異世界闇金道~グレーゾーン?なにそれおいしいの?~(仮題

慈桜

第二話

 
 はじめまして。 ご紹介に預かりました矢沢栄一です。
 この業界ではサカエと名乗っています。 一応偽名的な?感じなのかな、小さい時からこのあだ名だったから逆に病院とかで名前呼ばれても気付かなかったりします。
 さて、自己紹介はコレぐらいにしておこう。 簡単な話しは聞いたと思うけど、俺の生業としている事はとても人様に褒められたような事じゃない。 本業は金融関係で、他にも色々な仕事をしている。 金融関係と言っても法外な利率で貸してる高利貸し、所謂ヤミ金と呼ばれる職種だ。
 俺は正直こんな仕事さっさと辞めてしまいたい。 父親の黒い英才教育の賜物で幼少期より法律や抜け道の勉強をさせられ、法改定前に出来た犯罪、改定後にできなくなった犯罪など一般的には何の役にも立たない知識を引き篭もりの俺に叩き込んできたせいで、何となくイケるイケないの線引きがわかってしまう。
 経済事法、経済犯罪の逮捕歴とこの職業はダイレクトに直結する。 どんなに才能があろうと、どんなに崇められようと5回逮捕されればゲームオー バーだ。 心証ゴミくず、情状酌量の余地皆無。 一発懲役、求刑MAX。
 俺の父親である、矢沢正義は名前に土下座しろと言いたくなるような事件で逮捕された。 それが5回目の逮捕だった。 中国人の窃盗グループに財布を盗ませて、警察のふりをして電話をかける。 そして女の役者が銀行員を演じてクレジット番号やキャッシュカードの暗証番号を聞き出し、翌日に中国人の出し子がATMに走る寸法だ。 当時は法改正前であった為に一度の取引で500万は降ろせたし、振込みは上限がなかった為に荒稼ぎしたと言う。 逮捕前にお袋に金を預けたまま逮捕されて手切れ金として貰いましょうと数億の金を守り抜いた末にゲットした強かな母が俺の金主である話しはおいといて、結局その事件が5回目の逮捕で親父はこの業界から足洗って今では毎日パチンコしてる。
 それを見て閃いた。 5回逮捕されてやろうと。 そうすればこの世界から抜け出せるんだと。
 ただ親父に貰った顧客リストを抱える店舗を簡単に下手打ちましたごめんなさいと焦げ付かせるわけにはいかなかった。 わざとじゃない、致し方ないと思わせる逮捕劇を演じる他無い。
 そのおもいっきりが良くなかった。
 18の時から始めたこの稼業、おかげさまで8年間無事故無違反、どうやらセンスと才能の塊だったようです。 本当にありがとうございました。
 そんな環境に甘んじて生きるしかない情けない俺がゲームの世界にのめり込むのは必然だったのかも知れない。
 あの世界なら仲間達と熱く本気で生きられる。 あの世界ならみんな笑顔で出迎えてくれる。 あの世界なら無理して自分を偽らないでもいい。
 そして気付いたらおかしな事になってた。
 表の顔はMMO、ENERGY・REACT・ONLINE。 エナジーリアクトオンライン、通称EROの上位ランカー、裏の顔は都内大手闇金グループの会頭。
 うん、おかしいよね。 表もクソもないよね。 あぁおまわりさん、もっと取り締まって下さいよ。 もう傘下グループまで数えたら何人いるのかわからない組織になっていますよ、ケツ持ちのヤクザが潤っちゃいますよ。
「はぁぁぁぁ」
「どうされました?サカエさん」
「いや、早く帰りたいなって」
「ははは、まだ家から出たばかりですよ、今日の回収が終わったら新しく追加されたMAPに幹部みんなで行きましょう。みんな楽しみにしていますよ」
「あぁぁぁぁ、もっと帰りたくなってきた」
 パッと見るだけでは裏の世界の住人とはとても思えない青年、清潔感のある黒髪の短髪に高級ブランドのスーツをやらしくない着こなしで身にまとい、薄い笑みを浮かべながら黒塗りの国産車のハンドルを握る。
 俺の運転手でもある西岡正嗣にしおかまさつぐ通称マサだ。 初めはお客さんだったんだけど、いつの間にか従業員になって今では俺の運転手にまで上り詰めた裏社会の出世を絵に描いたような男だ。
 なんでも俺のキリトリ(債権回収)に愛を感じたとかなんとか、鳥肌がボツリヌスな事を平気で話す変な奴なのだが。
「で、今日のお客さんは?」
「いえ、回収の際には車で待っていてもらえれば大丈夫です。今日は全店舗からの集金があるので来て頂いただけですので」
「ふぅん、なんだ回収できなくて困ってるのかと思った」
「ノウハウは叩きこまれているのでご安心を」
 そう言ってマサはゆっくりとブレーキをお踏み込み、新宿のパチンコ屋の前に車を止めた。 優しく一礼をしてきたので笑顔で返すとマサはパチンコ屋の中に消えて行った。
 数分後、キャップを斜めにかぶった大学生が背中を丸めながらマサの後ろについてきている。
 そして促されるままに助手席に乗ってくる。 マサは首をクイっと動かしただけであって乗れとは一言も言っていない、大学生は自発的に車のドアを開けて車に乗り込んだのだ。
 少し震えながら大学生はマサの方へ向き直る。
「ごめんなさい!明日まで待ってください!!お願いします」
「高田さん…貸したのたかだか5万円ですよね?ジャンプも難しいですか?」
「ごめんなさい…明日になればジャンプは出来る分の仕送りが来るので」
「困りましたね…GO!GO!ファイナンスは5日5割とお話しましたが、今日待つとなると明日はイチゴの金利がかかってしまうんですよ、ですから明日まで待つとジャンプは5万円になりますけど…」
「そんな…」
 高田と呼ばれる大学生は顔が真っ青だ。 なぜ大学生の彼がウチのような法外な会社を使うのか…答えは簡単で、将来の経歴に傷をつけたくないそれなりの大学に通ってる坊ちゃんだからだ。 一人大学生の顧客を捕まえるとネズミ算式に顧客は増える。 そして詰まれば甘い罠を仕掛ける。
「じゃあ特別に誰かウチで借りてくれる人紹介してくれたら元金加算で5日後まジャンプまちますよ?」
「ほ、本当ですか?紹介してくれって奴何人かいるんですよ!!助かります」
「いえいえ、お互い様ですから。もし何人か紹介して頂けるなら高田さんの元金も勉強しますんで」
「ありがとうございますありがとうございます!!」
 一段落と言った所で本来なら終了となる所だが…ここで俺の待ったが入る。
「はいストップー!まず高田さんはアルバイトか何かされていますか?」
 高田は数秒俺を見つめた後にマサに視線を移す。
「私の上司のサカエです」
 それに納得したように背も小さくガリガリの寝ぼけたような身なりの俺に対して表情を引き締めなおす。
「いえ、今はパチンコで生活しているような状態です…」
 正直でよろしい。
「それならば今の借金苦に悩まされている状態はつらいでしょう。どうですか ?割のいいアルバイトがあるんですが、見学だけでもしてみるのは」
 その言葉に高田はゴクリと音を立てて生唾を飲む。
「いや、しかし学校の事もありますし、とても非合法な事には…」
「あはは、心配しなくても大丈夫ですよ、ただゲームをするだけです。オンラインのRPGでモンスターを狩るだけです。素材をNPCのショップに売れる金額の10%をJPYに換算してお支払いしますよ。スライム1匹5円ぐらいで考えて貰えれば10万円ぐらいすぐに稼げると思いますけど?」
「そんな話しが…」
「あるんですよ、そんな話しがね」
 家畜。 俺がアルバイトと称した仕事につく者たちの通称だ。 EROでは初心者支援と称したレアアイテムとレベルアップ支援アイテム等が配布されており、その価値は俺のようなヘビーユーザーからすると垂涎モノの一品だ。 サイバーポリスの活躍でネットショップでのRMTリアルマネートレードは衰退したが、カードショップやオフ会などでカタログを渡すアナログな販売屋にスターターセットを卸すと2万円近くとかなりの額になるほどに価値が高い。 販売額は4万円程になるのだから更に驚きだ。 転売目的の奴が増えないのかって? 月額1966円の一年契約をしなければ貰えないスターターセットを売って2万円でも損をするだけだからな。 個人売りで3万で売っても8000円ぐらいの儲けだし、更に詐欺のリスクだってある。 あんまりいい商売にはならないのさ。
 それなら真面目にプレイして生計を立ててる奴なんてごまんといるのだからその方が上だ。 IOSを運営非公認のバージョンに変えればゲーム内でJPY(日本円)の取引もできてしまうのだから、暗黙の了解とはまさにこの事である。
 金で家畜を雇ってもなお利益が生まれるのだから笑いが止まらないのである。
「ぜひ紹介してください」
「了解した、じゃあ夕方に連絡するから時間潰しておいてよ、なんだったらほらお小遣いあげるからジャグでも打ってさ」
 指で弾いた2万円を拾い上げる姿を横目に車は走り始めた。




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