる不動産屋、女の子ですね。 よく見たらスーツのシャツの胸元はちきれそうです。 チビでボーイッシュでありながら眼鏡巨乳…うん。 これはこれでいいのかも知れない…。
「あ、あのぉぉ?ボクの胸になんかついてますか?」
「あぁ、それでボクっ娘は予想の範疇だ」
 家探しの戦いの火蓋が切って落とされた。


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