異世界闇金道~グレーゾーン?なにそれおいしいの?~(仮題

慈桜

第三話

 
「また家畜を増やすのですか?」
「うん、だって夢物語でしょ?ゲームしてたら金貯まるんだよ?しかも絶対元取れるし」
「しかしですね、アイテムを換金するのはいいですが、対立ギルドが力をつける事も考えてくださいよ?買取はあいつらがしてるんですから」
「わかってんよ、スターターのガチャで創世の錬金釜が当たれば言う事無いのにな…」
「あれは恐らく嘘ですよ。性能が壊れてますから」
「じゃあなんで創世錬金術のジョブがあるんだよ!!」
 ジリリリリリリリ、ジリリリリリ。 話しの最中に俺の鞄の中から黒電話の着信音が響き渡る。
「うおう、どの携帯が鳴ってんだよ!!!」
 1ページ8台収納のファイルに詰め込んだリンゴ社のスマホを見ていくと3ページ目で着信中のスマホを発見する。
「あっ、ラッキー、北さんだ!はいもしもぉし」
『あぁ、サカエさん?今月分渡したいんだけど今どこ?』
「今新宿ですよ?北さんは?全然いきますよ?」
『あぁ、助かるよ。じゃあ池袋なんだけど来てもらえる?』
「池袋ですね?東口のいつもの喫茶店でいいですか?」
『話しが早くて助かる、じゃあルノールで待ってるよ』
 北さんは誰もが知ってる大手広告代理店のお偉いさんだ。 で、裏では大手の仕事を横取りする中小の代理店の影のオーナーだったりする。 俺が親父の顔を立てて3000万の融資を月3割で貸した事によって設立した会社は、火の車のように見えて毎月北さんに200万の利益を齎している。 だが3000万の浮いた金が出来るまでには後2年はかかるらしい、多分浪費家過ぎるだけなんだろうけど、だから俺は後1年程は毎月900万の収入が固定している。 早く返せば北さんの月収が1100万になるんですよと何度話しても、サカエさんには恩を売りたいとか何とか。 ありがたい話しですが。
 地下に降りる喫茶ルノールの一番奥に行くと体の大きい北さんがニコっと笑いかけてくる。
「はぁ、待たせちゃいましたね」
 灰皿のタバコが3本以上あるのを見て申し訳なくなりそっと謝ると北さんは高揚に笑った。
「いえいえ、仕事がサボれて助かりましたよ」
 お冷を持ってきた店員にアイスコーヒーを頼み厄介払いすると、北さんはパンパンに膨らんだ書類用の封筒に乱雑に包んだブロックを渡してくる。
「確認してください」
「ははは、紙切れでも怒りませんよ。もう一億近く儲けさせて貰いましたから。早く元金返しちゃえばいいのに、なんか申し訳ないですよ」
「欲が無いですねぇ、いいじゃないですか。それに巷で有名なサカエさんのグループの追い込みをかけられるかもしれない緊張感があるからこそ頑張れてる自分がいたりしますからね」
「はぁ、そう言うもんなんですかね…」
「そういうもんなんですよ!」
 アイスコーヒーを飲みながら雑談に華を咲かせていると、隣の隣のテーブルで新品のスマートフォンの白い箱を4つ積み上げて12万円で買い取っている若い男の姿がある。
「おk、じゃあ12万円ね、後は警察に紛失届け出して保障使って後4台ゲットしたら教えてね、SIMカードもいらないんだったら最終的に一枚2万で買い取るけど?」
「お願いします」
「おk、じゃあコンビニ払いの請求書は2ヶ月分貯まったら指定の住所に送って ね!その時に気持ちだけお金渡すから!そのお金は個人的なモノだから内緒にしてね?それとあとはー、あ、そうだ古いスマートフォン渡しておいてあげるからコンビニでWi-Fi拾ってメールかライナーしてよ」
「は…はい、ありがとうございます」
「悪いことに使うんじゃないんだから安心しなよぉ、そんなつもりないけど、どうしても悪い事に使うってなったら連絡するしもっと大金払うしさ、ソレまでに元金返したら楽になるじゃん!!辛かったらアメックスのゴールドカード作ってあげるからすぐ返せるしさ!!ほら!!元気だしてちん○さん!」
「新保です」
 下品なやり取りだが、綺麗な取立てだ。 正直このご時世、警察行かれたら即アウトだ。 でも借りる側に警察に行く選択肢は無いと思いこませれば勝ちでもある。 個人情報を飛ばさずに扱うやり方は恐怖の中で安心感を持たせる。 そして最終的な手段を使えば楽になれると道筋を立ててあげる事で緊張を解いてやること。
 完全にウチの従業員だ。 色々マニュアルは飛ばしてるけど大筋は通ってる。
 しかも小口の客から3万でスマートフォンを買い取って中華ブローカーに6万で流すのもウチが一番使う手であるし、アメックスの発行もウチが得意としてる手口だ。 まぁ、大口のキリトリからすると児戯に等しいが。
「じゃあ新保さん、またね」
「は、はい」
 おとなしげな新保さんと呼ばれる女性が席をたつ。 恐らく池袋の土地柄的に風俗関係の人なのだろうと予測するが、応対をしていたホスト風な同業者は新保さんの背中を見送るとカツラを脱ぎ捨ててサングラスを外した。
「ちょいちょいサカエさぁん、現場見に来るなら言っておいてくださいよう、緊張するじゃないっすかぁぁ」
「え?美紅ちゃん?」
 ウチの紅一点の美紅ちゃんだった。 ヴィジュアル系な感じの池様に変身するちょっと残念な人だけどウチの幹部の一人だ。 今日は集金日だから役職持ちの彼女達も働いているのだろう。 普段ならありえない光景だ。
「え?偶然ですか?サカエさんまで仕事してるって思って気合入れたわたし乙」
 がっくりと早口で項垂れる美紅ちゃんを見て北さんと笑いあっていると北さんの携帯に着信がはいる。
「おっとどうやら時間のようだ、じゃあ私はこれで。サカエさんまた来月」
「ええ、いつもありがとうございます」
「いえいえ、なんだったら来月からそこの美しいお嬢さんに来て貰っても構いませんよ?サカエさんは本業が忙しいでしょうし」
 きまずいながらにも笑顔を返しておく。
「助かります、なんちゃって。けど美紅ちゃんは池袋の担当なんで本当にたすかりますけどね」
「ははは、こちらとしても頑張れるよ、こんな美人が切り取りに来てくれるならね」
 美紅ちゃんは誰の話しをしてるのかいまいち理解できないとアヒル口を作り方眉を上げながら首を傾げる。 その様子に小さく笑い北さんは踵を返し帰っていった。
「どうだ美紅ちゃん、来月から担当してみるか?雷通らいつうの北さんだ」
「え?あの雷通の?サカエさんなんでそんな人に…」
「俺の担当の大口の一人だよ。月1の回収で900は乗る。手当てで点五でボーナス出してやってもいいぞ」
「45万もくれるんですか?やりますやります!六本木の500万無くなって困ってたんですよ!」
「計算はえぇな、六本木ってあれか、確かキャバクラの安部さんか」
 下積みから事故(逮捕)なくこの仕事を続けてこれてる奴はすぐ評価して大口の客を振ってやる。 これが幹部待遇だ。 美紅ちゃんもこんな簡単なキリトリ何件か回してたはずだ。 やればやるだけ金になる。
 非合法だがこうして生計を立ててる奴を抱え始めると中々に辞めれないのが辛いところだ。
 いつか俺のスマホを一台だけにして朝から晩までEROの世界に浸かりたいのだが。
「じゃあコレ北さん専用ね。たのんだよ」
 スマホ1台900万。 簡単なお仕事です…か。
 大口の客は一つの番号で一人を管理する。 めくれた時警察にばれた時にいち早く対応出切るようにちょっとした保険だ。
 北さんのように仏のような人でもいつ鬼に変わるかわからないからだ。
「了解しましたぁ、じゃあ夕方にまた会いましょう」
「あぁそうだな、場所間違えんなよ」
「わかってますよぉ、北千住の事務所ですよね?なんかあたらしいMAPのウェステの黒眼龍狩りに行くから装備整えとけって言われたけどほんとに行くんですか?」
「そうだ、今日こそあいつを仕留める。じゃああとでな」
「ひょえぇぇ、蘇生薬買い溜めしとこう」
 喫茶店の支払いを済ませると駐車場へ行き、新宿へ戻る。 高田くんを迎えに行くのだ。

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