異世界闇金道~グレーゾーン?なにそれおいしいの?~(仮題

慈桜

第六話

 目を覚ますと、見知らぬ老人が杖で俺の頬をグリグリしていた。
「え、えぇ?ちょっ、あの」
「おろ?目が覚めたか??」
 気だるい体を起こすと更に追い討ちをかけるように頬をグリグリとされるがそんな事より目の前の風景が問題だ。
「ちょ、もうやめて」
「ふぇっふぇっふぇ」
 空は満点の星空であるのに周囲一体が昼間のように明るい。 その明るさを作り出しているのは手の平大の大きさの光の羽虫達だ。
 そしてあれを俺は知っている。 EROに登場する光の妖精グリッターフェアリーだ。
「起きんからワシが守ってやってたんじゃぞい感謝せい、この寝腐れ坊主が!!もっとも日が暮れる頃にはグリフェが集まってきて勝手に守ってくれていたがのう」
「ずっと寝ていたんですか?」
「あぁ、ずっと寝ておったよ、朝からずっと。初めはワードックに全身嚙みつかれておったから死んでると思ったんじゃがな、グースカ寝ておるからたまげたわい」
 おい、致命的じゃねぇか、なんで生きてんだよ俺。 って言うか、まさかまさかと思うけど…ココってもしかして。
「なぁ爺さん、ここどこだ?」
「ん?まだ寝ぼけておるのか?ここはスペルダル大陸最北端ファルトムント王国に属す村、イシカ村じゃ、お前ら古代種の言い方をすればスペードの最北じゃ」
 わーお……嘘だろ?
「ステータスオープン、アイテムボックスオープン、スキルツリーオープン、ジョブツリーオープン…はははは、嘘だろ…」
 俺だ、まごう事無きEROのサカエだ。 落ち着け、落ち着け俺。 確か黒眼龍の討伐を成功させた直後に画面に巨大な龍の瞳が映し出されて…。 そこから記憶が無い。 あれは洗脳系の映像だったという事か? 今実際に体験しているかのように感じる目の前の世界は作り物?
 幻覚?幻?
 それにしてはリアルすぎないか?
「なんじゃやっぱりお前迷い人か?」
「迷い人?」
「ふむ、5年前にも一人この村に来たんじゃが、お前のように道端に寝ておってな、似たような反応をしておったよ。古代種の操り手との融合とかなんとか言っておったな、意味はわからんかったが」
「そ、そいつの名前わかるか?」
「あぁ、暫くウチの村で男手として働いてくれてたのでな、忘れるに忘れられんよ。マサツグ・ニシオカ。蒼く煌く青龍の鎧に身を包んだ…サムライじゃったかな、変わった剣士じゃったが…知り合いか?」
「マサ…うん、知ってる。俺の大切な部下だ」
 その言葉を聞いて老人は高揚に声を上げて笑う。
「するとお前がサカエか?」
「え?あぁ、そうだが」
「そうか、そうか!!がっはっは!マサの野郎、馬鹿な奴じゃ!!あいつは4年前、お前を探す為にここを旅立った。だが、探し人はここに現れた。なんと滑稽か」
「あ、あいつが何処に行ったか聞いてないですか?」
「あいつは迷い人を探し続けておる。このスペルダル大陸におる間は手紙を寄越して来ておったが、今は恐らくウェステランドじゃろうな、黒眼龍がかつて住まった渓谷に何かある気がするとよく口にしておったからの」
 まじか。 マサが来たのが本当に5年前だとするなら、この夢は覚めない夢だと考えたほうがいいだろう。 いや、正直信じれないだけでわかってるはずだ。 俺はEROの世界に紛れ込んだのだと。
「ワシが子供の頃、口の動かん古代種達がよく言っておった。光の妖精の森に横たわってる奴はNPCかプレイヤーか。半透明で攻撃も通らない、なんなのだと。わしは毎日通ったが見る事は出来なかった。エヌピーシーやプレイヤーの意味を知ったのはマサが来てからじゃがな、何かがおるんじゃろうと通い続けて、やっと現れたのがお前じゃ」
 このシワクチャの爺が子供の時から寝てた? どう言う事だ? それに黒眼龍がかつて住まったってかつてって事は、この世界には黒眼龍がいな いって事か?
「なぁ、爺さん、黒眼龍がいたのっていつだ?」
「ふぉっふぉっ、マサも同じ事を聞いておったわ。黒眼龍が千職師と共に黒眼龍を討ったのはこれより250年前じゃ、今となっては御伽噺の世界じゃよ」
 誰か応援を頼む。 俺は今混乱しているようだ。 至急応援を頼む。
「まぁ、こんな所にいても始まらん、ワシの家に来い。ばあさんの作ったスープとパンがあるからな。腹ごしらえをして湯浴みでもすれば少しは落ち着くじゃろ」
「あ、たすかります」
 戦闘特化のマサなら転移する呪文も無いし、金も俺に預けてたから転移アイテムも買えずにウェステランドまでの道のりは険しいモノとなっただろうけど、俺ならすぐ行けちゃうんだけど、多少放置でいいよな? 少し腹減ってるし、腹が減ってはなんとやらだろう。 けど、それにしてもおかしいよな。 いくらなんでも道中でそれぐらいの金は貯まるだろ。 ゲームにはあるまじき広大なマップを誇るEROの大陸を数年かけて横断するとか頭がお狂いになられたとしかいいようがない。 そこで考えられるのが何点か出てくる。 一つは転移石が売られていない。 コレは町売りは分からないが、有料のオンラインショップを開けばわかるだろう。 問題は開けるのか、買えるのか…だが、問題ないな。 ただショップがエナジーリアクトオンライン1から6まであるんだが…。 1のショップはお馴染みのショップだ、いつのまに5作も続編が出たんだ? 考え出したらキリが無いな、よし次だ次。 1の使いなれたショップを開くと転移石×100のセットが普通に300.00JPY、300円で売られている。 ここで一つ不安がある。 俺名義のクレジットは生きてるのか、それと、事務に頼んでたWEBマネーへの換金でストックしていた金は残っているのか…。
 答えは生きていたし金もあった。
 日本では時間がすぎていないって事なのか? ならば何故知らないショップがある。 バグか?バグなら嬉しいバグだが。 謎は深まるばかりだが、まずは金が使えると言う事はマサも転移石を手に入れる事は簡単だったはずだ。 なのに数年はスペルダル大陸に居た。 って事は転移でウェステランドに行けなかったって事にならないか?
 即座にメニューウインドウを開きテレポートをクリックする、するとウェステランドと黒眼龍の渓谷が表示されるが灰色の文字になって選択できない。
「やっぱりか」
 行った事のない場所には転移できない。 まさにそれだ。 アバターの俺は行った事があっても現在の俺は行った事が無い。 そういいたいのだろう。 それならばマサの無謀な行動には説明がつく。
 頭の中を整理しているとソッと頭を撫でられた。
「っ???」
 目の前には小さなおばあさんが優しい笑顔をむけている。
「さぁ、めしあがれ」
 テーブルの上には黒いパンと湯気がたつスープが並べられていた。 考え込んでしまっていたのだろう。
「いただきます…」
 結論は震え上がる程にうまかった。 黒パンは硬くてまずいんだろうななんて思っていた自分を殴りたい。 やわらかくなった野菜達の出汁と絡みあうと黒パンは覚醒する。
「うますぎる…」
「ふふ、まさちゃんもそう言って沢山食べてくれたよ」
「これだけおいしかったら納得です、いくらでも食べられる」
「ありがとう、お世辞でも嬉しいよ」
 お世辞だなんてとんでもない。 本当に数年ぶりにメシにありつけたようなそんな感動が全身に巡る。
「まさちゃんが造ってくれたお風呂があるからゆっくり浸かって今日はおやすみよ」
「あいつが風呂を造ったんですか?」
「えぇ、村の為に建築士の職を選んで一年修行してからね、いつかはボスであるサカエさんの家を建てたいと言っていたけど」
 はぁ、あいつは何処まで俺を崇拝しているんだか。 ずっと剣に関係する職しか取ってなかったのに急に建築関係とか微妙に笑えるんだが。
 まぁ、照れ隠しにそんな事言って、家族の温もりを知らないマサがこの爺婆に恩返しがしたかっただけってのも十分に考えられるけどな。
 俺はこの世界においては他の追随を許さない程万能だ、マサが恩返ししたのなら俺が更なる恩返しでこの老夫婦を豊かにしてやるのも吝かではない。
「じゃあお風呂よばれます」
「どうぞ、ゆっくり浸かるんだよ」
「おい、サカエ。マサの寝巻きだからデカイかもしれんが、一応持っていけ」
 爺はそう言って奥から古びた麻の寝巻きを持って来るが俺は小さく首を横に振った。
『裁縫師セット・衣類作製クローゼスクリエイト
 エフェクトが発生すると同時に寝巻きが完成する。 以前は一覧の中から選び魔力消費で衣類を作成するスキルだったが、今発動してみてわかった。 魔力を対価として作り出せる衣類は防御力補正+10以内であれば、脳内のイメージにより作成できる。 うん、服屋さんできちゃうぜ?
「おおおお、すごいのう」
「しかも俺、家ではパンイチだからね。寝巻きあっても意味が無い」
「そうか、まぁええ。自分の家じゃ思って過ごしてくれ」
「うん!!!」
 おっと、子供みたいな返事しちまった。 仕方ないわな。 あんな優しい爺と婆が居たらそんな感じになっちまうのも。 ウチの顧客の爺と婆は中々狡猾な奴が多かったからな。 新鮮な感じが止まらないだ。 二人共賞味期限は過ぎてそうだが。
「ふいぃぃぃぃぃぃぃ」
 マサが造ったと言う風呂はお世辞にも褒められたようなものではない。 けど、五右衛門風呂ってのが味があっていい。 全身に湯が浸透するような感覚に肩の力が抜けていくのを感じると自然と欠伸をしてしまう。 話しの中ではずっと寝ていたような流れだが、普通に眠たい。 メンドクサイ事は明日起きてから考えよう。 案外起きたら北千住の家でした、みたいな事もありそうだしな。
 刹那。
 視界一面が灼熱の炎に包まれた。
「ぼえぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!」
 風呂用の離れごと吹き飛ばす高火力の呪文だ。 こんな深夜になんだっての?
 触った感じとんでもないアフロになった全裸の俺。 ドッキリにしてはひどすぎるが…あまり村の人達には歓迎されていないのだろうか。
「黒眼龍の系譜を継ぎし古代種よ!!我の火炎魔法で塵に変えん!!!!」
 なぁ?おっぱい大きい女の子がいるんだが、俺のアンダーバーどっこいしょしてもいいのだろうか?

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