だんます!!

慈桜

第207話

 
 どうもラビリですこんにちわ。

 相も変わらずちょんまげとジジイがワンパンマ◯ばりの戦闘を続行しているが、俺は本格的には参戦せずに、援護や補助に集中している。

 別に周囲の人間がどうなろうと知った事ではないのだが、ダメージコントロールをせねば日本がダメになってしまいそうだからな。

 閻魔がブラックホールを振り回して信長が空間ごとソレを抉り取ったりして宇宙規模でエグい事態になりそうなことをやったりしたら、即座に俺が補修する。

 なんだこの役回り。

 なんで本格参戦しないのかと言えば、今やっても意味がないからだ。

 俺としては閻魔のダミーコアを全て破壊してから相対したいのだが、信長としては閻魔のダミーコアの全てを破壊するまで、そう長い時間を必要としていないから足止めをしておきたいのだろう。

 一度隠れられては探すのに一苦労するからわからなくもないが、その暇潰しの戦闘で地球をぶっ壊されちゃたまったもんじゃない。

 結果致し方なしに世界の補修工に成り下がったわけだ。

「よく能力バトルとかで、互いにインフレを起こしすぎて、最後は結局殴りあいみたいな事が起こるが、君はどう思うチョンマゲ君」

「HA? しらねーよっ!」

 影巨人が大太刀を振り下ろし潰しにかかるが、閻魔は杖でそれを受け止めながらに笑う。

「正解はどちらかが一方的に優れていないとそんな事態は起こり得ない、だよ」

 閻魔の背後から信長と同じ影巨人が現れ、チョンマゲ巨人とハット巨人が取っ組みあいになったところで、閻魔は周囲一帯の瓦礫を光速で信長へ飛来させる。

 これまた衝撃波の発生に備えて俺が障壁を張るだけの簡単なお仕事です。

「君のように世界式を常に書き換えながらに戦うタイプは、まさにこの世界の神とも言えるだろう。例えばこの杖の一撃をxとして、攻撃力を×∞にするだけで全てを破壊する衝撃波を生み出せる、そんな存在なのだから」

 信長は閻魔に鳩尾を突かれて、アメコミヒーローの一撃でも食らったかのように吹っ飛ばされた後に爆散するが、それは違う時間軸のあいつだ。
 俺を指標にギリギリで転移した信長は機嫌が悪そうに隣で首を鳴らしている。

「いけるか?」

「どちゃくそヤバみ」

 仕切り直しで再スタートだ。
 閻魔は同じ戦い方ができるから自分も神だと言いたいのか、よくわからんが、信長と楽しそうに遊んでいるから良しとしよう。

「ここはヤムラ君の式の影響下にあるから演算もしやすいだろう。だが、それに頼っていては私のような異物を相手取る時には苦労するよ」

「よく喋るじーさまだなぁ。ここは老人ホームじゃないよっての!!」

 それでも信長は馬鹿正直に閻魔を攻める。
 手の内を見せるつもりはないのだろう。
 単純に斬りかかり、殺され、斬りかかりの繰り返しである。

「行動パターンを読み取っているのかい? 私は何千、何万のパターンで行動できる。それは無駄でしかないよ」

「ホワイ? 過大評価サンキューだけど、俺ちゃんはそこまで思慮深くはねぇよ」

「そうは思わないよ。だけど君のような優秀な人材の死体を撒き散らすのも悪手だ。なんて言ったって私は死霊術が本業だからね」

 閻魔の10本の指から紫色のルーンが飛び、信長の死体に宿っていく。
 アレは単純にリビングデッドにしただけであろうが、その素体があのチョンマゲとなると少し厄介だ。

 アンデッドのチョンマゲ達は起き上がると共に信長に襲い……かからずに閻魔に一直線に向かって行く。

「む?」

 どうやら次は搦め手を使ったようだ。
 アンデッドとして活動を始めた自分の分身を即座にアンデッドのまま【殺されていない】ことに書き換えたのだ。

 わかりやすく言えば人のラジコンを別のリモコンで乗っ取る感じか。
 閻魔の操るアンデッドでありながらに自分の意思を持ったチョンマゲゾンビは、自爆のルーンを組み込んで閻魔に特攻。

 おじいちゃんも流石にビックリである。

「多重影分「やめとけ」だめかな?」

 なんか口走りそうになってたから止めとく。
 あの指を十字にする感じもやめさせたいけど、ほっといたらこいつら地球ぶっ壊しそうだから我慢。

「ぶふっ、色々教えたいとか言って得意の死霊術速攻破られちゃってるけどぉ! やばたにえんのザマァ風じじたまぁ? ふはぁっ!」

 このチョンマゲは基本、人をおちょくってないと生きてられないのかもしれないな。
 余裕ぶっこいてた閻魔があからさまに不機嫌になってる。

「そうか、君も使えるんだね」

「うーん、正しくはなんでも知ってる、だな。だんますよりも多分色々知ってるよ。世界のことも、お前のこともな」

「ほう……やはり君は面白いね」

 気になる。
 基本俺は膨大な情報量を一人で処理するのは面倒であるから、コアに丸投げして気になった事は検索するスタイルにしているんだが、こいつの場合は無数の情報を一人で処理するしかないので、俺の知らない事を知っていてもおかしくはない。

 おかしくはないのだが、ダンジョンマスターとしてのプライドなのか、知識が劣っていると言われると気になるしムカつくから不思議である。

 しかし喋りながらに魔法やらスキルやら互いにぶっ放しながらに、殺し合いするスタイルはどうにかして欲しい。

 閻魔の攻撃も一段階ぐらい重くなってるから、一々処理するのもだるくなって来た今日この頃。

 ちょっと隙もある事だし、ちょっかいかけてみよう。

 と言ってもダンジョンの罠を使うだけの簡単な一発だ。

【捕縛】【圧殺】

 単純に全身を特殊な植物の蔓で搦め捕り、迷宮の壁に見立てたビルでサンドイッチにするだけの簡単なお仕事です。

 確かに手応えはあったけど、黒襤褸纏った骸骨のオッさんがブチギレて飛んで来たので信長と場所チェン。
 転移術式は自前で組むのは怠いが、あいつと位置交換するのはいつでもできる。

 待ってましたと言わんばかりにチョンマゲが大太刀をバリーボン◯ばりのフルスイングで迎え撃つと、なんと骸骨さんは周囲一帯を巻き込んでの虚無崩壊を起こす極悪球体に様変わり。

「おわりが見えねぇー」

「ヤムラ君は私がダミーコアを失うまで手を出してこないのだと思っていたよ」

 しれっと閻魔が俺の横でふよふよと浮かんでいるが、

 何か先程から引っかかる部分がある。
 それが何かはわからないが、ずっと違和感があるのだ。

「うーん。てかさ、お前・・だれ?」

「おや? もう気がついてしまったのだね。流石ヤムラ君だ」

 何にも気付いていないのだが、何かが違うのだけわかる。

 ここは何か感覚に微かなバグ、無意識下のノイズのような何かを感じる。

 閻魔が昔ながらのラスボスのように振る舞い、街を破壊しながらに圧倒的な力を見せつける。

 まるで映画のワンシーンを見ているような、そんな感覚。

 それに気がつくと同時に視界は澄み渡り、先程まで原型を留めずに荒野と成り果てていた街並みが、元の美しいコンクリートジャングルに戻る。

 場所は閻魔が座っていたベンチ。

 信長と共に訪れた時には、奴は立ち上がって俺を迎えいれたが、今はただ座ったままに缶コーヒーを啜っている。

「おや、もう気がついてしまったのかい?」

「あれはなんだ? 夢幻か?」

「まさか。あんな未完全なモノではないよ。彼はシェイクスピア。かの有名な舞台作家だよ。能力はifを演じる」

「畏怖? 別に怖くなかったけどな」

「あ、違う。違うよ。もしも、のifね。起こり得た未来を演じる舞台に強制的に立たせる。そんな感じだよ。誰を演じるかを選べるのだけど、彼は迷わず私を選んだよ」

 閻魔は落ち着き払った様子で俺に缶コーヒーを勧めて来たので、一先ずは貰っておく。
 超高級豆のコーヒーも好きだが、缶コーヒーもまた別の飲み物として好きなのは何故だろうか。
 このオッさんの顔面の缶コーヒーは安い癖にうまい。
 そしてパッケージは違えど、ほぼ全て同じ味だ。

 かき氷のシロップと同じ原理かな?

 なんかお気に入りのパッケージだと美味く感じるんだよな。
 たまにクセが強過ぎるハズレもあるが、それが好きだと言う通ぶった人が居たりすると気まずいんだよなって、話が逸れたな。

「それでか。なんか芝居掛かってると言うか、先輩らしくなかったからな。真面目に戦う感じが」

「あはは、失敬だね。私はいつだって真面目に戦っているよ、仮にもそうなり得た未来であるのだからね。ただ今回はダンジョンバトルを会話ついでのボードゲーム程度にしか考えていないのだよ。負けるのは癪だからそれなりに本気で遊んではいるけど、目的は別にある」

「目的? もったいぶらずに言ってみろ。それとも負け惜しみか? 」

「負け惜しみに聞こえたのなら、私の話術もまだまだ捨てたものじゃないね」

 飲み干した缶コーヒーを小さなキューブに押しつぶして、サイコロのように転がすと、コーヒーのオッさんの顔が賽の目となって上を向く。
 一々演出がうざい。

「では、目的を語る前に一から全てを話しておこう。そして君に選択を迫ろう。どちらを選ぶかは君次第だ」

 信長が気になるが、万が一にも負ける事はないだろう。
 ここは素直にこいつの話とやらを聞いてみる選択をさせてもらう。

「で? お前は何が言いたいんだ?」

「なに、そう難しい話じゃない。君は悲劇と喜劇はどちらが好みか問いたいだけだよ」

 同時に閻魔の夢幻が開く。

 その目には黒の下地に赤と金の魔法陣が無数に浮かんでいる。

 視界が切り替わると、虚無の世界に丸い土台が浮かび、四枚の扉が置かれている空間に辿り着いた。

「ああ、長かったよ。君とこうしてこの場に立つまで、本当に長かった」

 そして閻魔は全てを語り始めた。


 ━━━━


 その頃、仮想空間で偽閻魔と戦い続けていた信長は、世界の悉くを破壊し、地球を完膚なきまでに滅ぼした宇宙空間で閻魔の顔面にヒザ蹴りを入れまくっている姿がある。

 髪の毛を両手で掴み、右左右左と交互にヒザ蹴りを放り込みまくっているのである。

 ちょんまげの輩が、白髪の老人にヒザ蹴りの応酬である。

「君、は……」

「喋んなしっ!」

「何故……君は……」

「ムカついちゃったから仕方ないよねぇ?」

 目の前の老人が肉の塊になったと同時に、世界がガラスのように崩壊し、何事も無かったかのように建ち並ぶビル群の前に立っている。

 目の前に転がっている閻魔騎士のダミーコアを当然のように踏み潰すと、信長は頬をボリボリと掻きながらに、押上タワーの定位置へと戻る。

「やっぱ全部壊してから殺そ」

 冷静に先程まで戦っていた閻魔が偽物であったと認識してから、誰が聞いているわけでもなく信長は小さく呟いた。

「マスターが消されたと思ってブチギレちゃったの?」

「はぁ? そんなんちゃうし」

「ふふふ、あははは。心配しないで、ちゃんといるから」

 コアの幻影が目の前で光の粒となって消えて行く。
 コアもラビリも存在しない世界に再び憤りを感じていた信長は、仮想空間と同じように世界を壊してやろうかと不敵に笑っていたが、コアの幻影がそれを止めたのだ。

「もうリーチかかってんのに何処いったんだよ、くされだんますの野郎」

 さすがの信長も、まさかラビリが敵陣のど真ん中に単独で突っ込んでいるなど思いもしないだろう。

「次は地球壊さないように計算しなきゃだな」

 物騒なことを呟きながらに晴れ渡る青い空と視界の限りに続くコンクリートジャングルを見つめながらに目を細める。

 彼はただただ世界の流れを読んで、次は本物の閻魔をぶっ殺すタイミングを虎視眈々と待ち続けるのである。

「おわっ!? ちょマ!」

 そんな中、彼の視界に一条の桃色の光が疾る。
 光は彼が腰掛けていた東京のランドマークを斜切りにし、ズズズと自由落下を開始する。

「姫ぇ……これは流石に怒られちゃうよ? 」

『うるさいっ! あんた嫌い!』

「ワガママなアバズレだ事で大変結構!!」

 犯人は隙を狙い続けていた世界樹である。
 信長が閻魔を狙うように、世界樹もまた虎視眈々と信長を狙っていたのだ。

「くそデブアバズレ植物系ビッチの分際で」

『あーあーあーあー!! なんか酷い! めっちゃ酷いよ!!』

 お遊びの時間は終わりだと言わんばかりに、信長は斬り落とされた押上タワーの先っちょを掴んでは、世界樹に向けて全力で投げ飛ばした。

 タワーの先っちょはジャイロ回転で空気の壁を切り裂きながらに加速し、世界樹に襲い掛かる。

『あいったぁ!!』

「ぶふっ、 ざまぁ!!」

 無数に放たれるレーザーに迎撃されるが、全てを消し尽くすまでには至らず、細長い金属の槍的な物体が世界樹の幹に突き刺さる。

『ちょっと!! なんでオリハルコンの芯が入ってんの!! 馬鹿じゃないの! 怪我したらどうすんのっ!』

「姫ぇ。あんまりワガママ言うとお尻ペンペンだよぉ?」

『ふ、ふん!! じゃあオリハルコンを無効にするだけだもんね! お前なんか嫌いだもんね!!』

「結構結構、コケコケコケェェェ!!
 どうでもいいけど、モモカさんに早く秀吉もどき殺せって言っといてね」

『うるさいうるさい! お前の指図なんか受けないからなっ!』

 手をプラプラと振り返しながらに、了解を示すと信長は姿を消した。
 そこに居るかもしれないし、居ないかもしれない。
 世界樹から認識を外しながらに、自販機でドクぺを買って喉を潤す。

「チェンジできないかな、あの世界樹」

 面倒くさそうに内心を吐露させるが、その独り言も誰にも届かない。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品